凡庸魔法使いと超越能力少女のやっかいごと以上この世の終わり未満の冒険

alphapolis_20210224

文字の大きさ
上 下
13 / 90
第二章 歪んだ歯車

しおりを挟む
 荒野を突っ切る主街道を荷馬車は進む。日毎に昼が長くなっていくこの季節、野を渡る風は心地よかった。トリーン・トリストゥルムはうとうとしだし、そのまま荷物に寄りかかって寝てしまった。時々振り返っていたマールがほほ笑む。

「麻痺か、睡眠かな」
 ディガンがクロウのそばに寄ってささやくが、小鳥の声くらいしかしないここではみんなに聞こえた。
「睡眠。麻痺なら目覚めてもすぐは動けないので」
「良いばねの謎が解けたな」
「おやじ、まだ言ってる。しつこいな」
「いや、マールのように納得できなかったらずっと考え続けるのはいい。そういう兵士は生き残るんだ」
「隊長の説教が始まっちゃた。つまり、睡眠魔法が断たれるのを防ぎたかったから荷馬車にこんな良いばねつけたんだ。道、がたがたしてるからね」
 クロウはペリジーに向かってうなずき、寝ているトリーンを見た。
「まずいな。この子、どうする?」
「大砲、おまえならどうするんだ」
「まずすべきは敵と味方をはっきりさせること。この子の輸送は知られちゃいけなかったはず。なのに知っちまったんだ。うかつに飛び領地に入っていいのか……」
 はっきり答えずに別の問いを出してごまかした。きのう加わったばかりのクロウはまだ三人に心を許したわけではない。自分の立ち位置を明確にするのは避けるつもりだった。
「……それと、何日かかる予定です?」
 もうひとつ質問をする。すぐに答えられる問いかけで話を逸らす。マールが眉を上げた。
「余裕を見て三日。荷札もそうなってる」
 答えたのはディガンだった。
「じゃ、これからの話は夜にしましょう。それと、だれかが先行した方がいいかも」
「探りをいれるのか」
 マールは上げた眉をひそめる。
「たしかにその方が安心だね」
 ペリジーがうなずき、ディガンが指示する。
「よし、ペリジー、このあたりに戦争の時の要塞跡があるはずだ。と言っても石壁の残骸しか残ってないけどな。見つけたらそこに荷馬車を寄せて野宿だ。この子にはきついかもしれんが、箱に戻ってもらうわけにもいかないし」

 日が傾きはじめたころ、要塞跡が見つかった。崩れた石壁のあちこちについている焦げ跡が戦闘の激しさを物語っていた。ペリジーは風よけになる壁を見つけ、荷馬車をそばに寄せて停めるとすぐに火を起こした。トリーンは目をぱちぱちさせている。
 クロウは背嚢から干し肉を取りだしてトリーンに見せた。
「もう一晩、ここで夜を明かすから。明日は街だし、夕食には肉を入れよう」
 本当は仕事が終わってからみんなにふるまうつもりの肉だった。
「おまえ、そんなの持ってきてたのか」
 わざと大げさに驚いてくれたのはマールだった。
「ずっと麦のどろどろじゃ肘と膝の油が切れちまう。でしょ、おやじ殿」
 肉入りの麦粥は好評だった。塩気が食欲を増進させる。マールは短剣に肉のかけらを刺して軽くあぶった。
「こうすると風味が出るんだ」
「それ、きのう犬鬼刺したやつでしょ。よく平気だね」
「知ったことじゃない。小僧はお上品だな。貴族の晩餐に出席できるんじゃないか」

 四人は笑った。トリーンだけが目を丸くしていた。焚火を囲んで話しながら、笑いながら食べている。それは初めての経験だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

処理中です...