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第四部 夢見心地に分岐する

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「サカモト、チーバランド先週辞めてる」ファーリーが調査結果を示した。詳細な人物情報があるので今度は楽だった。「今は新宿。農業始めた」
「農業?」
「唐辛子作ってる」
「そりゃ大変な方向転換だな。で、教団は?」
「そっちは辞めてないみたい」
「連絡先は?」
「通販のがある。予約だって。唐辛子いる?」

 ぼくは引き揚げたときのライトスピード・ジェネシスの画像だけを送った。あのデータと同じ手順で暗号化をほどこしてある。

「大丈夫か」
 珍しくウォーデが心配した。
「いや、賭け。でもあちらさんが軽率な動きしてくれたらそれはそれで面白そう」
「本気かよ」
「坊っちゃん、イレスポンシビリティ」
 ぼくは笑った。
「無責任って言ってもこれが一番いいだろ。遠回しに探り入れるよりまっすぐ行ったほうがいい時だよ」
「どうして?」ファーリーが興味深げに聞いてきた。
「メッセージボトル代わりにヒーローを使った。こいつは隠れようなんて思っちゃいない。それかちょっとおかしい奴なのか」
「両方かも」ウォーデはやはり心配そうだった。

『こちら本部。メッセージ受領。ジェネシス応答せよ。コードとチャンネルは以下の通り』

 テキストで着信した。ぼくは相手の言うとおりコードとチャンネルを合わせた。思っていたのとちがって民間の秘匿回線だった。それほど強くない。とにかく相手の条件に従った。

『現在ジェネシスと超速融合している者はだれか。官姓名を述べよ』今度はひどい音声だった。暗号化が非人間性を強めていた。

 ため息をついた。なりきって応答しなきゃならないんだろうか。ウォーデが設定を流してくれた。さっと目を走らせ、ジェネシスと超速融合した者の中から後に反政府運動に身を投じたキャラクターを選んだ。

『レッド小隊、ケイ・ナイン軍曹』こっちも音声で答えた。相手に合わせるのは基本だ。
『犬か。了解した。こちらはブルーラボラトリーのドクター・リンクスだ』主人公サイドの組織の科学者だった。
『済まないが、わたしはこの番組に詳しいわけじゃない。なりきるのはやめにしていいか』
『どうぞ。乗りの悪い奴だ』
『無粋ですまない。あれを流した目的を教えてほしい』
『告発』
『そうか。何を告発したかったんだ? 実はデータ吸い上げでミスした。焼けたよ』

 黙ってしまった。しかし回線は切らない。ぷちっ……ぷちっ……と音がしている。
 一分ほど沈黙が続いた。

『そっちの身元を明かしてほしい』

 こっちの番だった。三人の顔を順に見た。

『こちらはチーム『カクブンレツ』、エナジ―アイランド自警団だ。だからあのメッセージボトルを回収できた。というか、あなたもそれを期待したのでは? あんな物をチーバランドから流して湾外に出るなんて考えてなかったはず』
『データはどこまで回収した? コードを合わせられたんだから完全に失敗したわけじゃないんだろ?』
『これだけ』

 そういって復元した生データを送った。加工して強調したのは送らなかった。

『ひどいな。まともなエンジニアはいないのか。原発島には』
『いないよ。みんな間に合わせでやってるから。さ、話を戻そう。何を告発しようとしたんだ。それにあんな方法を取った理由は?』
『なんで答えなくちゃならない? おまえら島に閉じ込められた人造人間なんか糞の役にも立たない』
『告発の内容にもよるが、その通りだと思う。では打ち切ってくれ。ジェネシスとストライカーはこっちで廃棄しとくよ』

 また沈黙。回線はつながっている。

『済まない。暴言を謝罪する。あれを拾ってくれた以上、何かの『縁』があるってのを忘れてた。あんたらが人間じゃなくてもこれは知っといていいだろう。話すよ』

 ぼくは映像回線じゃないのにうなずいた。『どうぞ。口は挟まない。そっちのペースで話してほしい』

『『天地日輪教』についてだ。あの教団は純粋じゃない』

 さっき口を挟まないと言ったのに、『そりゃ分かってる』と突っ込みたくなったが、なんとか我慢した。
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