凡庸魔法使いと超越能力少女のやっかいごと以上この世の終わり未満の冒険

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第二章 歪んだ歯車

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 夕食の後、それぞれ石壁の裏で用を足し、トリーンは眠った。荷台に荷覆いをしき、みんなのマントをかぶせてやる。クロウの背嚢は枕になった。寝息が規則正しく穏やかになると、四人は残り火の周りに集まった。

「どう思う? クロウ」
「初歩の算数だな。トリーは超越能力者でまちがいない。魔法使いを補助する能力だと思う。強化、とか」
「どういうこと? もっとくわしく。そんな奴ほんとにいんのかよ」
 ペリジーが驚いている。マールが説明した。
「超越能力ってのは自然の法則によらない能力って意味だ。物を投げれば落ちる、剣を振ったら切れる、こっちの大砲の兄さんみたいに魔力で火球を撃つ、みんな自然の力だけど、お嬢ちゃんは違う。自然を超えてる。超越能力者なんだ」
「いいことなの? 悪いことなの?」
「どっちでもある。小僧、おまえが勉強するつもりの会計だが、悪用すれば帳簿をごまかせるだろ? おなじさ。俺たちはトリーのおかげで助かった。クロウが強力な火球を魔力以上に撃てたからな」
 ディガンが残り火に小枝を足した。話は長引きそうだった。
「超越能力ってのはほかにもある。どこの国でも研究してる。だって魔法じゃないから規制条約にしばられない。能力次第だがどんなに強い力でも持ち放題って理屈だ」
 ペリジーはマールの言葉を考えたが、すぐ首を振った。二度とあのような魔王を召喚しないため、また、この世と霊界や魔界との境界に裂け目を作らせないため、一度に集中させられる霊力や魔力の量は厳密に規制されている。規制条約はそれ自体が締約国を縛る誓言かつ強力な呪文であり、複数の国家の大魔法使いが協調しないかぎり破ることは不可能だった。
「ただの噂だと思ってた。戦争中そんなのが活躍した話なんか聞かなかったし。ほんとに役に立つのかい?」
「そこが問題でな。自然を超えた力って言っただろ? 法則がまったく分からないんだ。考えても見ろ、新式の大砲があったとして、撃ち方や、どうやって狙っていいかや、そもそも撃てるのかどうかも分からないとしたら、そんなの戦場で使う気になるか」
 ペリジーは返事もせず黙ってしまった。
「見ろ、小僧がとまどってる。いきなり考えさせちゃいけなかったかな」
 ディガンがわざとふざけたが、クロウは乗らなかった。
「それで? 超越能力のお勉強はそのくらいにして、俺たちはこれからどうする? とんでもないのを引き当てちまった。命の恩人ではあるがな」
「おまえ、まずすべきは敵と味方をはっきりさせることって言ってたな? どう考えてるか話してみろ」
 目じりから伸びるしわが首筋の火傷痕に続いている。いつものディガンではなく、笑いじわには見えない。
「まず依頼主、ローテンブレード家は味方じゃない。俺たちに隠してたからな。奴らからも俺たちは味方じゃない。知られたくないことを知った下賤の者ってわけだ」
「帝国、いや王室は?」
「ローテンブレードをはめたってんならそっちにすがった方がいい。味方とは言えなくても中立か、少なくとも帝国の法にしたがって処理してくれると思う」
「じゃ、考えるまでもない。着いたらすぐ王室派遣官に訴え出よう」
 口を挟んだのはマールだった。クロウもうなずく。ディガンも反対ではなさそうだった。
「この子はどうなるのさ?」
 ペリジーが焚き火でほんのり照らされた白い顔を見る。あまりにまっすぐな問いに三人は答えられなかった。
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