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第四部 夢見心地に分岐する
二
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「急に忙しくなった」ファーリーが立ち止まった。
港はもう寝ない。遠くには入港待ちまで見えた。出入りのタイミングがちょっとずれただけでそうなる。
「マザーの製品、評判いいんだって。汚染環境での稼働率が桁違い」
「核融合なら放射線の心配いらないんじゃ?」
「いらないって事はないよ。重水素だし、中性子出るし。基準に変更なし」ファーリーのゴーグルに解説記事を送った。
「ああ、なるほど」
オートマトン船は原材料を降ろすと製品のコンテナを積みこんだ。建築・工作用オートマトンと人造人間。需要の先読みで、世界中が労働力を確保しようとしていた。
「エナジーアイランドも時代遅れになるんだね」ファーリーらしくない。
「いきなり置き換えたりしないよ。投資の回収分がある。火力や水力だって現役だし」
「そっか。だよね」
また歩き出す。
港が休まないので周辺の店も開けっ放しだった。オートマトン船なので新たな客は来ないのだが、灯りがあって騒がしいだけで人通りが途切れない。
そうなるともめ事も起きる。
「よしな」
店の主人と客が値段について言い争っていたが、客の方がポケットに手を突っ込んだのでやんわりと止めに入った。
「うるせえ! 犬が!」いつもの罵倒だった。手には振動刃のついた工具が握られていた。
「犬はよそをまわってるよ。兄さん、そいつは粋じゃない。値切るつもりなら口でやんな」
ファーリーが位置についた。この男はものの分かる奴だった。「すまねえな。ついかっとしちまった」工具を引っこめた。
「おだやかにやれよ。争いはごめんだからな」主人の顔を見、それ以上の助けは不要な様子だったのでその場から離れた。
「坊っちゃん、トラブル」ビクタだった。「ビッグなトラブル。ハリー」
「映像は?」
「やめとく。ネットに流すとまずいかも」ウォーデの声は上ずっていた。
一輪オートマトンを呼んだ。ファーリーと急行する。使われていない港だった。再開のためオートマトンと整備用の資材が置かれている。充電台に停めて合流した。
「何だこりゃ?」
思わずそう言ってしまった。ファーリーもびっくりして見ている。
引き揚げられていたのは明らかに兵器だった。しずくが垂れている。どこの何かはわからないが、武装ははっきりわかる。姿も大きさもほぼ人間のオートマトンとその装備、および二輪車輛か。輸送用のコンテナや梱包材が絡みついている。それで浮いて流されてきたのだろう。
次の瞬間、二人が大笑いした。
「坊っちゃん、ファーリー、なんて顔してんだ」「絵に描いたようなサプライズいただき!」
それで分かった。「なんだこのゴミ! チーバランドか」
「たぶん」ウォーデが検索結果を送ってくれた。
『超速融合ライトスピード・ジェネシス』ヒーロー物の娯楽番組だが、様々な要因でほとんど打ち切りのように短期間で終わってしまったらしい。
「新品みたい。かわいそうに。使われなかったのかな」ファーリーがあちこち触っている。機械なら端子を探すのが癖になっているらしい。
「で、こいつは何? 主役?」
「そう。『ライトスピード・ジェネシス』とサポートバイクの『ストライカー・マーク7』」なぜかウォーデはうれしそうだった。
「勇ましいな」明らかに国際条約違反の大口径の銃も転がっている。
「でも中はエンプティ」
「一応オートマトンが骨みたいに入ってる。ショーじゃそいつで動かすんだろ」
「データ残ってる」足の甲をなでている。
「アクション用じゃねぇの?」ウォーデは笑顔だったが、ファーリーの顔を見るとすぐに真顔になった。
「ううん。何だろ。暗号かかってる」
「吸いだせるか」ぼくも笑みを消した。
「まずい。セキュリティ」
甲のすき間から薄い青紫の煙が一筋もれた。
「だめ、一部だけ」
「よし、解読お願い」そしてすぐに付け足した。「待って。マザーは使わないで」
