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第二章 歪んだ歯車
三
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荒野を突っ切る主街道を荷馬車は進む。日毎に昼が長くなっていくこの季節、野を渡る風は心地よかった。トリーン・トリストゥルムはうとうとしだし、そのまま荷物に寄りかかって寝てしまった。時々振り返っていたマールがほほ笑む。
「麻痺か、睡眠かな」
ディガンがクロウのそばに寄ってささやくが、小鳥の声くらいしかしないここではみんなに聞こえた。
「睡眠。麻痺なら目覚めてもすぐは動けないので」
「良いばねの謎が解けたな」
「おやじ、まだ言ってる。しつこいな」
「いや、マールのように納得できなかったらずっと考え続けるのはいい。そういう兵士は生き残るんだ」
「隊長の説教が始まっちゃた。つまり、睡眠魔法が断たれるのを防ぎたかったから荷馬車にこんな良いばねつけたんだ。道、がたがたしてるからね」
クロウはペリジーに向かってうなずき、寝ているトリーンを見た。
「まずいな。この子、どうする?」
「大砲、おまえならどうするんだ」
「まずすべきは敵と味方をはっきりさせること。この子の輸送は知られちゃいけなかったはず。なのに知っちまったんだ。うかつに飛び領地に入っていいのか……」
はっきり答えずに別の問いを出してごまかした。きのう加わったばかりのクロウはまだ三人に心を許したわけではない。自分の立ち位置を明確にするのは避けるつもりだった。
「……それと、何日かかる予定です?」
もうひとつ質問をする。すぐに答えられる問いかけで話を逸らす。マールが眉を上げた。
「余裕を見て三日。荷札もそうなってる」
答えたのはディガンだった。
「じゃ、これからの話は夜にしましょう。それと、だれかが先行した方がいいかも」
「探りをいれるのか」
マールは上げた眉をひそめる。
「たしかにその方が安心だね」
ペリジーがうなずき、ディガンが指示する。
「よし、ペリジー、このあたりに戦争の時の要塞跡があるはずだ。と言っても石壁の残骸しか残ってないけどな。見つけたらそこに荷馬車を寄せて野宿だ。この子にはきついかもしれんが、箱に戻ってもらうわけにもいかないし」
日が傾きはじめたころ、要塞跡が見つかった。崩れた石壁のあちこちについている焦げ跡が戦闘の激しさを物語っていた。ペリジーは風よけになる壁を見つけ、荷馬車をそばに寄せて停めるとすぐに火を起こした。トリーンは目をぱちぱちさせている。
クロウは背嚢から干し肉を取りだしてトリーンに見せた。
「もう一晩、ここで夜を明かすから。明日は街だし、夕食には肉を入れよう」
本当は仕事が終わってからみんなにふるまうつもりの肉だった。
「おまえ、そんなの持ってきてたのか」
わざと大げさに驚いてくれたのはマールだった。
「ずっと麦のどろどろじゃ肘と膝の油が切れちまう。でしょ、おやじ殿」
肉入りの麦粥は好評だった。塩気が食欲を増進させる。マールは短剣に肉のかけらを刺して軽くあぶった。
「こうすると風味が出るんだ」
「それ、きのう犬鬼刺したやつでしょ。よく平気だね」
「知ったことじゃない。小僧はお上品だな。貴族の晩餐に出席できるんじゃないか」
四人は笑った。トリーンだけが目を丸くしていた。焚火を囲んで話しながら、笑いながら食べている。それは初めての経験だった。
「麻痺か、睡眠かな」
ディガンがクロウのそばに寄ってささやくが、小鳥の声くらいしかしないここではみんなに聞こえた。
「睡眠。麻痺なら目覚めてもすぐは動けないので」
「良いばねの謎が解けたな」
「おやじ、まだ言ってる。しつこいな」
「いや、マールのように納得できなかったらずっと考え続けるのはいい。そういう兵士は生き残るんだ」
「隊長の説教が始まっちゃた。つまり、睡眠魔法が断たれるのを防ぎたかったから荷馬車にこんな良いばねつけたんだ。道、がたがたしてるからね」
クロウはペリジーに向かってうなずき、寝ているトリーンを見た。
「まずいな。この子、どうする?」
「大砲、おまえならどうするんだ」
「まずすべきは敵と味方をはっきりさせること。この子の輸送は知られちゃいけなかったはず。なのに知っちまったんだ。うかつに飛び領地に入っていいのか……」
はっきり答えずに別の問いを出してごまかした。きのう加わったばかりのクロウはまだ三人に心を許したわけではない。自分の立ち位置を明確にするのは避けるつもりだった。
「……それと、何日かかる予定です?」
もうひとつ質問をする。すぐに答えられる問いかけで話を逸らす。マールが眉を上げた。
「余裕を見て三日。荷札もそうなってる」
答えたのはディガンだった。
「じゃ、これからの話は夜にしましょう。それと、だれかが先行した方がいいかも」
「探りをいれるのか」
マールは上げた眉をひそめる。
「たしかにその方が安心だね」
ペリジーがうなずき、ディガンが指示する。
「よし、ペリジー、このあたりに戦争の時の要塞跡があるはずだ。と言っても石壁の残骸しか残ってないけどな。見つけたらそこに荷馬車を寄せて野宿だ。この子にはきついかもしれんが、箱に戻ってもらうわけにもいかないし」
日が傾きはじめたころ、要塞跡が見つかった。崩れた石壁のあちこちについている焦げ跡が戦闘の激しさを物語っていた。ペリジーは風よけになる壁を見つけ、荷馬車をそばに寄せて停めるとすぐに火を起こした。トリーンは目をぱちぱちさせている。
クロウは背嚢から干し肉を取りだしてトリーンに見せた。
「もう一晩、ここで夜を明かすから。明日は街だし、夕食には肉を入れよう」
本当は仕事が終わってからみんなにふるまうつもりの肉だった。
「おまえ、そんなの持ってきてたのか」
わざと大げさに驚いてくれたのはマールだった。
「ずっと麦のどろどろじゃ肘と膝の油が切れちまう。でしょ、おやじ殿」
肉入りの麦粥は好評だった。塩気が食欲を増進させる。マールは短剣に肉のかけらを刺して軽くあぶった。
「こうすると風味が出るんだ」
「それ、きのう犬鬼刺したやつでしょ。よく平気だね」
「知ったことじゃない。小僧はお上品だな。貴族の晩餐に出席できるんじゃないか」
四人は笑った。トリーンだけが目を丸くしていた。焚火を囲んで話しながら、笑いながら食べている。それは初めての経験だった。
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