夜這いは王子のお好きなように

はちみつスフレ

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思いは揺れて

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 イーサンに強く抱かれたシルヴィ。

ソランの銘酒に酔ってしまい、何も考えることができません。

シルヴィを抱きしめるイーサンの想いが、彼女をさらに困らせます。

「姫。今宵、貴女あなたは私だけのもの…」

イーサンはシルヴィを抱き抱え、バルコニーを後にします。

(な、何も考えられない…。今、私はどこへ向かっているのだ…?)

着いたところはシルヴィ専用の寝室。

扉の前にいた2人の女官が扉を開け、イーサンはシルヴィをベッドにそっと降ろしたのでした。

ふかふかとした優しい肌触り、芳しい花の香り。

酔っていたシルヴィはそのままベッドにくったりと身を任せてしまいます。

「姫…、本当に美しい…。もっと貴女あなたを見つめていたい…」

イーサンはシルヴィの背中に手を廻し、彼女のドレスを脱がせていきます。

「へ、陛下…、何を…」

抵抗しようにも力が入らないシルヴィ。それどころか天井がグルグルと回っており、動くことはおろか、視界もままなりません。

「どうか、"イーサン"と呼んでください…」

彼の手は止まることなく、シルヴィはあっという間に下着姿になってしまいました。

その時、泥酔ながらもシルヴィが思い出したのは蛇の烙印。これだけは誰にも見せる訳にはいきません。

「イーサン陛下、もう、ここで…」

「シルヴィ、愛しています…」

イーサンの深く熱い口付けにシルヴィはなすがまま、そのまま気を失ってしまったのでした。


 翌朝、シルヴィはひどい頭痛で目覚めました。

(う~、頭が痛い…。昨日、飲みすぎたせいだ…)

ガンガンと鳴る頭の中。乾いた喉に硬い唾を飲み込み、のそのそとベッドから起き上がると、やっと自分が素っ裸であることに気付きました。

ところどころ記憶が曖昧で、自分が何をしていたかも思い出せません。

(昨夜はイーサン国王と一緒に会食をして…それから…)

ふと、ベッドの隣に何かの固まりがあることに気付きました。

それは、シーツに包まれたイーサン本人。

シルヴィが起きたことで、イーサンも目を覚ましました。

「姫、おはようございます」

照れた様子のイーサンに、シルヴィは何が何だか理解できません。

「朝起きて一番に見るのが自分の愛する人というのは、本当に幸せなことですね」

イーサンは枕元にあった眼鏡をかけて、シルヴィににじり寄ります。

「朝食は食べられそうですか?」

無邪気な笑顔で話しかけてくるイーサンに、昨夜何が起こったのか分からないままのシルヴィ。

部屋の窓には羽繕いをする数羽の小鳥が囀るだけ。静かな朝を告げるだけなのでした。


 一方、メルノタ王国。宮殿。

シルヴィがソランへと旅立った後、侍女のカロリーナが彼女の部屋の管理を請け負っておりました。

「シルヴィウス様が無事にソランで任務に就かれていますように」

礼拝堂で朝のお祈りを済ませ、向かったのはシルヴィの部屋。いないといっても、部屋の掃除や彼女宛ての書類を片付けなければなりません。

「シルヴィウス様がいつ帰ってきてもいいように、秘書の私が美しく整えておきませんと!」

張り切った様子で、カロリーナはシルヴィ本人から預かっていた合鍵を使い彼女の部屋を開けました。

すると、驚いたことに、部屋の中にいたのはランスロット王子!

「お、王太子殿下!」

幼いカロリーナは尻餅をつきそうなくらい驚きましたが、そこは良家の子女。
すぐさまお辞儀をし、「ランスロット王太子殿下、ご機嫌麗しゅうございます」と深々とご挨拶。

にも関わらずランスロットは椅子に座り、腕組みをして窓の外を見ています。

「カロリーナ、ご機嫌よう」

こちらを見ずに挨拶だけを交わす王子様。
その顔はじっと空を見てるままです。

「殿下、いかがなされました?」

問いかけてもこちらを見ない王子様に、カロリーナもどうしていいか分かりません。

部屋の中をよく見ると、何かを探していたような形跡がありました。

「殿下、何かお探しでしょうか?」

その言葉に耳を傾けたランスロット。外を見ながらこう話すのです。

「お前に言っても伝わるかどうか…」

難しい顔をした王太子殿下。それに対して『どうやら自分は試されてるらしい』と思ったカロリーナは、負けじと答えます。

「私は殿下のしもべでありますとともに、貴方様の従者シルヴィウス様の秘書でもございます」

ペコリとお辞儀をしたカロリーナに、やっと目を向けたランスロットは次のようなことを訊ねます。

「それでは聞こう。"赤い玉"を見なかったか?」

「"赤い玉"…とは?」

「大きさは…そうだな、うずらの卵くらいで、金の鎖がついている」

カロリーナには"赤い玉"が何を指しているのか分かりませんし、うずらの卵も見たこともありません。

「殿下、あの、ウズラとは、私でも分かるモノなのでしょうか?」

「やはり、幼いお前には難しいか」

はぁっと大袈裟にため息をつき、頭を横に振るランスロットのこの一言に、さすがにムッとしたカロリーナ。

「恐れながら!私は代々王家に仕えるタタラント家の血筋!王太子殿下がお尋ねの物を答えられない訳がございません!」

鼻息を荒くして豪語するカロリーナを、ランスロットはちろりと見てさらに試すのです。

「それならば、分かるであろう。これくらいの赤い玉だ。シルヴィに預けた大事な物。この部屋のどこかにあるはずだ」

カロリーナは閃き、やっと答えが分かりました。

「金の鎖が付いた赤い玉!ガーネットの首飾りのことでございましょう!」

「おお!それだ!それだ!!」

「それならば、このお部屋にはございません。シルヴィウス様が身につけておいでです!」

「この部屋にないと何故分かる?」

「ソランへ旅立つ際に、私、見ましたもの。シルヴィウス様が身に付けておりました」

「首から下げていたか?」

「ええ、間違いなく!」

得意げに答えるカロリーナに、ランスロットは満面の笑みで伝えるのです。

「さすが、タタラント家の子女だ!お前は素晴らしい秘書だと女官長にも伝えておこう!」

ランスロットはバタバタと部屋を飛び出して行きました。

シルヴィウスの秘書としての務めを果たしたカロリーナは達成感で一杯です。

でも、不思議に思ったことが一つ。

「あのガーネットの首飾りって一体何なのかしら?」

それともう一つ。

「あと、鍵の掛かっていたこの部屋に、王太子殿下はどこから入られたの…?」

少女とはいえ、もはや立派なレディであるカロリーナは少し考えましたが…、『素晴らしい秘書』と王太子殿下直々に褒められた彼女はそれ以上深く考えず、せっせとシルヴィの部屋のお掃除に励むのでした。


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