「坊っちゃん、どういうつもりだ」ウォーデだけでなく、二人もぼくを見ている。
「なんでもかんでもマザー通さなくてもいいだろ。これは『カクブンレツ』として対処する。さ、こいつも運ぼう」
港はもう寝ない。遠くには入港待ちまで見えた。出入りのタイミングがちょっとずれただけでそうなる。
「マザーの製品、評判いいんだって。汚染環境での稼働率が桁違い」
「核融合なら放射線の心配いらないんじゃ?」
「いらないって事はないよ。重水素だし、中性子出るし。基準に変更なし」ファーリーのゴーグルに解説記事を送った。
「ああ、なるほど」
オートマトン船は原材料を降ろすと製品のコンテナを積みこんだ。建築・工作用オートマトンと人造人間。需要の先読みで、世界中が労働力を確保しようとしていた。
「エナジーアイランドも時代遅れになるんだね」ファーリーらしくない。
「いきなり置き換えたりしないよ。投資の回収分がある。火力や水力だって現役だし」
「そっか。だよね」
また歩き出す。
港が休まないので周辺の店も開けっ放しだった。オートマトン船なので新たな客は来ないのだが、灯りがあって騒がしいだけで人通りが途切れない。
そうなるともめ事も起きる。
「よしな」
店の主人と客が値段について言い争っていたが、客の方がポケットに手を突っ込んだのでやんわりと止めに入った。
「うるせえ! 犬が!」いつもの罵倒だった。手には振動刃のついた工具が握られていた。
「犬はよそをまわってるよ。兄さん、そいつは粋じゃない。値切るつもりなら口でやんな」
ファーリーが位置についた。この男はものの分かる奴だった。「すまねえな。ついかっとしちまった」工具を引っこめた。
「おだやかにやれよ。争いはごめんだからな」主人の顔を見、それ以上の助けは不要な様子だったのでその場から離れた。
「坊っちゃん、トラブル」ビクタだった。「ビッグなトラブル。ハリー」
「映像は?」
「やめとく。ネットに流すとまずいかも」ウォーデの声は上ずっていた。
一輪オートマトンを呼んだ。ファーリーと急行する。使われていない港だった。再開のためオートマトンと整備用の資材が置かれている。充電台に停めて合流した。
「何だこりゃ?」
思わずそう言ってしまった。ファーリーもびっくりして見ている。
引き揚げられていたのは明らかに兵器だった。しずくが垂れている。どこの何かはわからないが、武装ははっきりわかる。姿も大きさもほぼ人間のオートマトンとその装備、および二輪車輛か。輸送用のコンテナや梱包材が絡みついている。それで浮いて流されてきたのだろう。
次の瞬間、二人が大笑いした。
「坊っちゃん、ファーリー、なんて顔してんだ」「絵に描いたようなサプライズいただき!」
それで分かった。「なんだこのゴミ! チーバランドか」
「たぶん」ウォーデが検索結果を送ってくれた。
『超速融合ライトスピード・ジェネシス』ヒーロー物の娯楽番組だが、様々な要因でほとんど打ち切りのように短期間で終わってしまったらしい。
「新品みたい。かわいそうに。使われなかったのかな」ファーリーがあちこち触っている。機械なら端子を探すのが癖になっているらしい。
「で、こいつは何? 主役?」
「そう。『ライトスピード・ジェネシス』とサポートバイクの『ストライカー・マーク7』」なぜかウォーデはうれしそうだった。
「勇ましいな」明らかに国際条約違反の大口径の銃も転がっている。
「でも中はエンプティ」
「一応オートマトンが骨みたいに入ってる。ショーじゃそいつで動かすんだろ」
「データ残ってる」足の甲をなでている。
「アクション用じゃねぇの?」ウォーデは笑顔だったが、ファーリーの顔を見るとすぐに真顔になった。
「ううん。何だろ。暗号かかってる」
「吸いだせるか」ぼくも笑みを消した。
「まずい。セキュリティ」
甲のすき間から薄い青紫の煙が一筋もれた。
「だめ、一部だけ」
「よし、解読お願い」そしてすぐに付け足した。「待って。マザーは使わないで」
「坊っちゃん、どういうつもりだ」ウォーデだけでなく、二人もぼくを見ている。
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