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第四部 夢見心地に分岐する
十四
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女は死んでないという意味で無事だったが、ウォーデは背中と左足を痛めた。かばったためだった。
「ずっと薬漬け。朦朧とさせてる。精神的に不安定で自己破壊しかねない」
ファーリーが研究所から連絡してきた。今は病院代わりだった。
「ウォーデは?」
「大丈夫。でも話はまだ。怪我はほとんどが火傷だけど、一部筋肉がえぐられてる。ビクタの培養筋と皮膚の予備を使う。これから手術」
「分かった。こっちは静か。あの爆発、単発だった。引き続いての動きがない」
ぼくは並べたモニターにもう一度ざっと目を通した。状況に変化はなかった。
「残存物のアナライズ完了。ガンパウダー。爆弾はハンドメイド。やっぱりウォーデの鼻はマーベラス」
現場のビクタだった。肩のとは別にオートマトンを二台引き連れている。両方とも犬のように地面にセンサーを押し当てていた。
「火薬の出所は?」
「複数、ミックス。分子指紋がぐちゃぐちゃ。元はイベントのファイアワークス用」
「なんでそんなもんが島に入ってきた?」
「チーバランドとコラボイベント企画してた。カモフラージュだな」
お菓子大会のポスターが送られてきた。記念に花火打ち上げとあった。後援に『真実の光』が加わっていた。
「ありがとう。ご苦労様。一段落ついたら戻ってきてくれ」
「よろしいですか」マザーからだった。
「もちろん」
「本土に新たな状況が発生しました。子供たちの保護施設が封鎖され、施設人工知能がかれらの無事と、われわれの情報転送計画を公表しようとしています」
「どうせ公開するつもりの情報だろ? それに、しようとしています、とは? してないのか」
「公開はわたしの制御下で行われなければなりません。それと、今は政府と協力して欺瞞情報を送っています。施設人工知能は公表したつもりでいますが、いつまでも持ちません。あなた方とおなじくしばらくすればおかしな所や矛盾に気づくでしょう」
「どのくらい?」
「あと三十分が限度です」
ぼくはちょっと考えた。「じゃあ考えるまでもない。処理部隊を送りこんで物理的にネットから切り離して破壊するしか」
「子供の生命維持を担っています。そのような粗雑で乱暴な対応は避けたい」
「そうは言ってもぼくには何もできないよ」
マザーはちょっと間を開けた。やはり演技なのか考えているのか分からない。
「いいえ。手はあります。あなたが行くのです」
視界に計画が流された。ぼくが子供の一人に乗りこみ、施設人工知能の回路に行動修正用ナノマシンを注入する。前にあった襲撃が参考にされていた。
「あなたは以前にもデータを採取しているので、今取っているのと合わせれば子供を操作するくらいはできます。また、内部から、かつ子供であれば警備機能もほぼ働かないと推量します」
「ほぼ? 推量?」
「すみません。時間がありません。決断を」
「わかった。やるよ」
「ずっと薬漬け。朦朧とさせてる。精神的に不安定で自己破壊しかねない」
ファーリーが研究所から連絡してきた。今は病院代わりだった。
「ウォーデは?」
「大丈夫。でも話はまだ。怪我はほとんどが火傷だけど、一部筋肉がえぐられてる。ビクタの培養筋と皮膚の予備を使う。これから手術」
「分かった。こっちは静か。あの爆発、単発だった。引き続いての動きがない」
ぼくは並べたモニターにもう一度ざっと目を通した。状況に変化はなかった。
「残存物のアナライズ完了。ガンパウダー。爆弾はハンドメイド。やっぱりウォーデの鼻はマーベラス」
現場のビクタだった。肩のとは別にオートマトンを二台引き連れている。両方とも犬のように地面にセンサーを押し当てていた。
「火薬の出所は?」
「複数、ミックス。分子指紋がぐちゃぐちゃ。元はイベントのファイアワークス用」
「なんでそんなもんが島に入ってきた?」
「チーバランドとコラボイベント企画してた。カモフラージュだな」
お菓子大会のポスターが送られてきた。記念に花火打ち上げとあった。後援に『真実の光』が加わっていた。
「ありがとう。ご苦労様。一段落ついたら戻ってきてくれ」
「よろしいですか」マザーからだった。
「もちろん」
「本土に新たな状況が発生しました。子供たちの保護施設が封鎖され、施設人工知能がかれらの無事と、われわれの情報転送計画を公表しようとしています」
「どうせ公開するつもりの情報だろ? それに、しようとしています、とは? してないのか」
「公開はわたしの制御下で行われなければなりません。それと、今は政府と協力して欺瞞情報を送っています。施設人工知能は公表したつもりでいますが、いつまでも持ちません。あなた方とおなじくしばらくすればおかしな所や矛盾に気づくでしょう」
「どのくらい?」
「あと三十分が限度です」
ぼくはちょっと考えた。「じゃあ考えるまでもない。処理部隊を送りこんで物理的にネットから切り離して破壊するしか」
「子供の生命維持を担っています。そのような粗雑で乱暴な対応は避けたい」
「そうは言ってもぼくには何もできないよ」
マザーはちょっと間を開けた。やはり演技なのか考えているのか分からない。
「いいえ。手はあります。あなたが行くのです」
視界に計画が流された。ぼくが子供の一人に乗りこみ、施設人工知能の回路に行動修正用ナノマシンを注入する。前にあった襲撃が参考にされていた。
「あなたは以前にもデータを採取しているので、今取っているのと合わせれば子供を操作するくらいはできます。また、内部から、かつ子供であれば警備機能もほぼ働かないと推量します」
「ほぼ? 推量?」
「すみません。時間がありません。決断を」
「わかった。やるよ」
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