夜這いは王子のお好きなように

はちみつスフレ

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キリーナからの使者

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 庭園でランスロットに抱かれながら、彼の情熱を受け止めたシルヴィ。

幸せな気持ちいっぱいで彼の胸に顔を埋めていましたが、そこへリカルドの声が聞こえてきました。

慌ててランスロットから離れ衣服を整え、何事もなかったかのようにシルヴィは応えます。

 「リカルド様、いかがなされましたか?」

リカルドはシルヴィに一礼をして

 「殿下、お茶の時間を遮り参りましたこと、誠に申し訳ございません」

リカルドは何かを言いたそうにしています。

 「何事だ?」

 「殿下、シルヴィウス殿に面会が参っているのです」

ランスロットではなく、シルヴィを呼びに来たリカルドは少し慌てている様子です。

 「シルヴィウス、其方そなたの祖国キリーナからの使者が参られた。至急、面会室まで向かうのだ」

突然の使者訪問の報せに、戸惑いながらもそこへ向かおうとするシルヴィでしたが、すかさずランスロットが止めに入ります。

 「待て。あるじの俺に何の断りもなくなぜ突然使者がくるのだ?納得いかん」

 「私も何がなにやら…」

 「リカルド、もう良い!シルヴィ、行かなくていいぞ!」

 「いえ、殿下!急な訪問とはいえシルヴィウス殿が面会しなければ、使者も帰ることができません!ここはどうか…!」

 「知るか!ならば俺も行く!」

一気に機嫌を損ねたランスロットに誰も口を出す者はおりません。皆で面会の間へと向かうこととなりました。


 面会の間にはキリーナの使者が3人おりました。待ち時間が長かったのかこちらもまた機嫌が悪く、中でも一番の上役であるベリーズ使者長が嫌味を放ちます。

 「これはランスロット殿下。ご機嫌麗しゅうございます。平和な国は羨ましい限りですなあ!ゆっくりとお茶を愉しむことができて」

 「シルヴィに何の用だ?まずはあるじである俺に断りをいれるものだろう。この突然の訪問、説明せよ」

ピリピリとした空気が漂い始めました。シルヴィの心はハラハラしっぱなしです。

 「何と!我が国の『姫君』に会いに来るのに許可がいるとは!このベリーズ、思いもよりませなんだ!」

ベリーズは「ホホホ!」と高笑いをしてランスロットを揶揄からかいます。

 「何が『姫君』だ、放ったらかしにしておいて。シルヴィウスはここで何不自由なく平和に暮らしている。キリーナにも帰らんぞ」

強気なランスロットの態度に少し苛つき始めたベリーズは、胸元から一通の封筒をちらつかせるのです。

 「何だ?それは」

 「…シルヴィウス様に宛てた、我が国王陛下直筆の手紙でございます」

 「何だと⁉︎何故、お前がわざわざ持ってくる⁉︎」

 「是非ともシルヴィウス姫にお伝えしなければならないことがあるからなのですが…うーむ…これはキリーナ王家に関わること。いくらランスロット殿下とはいえ、ここはご遠慮頂きたく存じます」

このベリーズの言いようにランスロットの怒りは爆発!拳で机を叩きつける大きな音が鳴り響きました。

 「ベリーズ!無礼であるぞ‼︎シルヴィウスは我が国の人間であるも同然!ましてや俺の従者であるぞ!」

息を荒巻いてベリーズを怒鳴りつけるランスロットを、リカルドが慌てて宥めようとします。

 「おぉ、恐ろしい。成人した貴人の振る舞いとは到底思えませんな」

 「その手紙を寄越せ!まずは俺が読んでからだ!」

 「いけません、王家の紋章が入った蝋封ですからな。シルヴィウス姫のみ開けることができるのです」

ランスロットとベリーズの攻防は止みそうもありません。シルヴィはここで自分が出なければと考えました。

 「ならば私がその手紙の封を解き、読み上げれば問題ないでしょう!」

シルヴィの提案にリカルドも強く頷きます。

 「おお、そうだ!其方そなたが朗読してくれるのならありがたい!ここにいる皆様が理解できるというものだ!」

 「ベリーズ使者長、何か父上に関することなのでしょうか?」

 「…ふぅ…。国王陛下ではなく、貴女様あなたさまに関わることでございます」

 「私のことであれば問題ないでしょう!さぁ、それでは父上からの手紙を頂戴致します」

少し納得のいかない顔をしたベリーズでしたが早く事を済ませて帰りたい気持ちもあり、手紙を渋々シルヴィに渡します。

シルヴィは蝋封を開け、中身をまず目で読んでいきます。

 「焦ったいぞ、シルヴィ!早く読み上げろ!」

 「これは、その、何と申しますか…」

 「言え!」

 「…私に北方の国『ソラン』へと旅立つようにとのことで…」

あまりの内容にランスロットもリカルドも理解に追いつけません。

 「シルヴィウス、もし差し支えなければどのような事情で…?」

 「ソランのイーサン国王に会いに行くようにと…」

ランスロットは大声で意を唱えます。

 「何度も言っておくが、シルヴィウスはこの俺の従者だ!この主従関係を無視して、『ソランに行け』とはどういうことだ⁉︎このことは我が父、タイタロスも知ってのことか⁉︎答えよベリーズ‼︎」

怒り狂うランスロットの姿を見て、また「ホホホッ!」と甲高く笑うベリーズは

 「もちろん。ここに来る前、先にお許しを頂いております」

と、低く冷たい声で返事をしたのでした。

ベリーズの言葉が深く突き刺さったランスロットは口をつぐんでしまいました。

 「国家元首のお許しを頂き、『行儀見習い』としてお預けしている我が姫君を、少しの時間お返し頂くだけです」

父が許したとなってしまっては、ランスロットに術はありません。何も応えることができず、とても悔しい顔をしています。

 「…きっと、何か私でお役に立つ事があるのでしょう!文章の最後には『我が国の血と肉として働くように』と書かれてありました」

 「…実の娘に送る文章じゃないだろ…」

 「いえいえ!父上の手紙の書き方はいつもこうなのですよ!」

懸命に明るく振る舞うシルヴィでしたが、心の中は複雑でした。自分が何のために北方の国まで行かなければならないのか…その理由が何も書いてなかったからです。

 「やっと我々の仕事が終わりましたな。姫、必ずや父王様のお役に立つこと、信じておりますぞ!ランスロット殿下、それではこれにて。ホホホッ!」

ベリーズはこれ見よがしに深々とお辞儀をして帰って行きました。

こちらの方を見てくれないランスロットに、シルヴィは何も話しかけられません。

 「殿下…その…」

 「あんな寒冷地帯の田舎に、なんの用事があるというのだ」

 「未開の地であるからこそ、この私がお手伝いの役目を果たすのです」

 「お前、行きたいのか?」

 「父の…命令ですから…」

 「そうか…ならば勝手にしろ」

項垂うなだれて返事をしたランスロットはリカルドと共に執務室へと戻って行きました。


 数日後、そこには馬に跨り北方を目指す旅支度のシルヴィの姿がありました。

ソランは海に囲まれたとても寒い未開の国です。しっかりと防寒具を携えたシルヴィでしたが、出発の時間になってもランスロットは現れませんでした。彼の「馬車と手練れの従者10人を用意してやる」との申し出をシルヴィが断ったからです。

 「リカルド様、それでは行って参ります」

 「シルヴィウス、気を付けて」

この旅の目的が全くもって分からないままシルヴィはただただ馬を走らせ、ソランへと向かって行くのでありました。




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