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第二章 歪んだ歯車
八
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クロウの額に汗が浮かんだ。それはすぐにくっつきあい、大粒となって顔から首筋に流れた。
次の瞬間、ペリジーをつかんでいた男の足元の地面から、熾火のように透明で橙色の火球が二発飛び出した。一発は頭、もう一発は胸を貫いた。
つかんでいた手がゆるむのを感じた瞬間、ペリジーは走りだした。両手を縛られているので上半身を思いっきりひねりながらだった。それを見たトリーンは引き返す。
向かって右の男は魔法使いで、接近する気を感じたが、強化された火球の速さになにも反応できなかった。手を上げて対処しようとした時にはすでに頭を焼かれていた。奇跡的に落馬せず、馬上に倒れこんで死んだ。馬は気づいていないようだった。
真ん中のとがった顎の男は事態を理解したが、すでに地面が迫っていた。両太ももに大穴を開けられ、落馬して転がっていた。
ディガンとマールが駆け寄ってトリーンとペリジーを助けた。けがはしていなかった。
クロウはがくがくする膝に言うことを聞かせようとしていた。これが限界か。あの子の強化能力でも土の中を通しつつ精密誘導もするのは無理があったみたいだな、と苦笑いしていた。くらくらするが、なんとか意識を保っていた。ここは戦場だぞ、と自分に言い聞かせていた。
「おい、大砲、大丈夫か」
「いや。尋問と後始末はまかせる」
「そうしよう。お嬢ちゃんと小僧のそばにいてくれ」
ディガンはそう言うとマールの肩を叩いてまだ生きている男のところに行った。ここまで聞こえるほどうめいていたが、もうその元気もないようだった。二人は地面に転がしたまま問い詰めている。
クロウはペリジーに合図し、これから起きることをトリーンに見せないようにと頼んだ。ペリジーはうなずくとトリーンを壁の向こう側に連れて行った。
ディガンとマールはとがった顎の男のとどめを刺し、三人の首をはねた。自分の短剣がにぶらないように死体のを使った。これでなにがあったか確かめようとしても、魂を戻す容れ物がないのだから無理になった。死体は目立たないように岩陰に片付け、馬は自分たちのを残し、二頭はどこかに行ってしまうのにまかせた。
「終わったか」
「クロウこそ、もういいのか」
「ああ、隊長はともかく、おやじも手際良いな」
「嫌なこと言うなよ」
ペリジーとトリーンを呼んだ。みんな荷馬車のそばに座った。だれかが火を起こした。
次の瞬間、ペリジーをつかんでいた男の足元の地面から、熾火のように透明で橙色の火球が二発飛び出した。一発は頭、もう一発は胸を貫いた。
つかんでいた手がゆるむのを感じた瞬間、ペリジーは走りだした。両手を縛られているので上半身を思いっきりひねりながらだった。それを見たトリーンは引き返す。
向かって右の男は魔法使いで、接近する気を感じたが、強化された火球の速さになにも反応できなかった。手を上げて対処しようとした時にはすでに頭を焼かれていた。奇跡的に落馬せず、馬上に倒れこんで死んだ。馬は気づいていないようだった。
真ん中のとがった顎の男は事態を理解したが、すでに地面が迫っていた。両太ももに大穴を開けられ、落馬して転がっていた。
ディガンとマールが駆け寄ってトリーンとペリジーを助けた。けがはしていなかった。
クロウはがくがくする膝に言うことを聞かせようとしていた。これが限界か。あの子の強化能力でも土の中を通しつつ精密誘導もするのは無理があったみたいだな、と苦笑いしていた。くらくらするが、なんとか意識を保っていた。ここは戦場だぞ、と自分に言い聞かせていた。
「おい、大砲、大丈夫か」
「いや。尋問と後始末はまかせる」
「そうしよう。お嬢ちゃんと小僧のそばにいてくれ」
ディガンはそう言うとマールの肩を叩いてまだ生きている男のところに行った。ここまで聞こえるほどうめいていたが、もうその元気もないようだった。二人は地面に転がしたまま問い詰めている。
クロウはペリジーに合図し、これから起きることをトリーンに見せないようにと頼んだ。ペリジーはうなずくとトリーンを壁の向こう側に連れて行った。
ディガンとマールはとがった顎の男のとどめを刺し、三人の首をはねた。自分の短剣がにぶらないように死体のを使った。これでなにがあったか確かめようとしても、魂を戻す容れ物がないのだから無理になった。死体は目立たないように岩陰に片付け、馬は自分たちのを残し、二頭はどこかに行ってしまうのにまかせた。
「終わったか」
「クロウこそ、もういいのか」
「ああ、隊長はともかく、おやじも手際良いな」
「嫌なこと言うなよ」
ペリジーとトリーンを呼んだ。みんな荷馬車のそばに座った。だれかが火を起こした。
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