夜這いは王子のお好きなように

はちみつスフレ

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夜に酔って

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 シルヴィはイーサンとの思い出話の続きをするべく、食事を済ませ、まずは湯浴みをすることにしました。

 湯には色とりどりの花が浮かんでおり、まるでどこかの令嬢のような扱いです。

 (うーん…この『おもてなし』も、油田の共同研究に繋がるのだろうな…)

 シルヴィが浴槽に浸かってあれこれ考え事をしていると、若い女官が2人「お背中お流しします」と入ってきました。

 「だ!大丈夫です‼︎1人で洗えます‼︎」

 「キリーナ国の姫君をお1人で入浴させるわけには参りません」

引っ込もうとしない女官達でしたが、シルヴィとしては『蛇の烙印』を見せるわけにもいきません。

 「いえ!本当に結構です!いつも1人で湯浴みをするのが好きなのです!本当に!」

 それならば、と女官達は帰って行きました。

 (ベリーズといい、ここといい、こんなに『姫、姫』と呼ばれると調子が狂うな…)

 ふと、イーサンの顔が浮かびました。

 (イーサン陛下にも、後で説明しなければならないな…私は父王の奴隷であると…)


気を取り直し、湯浴みを終えたシルヴィに用意されていたのは…何とドレス‼︎

ローブ姿のシルヴィは慌てて女官に『何故ドレスなのか?自分の礼服は?』と問いただすも、彼女達の返事はありません。

 (これもイーサン国王ならではの『おもてなし』なのだろう。何か意味があるのかも知れないしな…)

シルヴィは考え直して、用意されたドレスを纏いイーサンが待つバルコニーへと向かいました。

 バルコニーに座って待っていたイーサンでしたが、ドレスを着て現れたシルヴィに見惚れてしまい言葉が出てきません。

 「陛下、こちらのドレスを下賜くださり誠に…」

 「い、いえ!いいのです!さぁ、こちらへお掛けください」

我に帰ったイーサンはせっせとシルヴィをエスコートします。

 「そのドレスは我が国で養蚕した絹糸で作られているのです」

 「養蚕まで研究されていたのですか!」

 「安定した産業を開発し、国民の豊かな生活に繋げる。これこそが私の使命だと思っています」

シルヴィは一瞬、ランスロットとイーサンを比べてみました。

わがままで言うことを聞かないうちの王子様と、実直で真面目、質実剛健なイーサン国王との違いに「はぁ…」とため息をついてしまいました。

 「シルヴィウス様、いえ、姫!」

静かにけれども力強く呼ばれたシルヴィは、少し驚いたもののすぐさま「はい」と返事をしました。

 「そしてこれも我が国のお酒です。寒さに強い芋を原料に蒸留したものです。姫はお酒も嗜まれると聞いております」

とくとくとグラスに注がれたそのお酒は、薄い桃色の優しい植物の香りがしていました。

 「それでは、一口…」

シルヴィの口中に高い度数のアルコールが広がった途端、優しいハーブのような香りが漂い始めました。初めての美酒にシルヴィも大変驚いています。

 「なかなかいけるでしょ?『中にハーブを入れたらどうか?』と、ある1人の農婦が発案したのがこれです。今では国民酒として愛されています」

漁師や農婦…国民1人1人を大事にしているイーサンの眼差しはとても優しく、そばかすがうっすら着いた大人しい顔立ちもシルヴィの胸を締め付けます。

 「武術大会のあのとき…」

イーサンは思い出を語り始めました。

 「『国を治めるためには文武両道でなければならぬ』、父の教えを守るため出場した武術大会で、私はメルノタの大変な豊かさに圧倒されておりました。ソランもこのようにしなければならないと、大きな目標を掲げていたのです」

シルヴィは出されたハーブ酒を飲みながら話を聞いています。

 「次は決勝戦。相手はランスロット殿下。負けてはならぬと心を強く持っていました。けれど、そのとき私の目に映ったのは1人の護衛官でありました」

シルヴィはおかわりで出されたハーブ酒を飲み続けています。ついにはおつまみのドライフルーツまでやってきました。

 「黒い鎧を纏いメルノタ国王の側に立つ護衛官、しかし、兜を脱いだら何と女性ではありませんか。髪を短くした凛々しく美しい女性が私の目に焼き付いて…それが貴女だったのです!」

突然のイーサンの想いにシルヴィのグラスを持つ手が止まってしまいました。

すかさず、イーサンがまたお酌をして、「まだ、続きが…」と、シルヴィの手を握ります。

 シルヴィはイーサンの様子がおかしいことに気付きました。しかし、お酒をたくさん飲んでしまったため思考がうまく回らず、黙ってイーサンの話を聞くことしかできません。

 「私はあのときから、貴女のことが好きで…。シルヴィウス様!いえ、姫!お慕い申し上げておりました!」

 「陛下!何を仰います!」

突然のイーサンの告白に、シルヴィも精一杯答えます。しかし、イーサンの熱は冷めることなく、また瞳はメラメラと燃え始め、シルヴィをじっと見つめています。

 「姫!我が国は貧しい国です。貴女にドレスも買ってあげられないかもしれません。けれども、一生貴女をお守りします!どうか、ずっと私と一緒にいてください!」

 「陛下、もうそれ以上は…!」

 「どうか、私の心を受け止めてください」

戸惑うシルヴィを前にイーサンは眼鏡を外して「姫…本当に美しい…」と囁き、ぎゅっと抱きしめました。

 (酔って考えがまとまらない…!どうしたら…?)

まごつくシルヴィをよそに、イーサンは彼女の顔をじっと愛おしそうに見つめています。

眼鏡を取ったイーサンの瞳にはシルヴィの姿が映っています。

シルヴィには考える力がなくなってしまいました。

 (父上がイーサン国王の元へ行くようにと仰ったのだ。…そうだった…。だから、今、イーサン国王に抱かれていても、それは父上が望んだことであって…)

 「姫…愛しています…」

イーサンはついにシルヴィにキスをしてしまいました。

シルヴィもそれに応えるかのように、イーサンとの深い口づけを交わすのです。

夜に酔ったシルヴィは、イーサンに身を任せていくのでした。
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