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第一章 緑の瞳の少女
九
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風が出てきた。夜明けの風だ。荷台の覆いがはずれかけてはためいている。
クロウは信じられない、という顔で自分の手を見つめた。熱い。尋常じゃない熱さ。充填がこんなに早く……、ありえない。でも……、と短剣を納めて構えを両手にする。
犬鬼が睨み、吠え、牙をむきだして迫る。その時、血走った目が一瞬よそを見た。なんだ? クロウはその一瞬の隙に霊火の熱さにまかせて撃った。青白い火球が敵の胸に当たった。
そして、熱せられて急激に膨張した空気の音がまわりの木々に吸収された時、犬鬼の上半身はすでに消し飛んでいた。
なにが起きてるのか分からないが、分析してる場合じゃない。まだ手は熱い。あいつだ。さっきよりだいぶ弱っており、二人には余裕が見られるがさっさとかたづけた方がいいに決まっている。
「もういい! 引け!」
マールとペリジーが跳びのいた瞬間、あの青白い火球が飛び、おなじく上半身を消し去った。
静けさが戻り、朝日が昇って地面と平行な光で戦いの跡を照らした。長い影。人間、犬鬼の残骸、馬、荷馬車。
「ありゃなんだ? クロウ」
最初に口をきいたのはディガンだった。ただ首を振る。クロウだって分かってはいなかった。
「ちょっと見てくれ!」
さらに話をしようとしたところに、荷馬車の点検をしていたペリジーの声が響いた。
「まずい。封印が壊れてる。ひっくり返った時かな」
マールも荷台で驚いた顔をしている。ふたがずれていた。
ディガンが立ち上がった。クロウが支えようとしたが断られた。そばに行って荷を見る。
「ああ、こいつは……。よし、開けてみろ。中身を改めなくちゃな」
外箱と内箱を開ける。
「良かった。五つとも無事だ」
三人はほっとした。荷の詳細を知っているのはディガンだけだったが、なにも失われていないし破損もしていないと言う。
「でも、おかしいな」
「なにが? 大砲さんよ。おまえも中身知ってるのか」
「いや、おやじよ、隙間がありすぎるって思わないか。もっと梱包材でぎっしりじゃないと。ここにある五つで全部だとしたらすかすかだろ? こんな荷造りするか」
「まあ、いまはそれはいい。早く出発しよう」
ディガンの言葉にみんなあわただしく準備をする。幸いにも昨夜の闘いで行動不能なほどの大けがを負ったものはおらず、クロウが持ってきた血止めと痛み止めで間にあった。みんな動ける。それだけでもほっとした気持ちになれた。
ペリジーが馬を引こうとした時だった。前方の茂みで音がした。みんなクロウの顔を見る。
「いや、鬼じゃない」
「賊?」
マールが短剣を抜いた。その時、クロウは三匹目の犬鬼が違う方を見たのを思い出した。たしかあっちになる。
「おやじ、ちょっと待って。おい、そこにいるのは分かってる。だれだ。出てこい」
さらに茂みが揺れる。人が出てきた。
少女だった。
クロウは信じられない、という顔で自分の手を見つめた。熱い。尋常じゃない熱さ。充填がこんなに早く……、ありえない。でも……、と短剣を納めて構えを両手にする。
犬鬼が睨み、吠え、牙をむきだして迫る。その時、血走った目が一瞬よそを見た。なんだ? クロウはその一瞬の隙に霊火の熱さにまかせて撃った。青白い火球が敵の胸に当たった。
そして、熱せられて急激に膨張した空気の音がまわりの木々に吸収された時、犬鬼の上半身はすでに消し飛んでいた。
なにが起きてるのか分からないが、分析してる場合じゃない。まだ手は熱い。あいつだ。さっきよりだいぶ弱っており、二人には余裕が見られるがさっさとかたづけた方がいいに決まっている。
「もういい! 引け!」
マールとペリジーが跳びのいた瞬間、あの青白い火球が飛び、おなじく上半身を消し去った。
静けさが戻り、朝日が昇って地面と平行な光で戦いの跡を照らした。長い影。人間、犬鬼の残骸、馬、荷馬車。
「ありゃなんだ? クロウ」
最初に口をきいたのはディガンだった。ただ首を振る。クロウだって分かってはいなかった。
「ちょっと見てくれ!」
さらに話をしようとしたところに、荷馬車の点検をしていたペリジーの声が響いた。
「まずい。封印が壊れてる。ひっくり返った時かな」
マールも荷台で驚いた顔をしている。ふたがずれていた。
ディガンが立ち上がった。クロウが支えようとしたが断られた。そばに行って荷を見る。
「ああ、こいつは……。よし、開けてみろ。中身を改めなくちゃな」
外箱と内箱を開ける。
「良かった。五つとも無事だ」
三人はほっとした。荷の詳細を知っているのはディガンだけだったが、なにも失われていないし破損もしていないと言う。
「でも、おかしいな」
「なにが? 大砲さんよ。おまえも中身知ってるのか」
「いや、おやじよ、隙間がありすぎるって思わないか。もっと梱包材でぎっしりじゃないと。ここにある五つで全部だとしたらすかすかだろ? こんな荷造りするか」
「まあ、いまはそれはいい。早く出発しよう」
ディガンの言葉にみんなあわただしく準備をする。幸いにも昨夜の闘いで行動不能なほどの大けがを負ったものはおらず、クロウが持ってきた血止めと痛み止めで間にあった。みんな動ける。それだけでもほっとした気持ちになれた。
ペリジーが馬を引こうとした時だった。前方の茂みで音がした。みんなクロウの顔を見る。
「いや、鬼じゃない」
「賊?」
マールが短剣を抜いた。その時、クロウは三匹目の犬鬼が違う方を見たのを思い出した。たしかあっちになる。
「おやじ、ちょっと待って。おい、そこにいるのは分かってる。だれだ。出てこい」
さらに茂みが揺れる。人が出てきた。
少女だった。
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