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ソランのイーサン国王
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馬を走らせ船に乗り、たどり着いたソランの港は海鳥の鳴く声どこか悲しく、とても寂れた様子でありました。
シルヴィは、港に着いているはずのソラン王家の従者を探しました。
すると、あちらから大きく両手を振っている眼鏡をかけた短髪の青年がいるではありませんか。シルヴィはそれが従者だと思い、その青年へと近寄ります。
「シルヴィウス様!お待ちしておりました!」
シルヴィはその青年を見てとても驚きます。
従者ではなく、イーサン国王本人だったからです。
彼女は慌てて膝を折り、「国王陛下御自らのお出迎え…」と挨拶をするのですが
「シルヴィウス様、堅苦しい挨拶はもうそれで!さぁ!城へとご案内致します!お荷物もお持ちします!」
イーサンはあれよあれよと言う間にシルヴィの荷物を側についていた従者の馬の荷台に乗せていきます。
「お疲れでしょう!さぁ、私の馬に乗ってください!さぁどうぞ!」
何がなんだかよくわからないまま、シルヴィはイーサンと共にソラン城へと向かって行くことになりました。
城に着き、案内されたのは迎賓用の部屋。
シルヴィはすぐさま荷物を片付け、挨拶用の礼服へと着替えてイーサンの待つ応接間へと向かいました。
イーサンと会うのは2年振りです。
(眼鏡をかけておられたが…まさしくイーサン陛下ご本人だ…。国王自らが迎えに来るなんて、一体どういうことだろう?)
応接間に着いたシルヴィは、扉の前でご挨拶の言葉を再度考えておりました。
すると、向こうから扉が開き、イーサンがシルヴィの手を引いて椅子に座らせました。
「シルヴィウス様、よくぞ我が国へと参られました!船旅でお疲れでしょうから、先にお食事をご用意いたしました!お口に合うといいのですが…!」
「あ、あの、陛下…」
「あ!気付かず失礼しました!先にお湯のほうがよろしいでしょうか?」
「あ、いえ、そうではなく…」
「でしたら、どうぞお食事を!隣の部屋に用意してあります!」
イーサンの思わぬ『おもてなし』にシルヴィは戸惑いますが、そこはお応えしなければなりません。
彼と同じテーブルに着いて、食事を摂ることになりました。
「シルヴィウス様は魚料理がお好きだと伺いました!我が国の近海で採れた海の幸をどうぞご堪能ください!」
イーサンが手を「パンパン!」と叩くと、魚介類たっぷりのソランの郷土料理が次々と運ばれてきました。
魚料理に目がないシルヴィは、生唾をゴクリと飲み込みます。
大きな貝が丸々入ったスープ、ぷりぷりとした真っ赤な海老の蒸し物、脂の乗った白身魚の焼き物など…輝くばかりのご馳走です。
「シルヴィウス様、こちらは私がお取り分けしましょう」
「そんな!陛下のお手を煩わせること!」
断るシルヴィでしたが、イーサンのおもてなしは止まりません。彼は取り分けた魚を皿に盛ってシルヴィの前に差し出します。
「貴女は私の大事な…いえ、何でもありません…!」
イーサンは顔を赤らめながらシルヴィの食事の世話をしていきます。
その様子にシルヴィもふと不思議に思ってしまいます。ただ、今は黙って食事を楽しむしかありません。
「大変、美味しゅうございます」
「それは何よりです!もっとたくさん食べて下さい!」
ある程度料理を食べたシルヴィは、いよいよ本題へと入ります。
「それで…陛下。父より貴方の元へ向かうようにと聞いておりました。私で何かお手伝いできることがあるのでしょうか?」
イーサンの動きがピタリと止まりました。
「はい。貴女にしかできないことなのです」
「私…ですか?」
イーサンは静かに語り出していきます。
「実は、先代である父が長年に渡って研究していた、我が国の『海底油田』のことなのです」
