凡庸魔法使いと超越能力少女のやっかいごと以上この世の終わり未満の冒険

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第三章 空はだれの物?

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 四人はローテンブレード家代理人を叩き起こし、荷物を引き渡した。封印が壊れている点をあれこれ言われたが、書類の魔宝具は無事にそろっているので結局は受け取りをくれた。

「どうする?」
 ペリジーが馬を引き、空の荷馬車の向きを変えながら聞いた。
「これから宿を探すのも面倒だし、街はずれで粥食らって寝ちまおう」
 マールの提案に皆賛成し、荷馬車を止めて火を起こせる空き地を見つけた。四人ともだれがなにをしろと言う指示もなしに淡々と野宿の準備を進める。火と粥で暖まると、クロウが口を開いた。
「隊長、派遣官との話を。特にトリーについて、どういう取り決めになった?」
「経緯をぜんぶ話した。嘘もごまかしもなし。トリーは派遣官が言ってたように王室が預かる。ローテンブレード家に返すかどうかはあいつらの釈明次第だが、まずないだろう。かなりの欺瞞があるようだし、ブレードのやらかしたことは下手するとお家騒動とみなされかねないしな」
「お取り潰しかよ」
 ディガンは笑った。
「いや、マール、さすがにそれはないだろう。でも、当分は頭を低くしておとなしくしてなくちゃならないのは確かだな」
「じゃ、仕返しとか嫌がらせがあるんじゃない?」
「小僧、怖いのか。でももっともだ。俺はあると思う。しばらくは用心した方がいい」
 マールの顔が暗くなった。クロウがうなずいて言う。
「おやじの言う通りだ。今回の件で俺たちは敵を作っちまった。味方の心当たりはないか」
 見回すが、みんな口を閉じている。さらに言葉をつづける。
「じゃ、マダム・マリーは? ああいう商売をしてるなら後ろ盾はあるだろ。どこの家か知らないか」
「エランデューア家。金貸しの一族だよ。勇ましいとは言えない家だ。それはそうと、大砲さんよ、おまえ、俺たちと一緒にいるつもりか。今回限りじゃないのか」
「おやじさんよ、こうなったのに俺を一人で追い出すつもりかい? すまんが、身の安全を確保するまではくっつかせてもらうぞ」
「ふん、利用したりされたり、か」

 そう言ってマールがくべた小枝がはじけると、皆が同時に黙る瞬間が訪れた。破ったのはペリジーだった。
「ねえ、空荷で帰るのもったいないよ」
 ディガンが笑った。
「そうだな。ペリジー、ありがと。先の心配もあるが、いまの儲けも大事だよな。よし、一寝入りしたら明日は帰り荷探しだ」
「それはいいが、もう変な積荷はごめんだぞ。封印とかないのにしてくれよ」
 マールがおどけて言うと皆笑った。クロウも笑いながら、あれこれくよくよしていたのが馬鹿らしくなった。

 翌朝早く、昨夜の代理人に話すと積荷はすぐ集まった。陶器や金属製の食器類と細工物、それと郵袋が一袋。郵便物を依頼されたのはひとつにはクロウがいたおかげだった。戦闘力を評価されたのだった。大儲けではないが小遣い稼ぎ以上の金銭にはなる。全員ご機嫌だった。
 ただし、郵袋には封印があった。ペリジーがマールをつついて示すと、わざとらしいしかめっ面をして皆を笑わせた。

 昼前、市門でいつものように荷物を改められる。さすがに役人は昨夜とは別人だった。預けた少女について聞いてみたが知らないなと素っ気ない返事だった。
「よし、行っていいぞ。気をつけてな」

 その時、事務所の方から声がした。
「さようなら、おじさんたち。ありがとう。わたしは帝国大学の預かりになりそうです。みなさんもお元気で」
 開け放った窓からトリーンが手を振っていた。服がまともな街着になっていたし、髪が整えられていた。

 ディガンは笑っている。
「おう、お嬢ちゃんも元気でな。落ち着いたら手紙をくれ。マダム・マリーの気付で。役人に教えといたから」

 マールはこぶしを突き上げた。
「体に気をつけてな。たくさん食べるんだぞ」

 ペリジーもにこにこしている。
「勉強ちゃんとするんだよ。元気で!」

 クロウは、なんと言えばいいのか分からなかった。だからほほ笑みながら癖になった軍用手信号で、万事順調、と送った。
 市門を出てから、手信号なんか分かるはずないのに、と思った。
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