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第一章 緑の瞳の少女
七
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峠を越え、ちょうどいい野宿の場所を見つけたころには日は沈みきっていた。ペリジーが器用に火をおこし、マールは積んできた飼葉と水を馬に与えている。ディガンは乾燥麦を使ってどろどろしたものを煮ているが、鍋の中を見たペリジーの顔は暗い。
クロウは荷台に上がり、高い位置からまわりの気を探っていた。
「どうだい? 大砲さん。気の具合は」
馬をなでながら見上げているマールに首を振った。
「穏やかなもんさ」
そう返事すると荷台から飛び降りた。ばねはその揺れをちゃんと吸収した。
火を囲み、マントにくるまって温かい食事をとっていると疲れが溶けていくようだった。それに、疲れといっても行軍に比べれば遊びのようなものだ。彼らはあまっている元気で雑談した。
「じゃあ、クロウはだれとも組まないの?」
「ああ、気楽にやってる。あちこち旅して日銭稼ぎ。俺くらいの火球使いなら仕事にあぶれたりしないからな」
ディガンはマールと目くばせした。ペリジーはだませても二人はごまかせない。こいつは俺たちとおなじ。戦争が終わったら軍を追い出され、当てもなく流れているだけだ。どこか旅の途中で死んでだれの記憶にも残らない。そういう人生を送る奴だ。
「で、おまえは勉強した後商売始めるのか、それともどこかに雇ってもらうのか」
「そこを迷ってんだ。なあ、あんたならどうする? 会計の勉強した生きのいい若いのが一匹いたとして、元手はあるんだからすぐ商いした方がいいか、いったんはどこかで奉公して経験積んだ方がいいか」
「知ったことじゃない。あ、冗談冗談。俺としちゃ経験を選ぶな。商売ってのはあれはあれでこつとかあるらしいし、実際に働いて身につけるのがいいだろう」
「ほれみろ、俺とおなじ考えだ」
にやにやしながらマールが言い、ディガンもほほ笑みながらうなずいた。
その内、火が小さくなってくる。みんな湯を飲むとうとうとし始めた。クロウもマントをさらに強く巻き付けて目を閉じる。
消えかけた残り火に枯葉が吹き寄せられ、一瞬燃え上がった。
クロウは柄頭で石を打って合図したが、すでに全員荷馬車の周りに散らばっていた。軍用の合図音で荷馬車を基準とした方向と距離を示す。右斜め前、弓の距離、接近中。
「森の中か」
寄ってきたマールがささやく。うなずき、肩を拳で、続いて指二本で叩く。犬鬼が二匹。クロウはほかの二人にも伝えた。
「火を」
ディガンが決断した。明るくして戦おうと。もっともだった。この距離まで近づかれたのに息を潜めても無駄だ。ならこっちの有利になるようにするまでだ。ペリジーが覆ってあった火に飼葉の残りを足して火勢を強くした。馬が身震いする。
それが合図であったかのように咆哮がひびき、木々の間から牙をむきだした犬鬼が飛び出してきた。
クロウは荷台に上がり、高い位置からまわりの気を探っていた。
「どうだい? 大砲さん。気の具合は」
馬をなでながら見上げているマールに首を振った。
「穏やかなもんさ」
そう返事すると荷台から飛び降りた。ばねはその揺れをちゃんと吸収した。
火を囲み、マントにくるまって温かい食事をとっていると疲れが溶けていくようだった。それに、疲れといっても行軍に比べれば遊びのようなものだ。彼らはあまっている元気で雑談した。
「じゃあ、クロウはだれとも組まないの?」
「ああ、気楽にやってる。あちこち旅して日銭稼ぎ。俺くらいの火球使いなら仕事にあぶれたりしないからな」
ディガンはマールと目くばせした。ペリジーはだませても二人はごまかせない。こいつは俺たちとおなじ。戦争が終わったら軍を追い出され、当てもなく流れているだけだ。どこか旅の途中で死んでだれの記憶にも残らない。そういう人生を送る奴だ。
「で、おまえは勉強した後商売始めるのか、それともどこかに雇ってもらうのか」
「そこを迷ってんだ。なあ、あんたならどうする? 会計の勉強した生きのいい若いのが一匹いたとして、元手はあるんだからすぐ商いした方がいいか、いったんはどこかで奉公して経験積んだ方がいいか」
「知ったことじゃない。あ、冗談冗談。俺としちゃ経験を選ぶな。商売ってのはあれはあれでこつとかあるらしいし、実際に働いて身につけるのがいいだろう」
「ほれみろ、俺とおなじ考えだ」
にやにやしながらマールが言い、ディガンもほほ笑みながらうなずいた。
その内、火が小さくなってくる。みんな湯を飲むとうとうとし始めた。クロウもマントをさらに強く巻き付けて目を閉じる。
消えかけた残り火に枯葉が吹き寄せられ、一瞬燃え上がった。
クロウは柄頭で石を打って合図したが、すでに全員荷馬車の周りに散らばっていた。軍用の合図音で荷馬車を基準とした方向と距離を示す。右斜め前、弓の距離、接近中。
「森の中か」
寄ってきたマールがささやく。うなずき、肩を拳で、続いて指二本で叩く。犬鬼が二匹。クロウはほかの二人にも伝えた。
「火を」
ディガンが決断した。明るくして戦おうと。もっともだった。この距離まで近づかれたのに息を潜めても無駄だ。ならこっちの有利になるようにするまでだ。ペリジーが覆ってあった火に飼葉の残りを足して火勢を強くした。馬が身震いする。
それが合図であったかのように咆哮がひびき、木々の間から牙をむきだした犬鬼が飛び出してきた。
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