海底油田…。それは寒冷地帯で農作物が中々育たない貧しい国ソランの、長年の夢物語として語り継がれてきた伝説でした。
「昨年亡くなった父に代わり、私が国を統治することとなりました。父は研究熱心な学者でもありました。その父の研究も私が続けておりました」
シルヴィは切々と海底油田について語るイーサンの話を真剣に聞いておりました。
(海底油田…本当にあればとんでもないことに…)
「海底油田さえ発見されれば、その油を他国に売って国民が豊かな暮らしができるのです。寒さゆえの農作物の悩みも解消されるのです」
「して、それが…?」
と、ここでイーサンがいきなり立ち上がりました。
「3ヶ月前!1人の漁師が砂浜に打ち上がった一筋の『黒い油』を発見したのです!」
「えぇっ‼︎」
「その漁師は『油を見つけた』と言い続けましたが周囲から嘘つき呼ばわりされ、他国へと移り住んでしまいました!けど!私はその漁師の証言を信じています!実際に、海底にはそれらしき黒い影が見えるのです!」
「海底油田は実際にあるということですね⁉︎」
「そうなのです!そこで!地質学に詳しい貴女様をお迎えしたく、キリーナ国王に手紙を書きました!そして、貴女は来て下さった!こんなに嬉しいことはありません!」
自分がソランへと旅立つことになった目的をようやく理解したシルヴィ。それと共に、父王の胸中も察したのです。
(父上は、ソランの海底油田が欲しいのだな…。私に密偵として『探ってこい』という意味か…)
「シルヴィウス様、どうかお力添えを!」
熱く語るイーサンの瞳はメラメラと燃え、じっとシルヴィを見つめています。
「私でよければお手伝いさせて頂きましょう!」
快く返事をしたシルヴィに、イーサンはこうも語ります。
「正直…貴女に再び会えたことがとても夢のようです。2年前、メルノタで行われた武術大会以来ですから…」
2年前に行われたメルノタ主催の武術大会では、当時ソランの王太子であったイーサンが槍術で優勝しておりました。
「武術大会!あれはお見事でした!槍術は今もご研鑽でしょう!」
「いやぁ…公務と研究を優先しておりまして…。けれども、武術の誉高きランスロット様に私が勝ったのは未だに謎ですね、アハハ」
頭を掻きながら謙遜するイーサンに、シルヴィも思い出していきました。
2年前の武術大会…。ランスロットも自国代表として出場していたのですが決勝戦でイーサンに負けてしまい、『準優勝なんているか!』と1週間機嫌を悪くしていました。
ふふっと思い出し笑いをしたシルヴィに、イーサンは詰め寄ります。
「シルヴィウス様、思い出話はまだありますね。ゆっくりお話ししましょう」
イーサンの提案にシルヴィも心を許し、ソランの夜はふけていくのでした。
シルヴィは、港に着いているはずのソラン王家の従者を探しました。
すると、あちらから大きく両手を振っている眼鏡をかけた短髪の青年がいるではありませんか。シルヴィはそれが従者だと思い、その青年へと近寄ります。
「シルヴィウス様!お待ちしておりました!」
シルヴィはその青年を見てとても驚きます。
従者ではなく、イーサン国王本人だったからです。
彼女は慌てて膝を折り、「国王陛下御自らのお出迎え…」と挨拶をするのですが
「シルヴィウス様、堅苦しい挨拶はもうそれで!さぁ!城へとご案内致します!お荷物もお持ちします!」
イーサンはあれよあれよと言う間にシルヴィの荷物を側についていた従者の馬の荷台に乗せていきます。
「お疲れでしょう!さぁ、私の馬に乗ってください!さぁどうぞ!」
何がなんだかよくわからないまま、シルヴィはイーサンと共にソラン城へと向かって行くことになりました。
城に着き、案内されたのは迎賓用の部屋。
シルヴィはすぐさま荷物を片付け、挨拶用の礼服へと着替えてイーサンの待つ応接間へと向かいました。
イーサンと会うのは2年振りです。
(眼鏡をかけておられたが…まさしくイーサン陛下ご本人だ…。国王自らが迎えに来るなんて、一体どういうことだろう?)
