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第二部 悪魔とダンス

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「てめぇ、臭ぇぞ。風呂入ってんのか」
 犬男は袖のない黒いシャツに黒いズボンで、出ているところは毛むくじゃらだった。
「そんなに睨むんじゃねえ。すまんが、ちょっと痛いぞ」
 手足を拘束された。本土より緩かった。

「どうだ? 終わったか」女の声だった。
「おう。中継役も捕まえた」そう返事してからあゆみのほうを見た。「おまえら、三人だな。今さら隠すなよ」
 声を出さずにうなずいた。

 道までかついで連れていかれ、そこにいた脚付きパレットに乗せられた。今夜の仲間二人もいたが、手足に応急手当をした傷があった。
 その脚付きパレットには制御装置もバッテリーもなくすっきりしていた。何もつながっていない接続ポイントからケーブルが引き出され、それをつかんで女がすわっていた。光を吸収する真っ黒い服を着ているので目がおかしくなりそうだったし、ときどき放電するのだった。

「ビクタ、先行っててくれ」その電気女がパレットの横にしゃがんでいた男に言った。
「わかった。そいつらとてもサイレント」発音は変だった。立ち上がったところを見ると、筋肉の塊のような大男だった。体形に合ってない灰色のシャツがはちきれそうだった。

 しばらくするとぐらりと揺れてパレットが立ち上がり、歩き出した。五分ほど環状道路沿いに移動していたが、何もない広場まで来たところでそれて入った。
 そこにさっきの筋肉大男がいて、その横に人間と、後ろにざくろオートマトンがいた。

 女が手を振った。「坊っちゃん、どう、調子は?」
「問題ない。ごくろうさん」少年のような声だった。
 パレットはその坊っちゃんと呼ばれた男の前に伏せた。近くまで寄って分かったが、ざくろオートマトンとつながっていた。黒くて細い通信ケーブルが右のこめかみにくっついている。接続部はシールがはってあり、そのため髪型は左右非対称だった。ゴーグルをしているが、目や表情を隠してしまうようなタイプではない。人間の形をしてるけどノーマルではないようだ。白無地のシャツには汚れひとつなく、背後のオートマトンのライトで透けていた。インナーは着ていない。

「こいつらか。拘束解いて」
 あゆみと二人は地面に降ろされ、バンドがはずれた。それほど痛くはないが嫌味っぽくさする仕草をした。

 坊っちゃんと呼ばれた男が前に立った。ざくろオートマトンもうしろについてきている。
「われわれはエナジーアイランド自警団だ。この島の生活、業務を非効率化するあらゆる活動を取り締まるため、インフィニティ・マザーによって組織された」
 三人を順に見た。
「なお、この自警活動については政府、警察組織の了承は得られている。エナジーアイランドの治安の維持と向上のための活動という事で認められた」
 いつの間にか、犬男、電気女、筋肉大男がそろっていた。わざとだろう。目に入る位置に立っている。

「おまえら、『カクブンレツ』だろ? 知ってるぞ。自警団ってどういうこった」仲間の一人が言った。
 白シャツがそいつを見た。一瞬だけ冷たい目になったようだが、光の加減での錯覚かもしれなかった。
「その通り、われわれはチーム『カクブンレツ』であり、現在もなわばりを保持しアクティブだ。そして、この自警活動に協力もしている。わかったか」
 質問をした男はふんと鼻を鳴らして目をそらせた。

「よし。ではおまえたちの建設的とはいえない行為によって生じた損害の賠償と、今後そのような行為を行わないよう教育するため、三か月間の労働奉仕を命じる」
 さっき質問をした男が唾を吐いた。「なんだ、結局ただ働きする奴隷がほしいだけかよ。『建設的とはいえない行為』とはね。そんなのこの島の奴ならだれでもひっかけられるワイルドカードじゃねえか」
 白シャツは首をかしげた。
「だれでもひっかけられる? 意味がわからない。八百屋はパレットを襲ったりしないぞ」
 あゆみはふきだした。と、同時に不安になった。『八百屋』と言ったところでこっちをちらりと見たような気がした。まさか、自分の行動は洗いなおされているのだろうか。

 三人は立たせられた。パレットには怪物三人組が乗り、犬男が手を振った。ついて来いという事らしい。
 パレットがゆっくりと歩きだし、あゆみたちはついていった。

 広場を出る前、白シャツの横を通ったとき、そいつがつぶやいた。

「まじめにやってりゃ、またトマト食えるぞ」
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