凡庸魔法使いと超越能力少女のやっかいごと以上この世の終わり未満の冒険

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第三章 空はだれの物?

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 荷馬車は飛び領地に向かった。着くのは夜になる。これまでの経緯からしてほっと一息つけるという場所ではないが、どの街にも必ずいる王室派遣官が頼りだった。かれらは領地の人や物の出入りを記録し、貴族たちが不審な動きをしていないか、隠し財産を蓄えていないか監視している。その領地を治めている貴族からはあまりよく思われていない役人だった。

「そうなると、洗いざらい話さなきゃならないな。殺人だけが気にかかる。降りかかる火の粉を払いました、で通るかな」
「通りますよ。隊長。証拠はある」
 マールは胸を叩いた。血で汚れた書き付けが入れてあった。
「それなら、一人くらい首つなげとけばよかったね。証言取れるように」
「小僧、しとけばよかったって言葉は使うな。意味がない」
「また隊長のお説教かよ」
「おまえよりは生きてるからな」
「じゃあ、お別れだね」
 ペリジーが振り返ると少女は目を閉じ、荷馬車のかすかな揺れと一緒になって寝ていた。もう荷台に慣れたようだ。

 飛び領地に着いた時、時間が時間なので市門を開けてもらうのに手間取った。しかし入ると一分の隙もなく制服を身につけた王室派遣官が出迎えた。仮眠をとっていた様子などどこにも見られない。
 それともう一人小太りの背の低い男がいた。妙に贅沢な装いをしている。夜中になにを見せびらかしたいのだろう。マールは用心した。なにかある。

「こんばんは。こんな時間にお疲れかと思いますが書類を。よろしいですか」
 ディガンがマダム・マリーの書き付けを渡すと、役人はじっと読み込んだ。こんな書類見慣れているはずなのに、あえて一字一句確認しているようだった。
 ペリジーはトリーンを起こして荷台から降りるのを手伝った。手をつないで隅に引っ込んでいる。
「ローテンブレード家依頼の魔宝具が五つ。分かりました。見せてもらいますよ」
「どうぞ。しかし申しわけないのですが、書類と荷姿が異なっています。道中犬鬼の襲撃がありまして封印が壊れているのです。荷物そのものは無事ですが」
 役人は襲撃を説明するディガンの言葉を背中で聞きながら魔宝具を改めている。
 あの小太りの男はそっとペリジーとトリーンの方に動いたが、さりげなくマールが間に入った。

「確かに魔宝具は無事です。ではこの書き付けにある代理人に届ければ護衛運送任務完了ですね」
 役人がそう言うと、小太りの男が手を上げて注意を引いた。
「代理人まで運ぶのは不要です。わたくしはローテンブレードの者です。魔宝具五つと……」
 トリーンを見た。
「……その少女、トリーン・トリストゥルムを受け取ります。護衛運送ご苦労様でした」
 言葉と同時に書類を役人に差し出した。役人はざっと目を通してからディガンに手渡した。
「これによるとこの人物は正当な受取人のようですが。しかしその少女についてはマダム・マリーの書き付けにはありませんでしたね」
「そうなのです。そこでこの子について派遣官殿にご説明申しあげたいのですが、二人だけで話せるところはありませんか。人聞きをはばかります」
 怪訝な顔の役人に小太りの男があわてて寄った。
「それは無用かと。君たち、雇われの立場で、しかもこのような時間に派遣官殿をわずらわせるものではないでしょう。わたくしがすべて引き受けます。あなたがたは宿にでも泊まって明日早々にお帰りなさい。さ、これは宿代だ。報酬とは別の、わたし個人からの礼と思ってくれていい。ささ、もう終わりにしましょうぞ」
 重そうな小袋を出してきた。ディガンは無視してさっき渡された書類を掲げる。
「派遣官殿、お気づきかと思いますが、この男の書類、紋がブレード家です。わたくしが提出しましたマダム・マリーのはローテンブレード家です。確かにブレード家がローテンブレード家の代理を務めることはあり得ますが、今回についてはそのような書類一枚で引き渡すことはできません。金銀宝石の類ではなく魔宝具と……」
 トリーンを見る。
「……人の子ですから」
 派遣官はここに集っている者たちを見まわし、書類を見比べた。
「分かった。事務所で事情を聞こう。それまでは荷物と子は動かしてはならん。ここに留めておくように」
 そう指示すると、ディガンを連れて部屋に入った。小太りの男は二人の背中を睨みつけた。ペリジーはトリーンを荷台にもどし、荷覆いをかけてやり、三人はそばに立って男の視線を受け止めた。それはあたかも盾のようだった。

 トリーンがまたこっくりこっくりし始めた時、二人が事務室から出てきた。
「お待たせしました。荷物はマダム・マリーの書類にある代理人に引き渡してください。それから、少女はわたしが身柄を預かります」
 小太りの男は口を開け、抗議しかけたがやめ、さっと立ち去った。
 ペリジーがトリーンを揺り起こし、事情を説明している。少女の顔が少し歪んだが、マールも加わって説得している。クロウがディガンを見るとうなずいた。

「ディガンさん、マールさん、ペリジーさん、それとクロウさん、ちょっとの間でしたがありがとう。お粥おいしかった」

 トリーンは派遣官のもとに行った。四人とも笑って手を振った。荷馬車が動き出し、夜中の積み下ろし場に静けさが戻ってきた。
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