応接間に着いたシルヴィは、扉の前でご挨拶の言葉を再度考えておりました。
すると、向こうから扉が開き、イーサンがシルヴィの手を引いて椅子に座らせました。
「シルヴィウス様、よくぞ我が国へと参られました!船旅でお疲れでしょうから、先にお食事をご用意いたしました!お口に合うといいのですが…!」
「あ、あの、陛下…」
「あ!気付かず失礼しました!先にお湯のほうがよろしいでしょうか?」
「あ、いえ、そうではなく…」
「でしたら、どうぞお食事を!隣の部屋に用意してあります!」
イーサンの思わぬ『おもてなし』にシルヴィは戸惑いますが、そこはお応えしなければなりません。
彼と同じテーブルに着いて、食事を摂ることになりました。
「シルヴィウス様は魚料理がお好きだと伺いました!我が国の近海で採れた海の幸をどうぞご堪能ください!」
イーサンが手を「パンパン!」と叩くと、魚介類たっぷりのソランの郷土料理が次々と運ばれてきました。
魚料理に目がないシルヴィは、生唾をゴクリと飲み込みます。
大きな貝が丸々入ったスープ、ぷりぷりとした真っ赤な海老の蒸し物、脂の乗った白身魚の焼き物など…輝くばかりのご馳走です。
「シルヴィウス様、こちらは私がお取り分けしましょう」
「そんな!陛下のお手を煩わせること!」
断るシルヴィでしたが、イーサンのおもてなしは止まりません。彼は取り分けた魚を皿に盛ってシルヴィの前に差し出します。
「貴女は私の大事な…いえ、何でもありません…!」
イーサンは顔を赤らめながらシルヴィの食事の世話をしていきます。
その様子にシルヴィもふと不思議に思ってしまいます。ただ、今は黙って食事を楽しむしかありません。
「大変、美味しゅうございます」
「それは何よりです!もっとたくさん食べて下さい!」
ある程度料理を食べたシルヴィは、いよいよ本題へと入ります。
「それで…陛下。父より貴方の元へ向かうようにと聞いておりました。私で何かお手伝いできることがあるのでしょうか?」
イーサンの動きがピタリと止まりました。
「はい。貴女にしかできないことなのです」
「私…ですか?」
イーサンは静かに語り出していきます。
「実は、先代である父が長年に渡って研究していた、我が国の『海底油田』のことなのです」
海底油田…。それは寒冷地帯で農作物が中々育たない貧しい国ソランの、長年の夢物語として語り継がれてきた伝説でした。
「昨年亡くなった父に代わり、私が国を統治することとなりました。父は研究熱心な学者でもありました。その父の研究も私が続けておりました」
シルヴィは切々と海底油田について語るイーサンの話を真剣に聞いておりました。
(海底油田…本当にあればとんでもないことに…)
「海底油田さえ発見されれば、その油を他国に売って国民が豊かな暮らしができるのです。寒さゆえの農作物の悩みも解消されるのです」
「して、それが…?」
と、ここでイーサンがいきなり立ち上がりました。
「3ヶ月前!1人の漁師が砂浜に打ち上がった一筋の『黒い油』を発見したのです!」
「えぇっ‼︎」
「その漁師は『油を見つけた』と言い続けましたが周囲から嘘つき呼ばわりされ、他国へと移り住んでしまいました!けど!私はその漁師の証言を信じています!実際に、海底にはそれらしき黒い影が見えるのです!」
「海底油田は実際にあるということですね⁉︎」
「そうなのです!そこで!地質学に詳しい貴女様をお迎えしたく、キリーナ国王に手紙を書きました!そして、貴女は来て下さった!こんなに嬉しいことはありません!」
自分がソランへと旅立つことになった目的をようやく理解したシルヴィ。それと共に、父王の胸中も察したのです。
(父上は、ソランの海底油田が欲しいのだな…。私に密偵として『探ってこい』という意味か…)
「シルヴィウス様、どうかお力添えを!」
熱く語るイーサンの瞳はメラメラと燃え、じっとシルヴィを見つめています。
「私でよければお手伝いさせて頂きましょう!」
快く返事をしたシルヴィに、イーサンはこうも語ります。
「正直…貴女に再び会えたことがとても夢のようです。2年前、メルノタで行われた武術大会以来ですから…」
2年前に行われたメルノタ主催の武術大会では、当時ソランの王太子であったイーサンが槍術で優勝しておりました。
「武術大会!あれはお見事でした!槍術は今もご研鑽でしょう!」
「いやぁ…公務と研究を優先しておりまして…。けれども、武術の誉高きランスロット様に私が勝ったのは未だに謎ですね、アハハ」
頭を掻きながら謙遜するイーサンに、シルヴィも思い出していきました。
2年前の武術大会…。ランスロットも自国代表として出場していたのですが決勝戦でイーサンに負けてしまい、『準優勝なんているか!』と1週間機嫌を悪くしていました。
ふふっと思い出し笑いをしたシルヴィに、イーサンは詰め寄ります。
「シルヴィウス様、思い出話はまだありますね。ゆっくりお話ししましょう」
イーサンの提案にシルヴィも心を許し、ソランの夜はふけていくのでした。
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