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ランスロットの思いつき
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ここは、3,000年の歴史を持つ大国メルノタ王国。代々、王位継承権を持つ国王が治めている緑豊かな国です。
現在の国王はタイタロス王。文武両道に優れた人物で国民にも人気のある王です。彼には王子がおりました。名をランスロットと言い、王位継承権を持つ大事な後継です。
そのランスロット王太子がもうすぐ成人の儀を迎えます。
城内のみならず、国内でもその祝宴に向けての準備がなされていました。儀式の進行はもちろんのこと、招待する諸国の所要人物への礼儀作法、王子の冠、衣装、そして祝砲やそのあと行われる宴の準備と、慌ただしくなってきておりました。しかし、当の本人は儀式そっちのけで過ごしていました。いつものように護衛であるシルヴィを従え、城内の庭の長椅子に横たわり、昼寝をしています。
「殿下、そろそろ城に戻らないと、ヤナフ侍従長が心配します」
シルヴィの声に反応しますが、すぐに顔を背けてしまいます。
「よい。どうせ向こうから探しに来る」
「侍従長に叱られるのは私です。どうかお戻りを」
シルヴィの懇願に、やっと起き上がったランスロットはとても不機嫌な顔をしています。
「1人静かに過ごすこともできんのか、俺は」
「殿下はこの地に唯一なるものなれば。国王陛下もこの度の祝宴、大変待ち遠しく思われておられます」
シルヴィの仰々しい言葉にさらに無愛想になるランスロットは
「お前は昔からそうだ。真面目ぶって気に食わん」
と、彼女を突き放すのです。
「私の役目は貴方様をお守りすること。それが幼少の頃より与えられた任務なのです」
シルヴィは敵国キリーナの人質として、幼い頃この地にやってきた人間でした。キリーナ王が身分の低い側室に産ませた娘で、戦争を仕掛けない証としてシルヴィを差し出したのです。
ランスロットと年の近い彼女を見たタイタロス王は、彼女を王子専属の護衛官として王家に仕えさせるよう侍従長に伝えました。様々な分野を習得し如何なる場合でも対応できるよう訓練させたのです。そしてシルヴィは幼い頃より剣技や体術を学び、数学や歴史学はもちろんのこと、交渉術などの戦術にも研鑽を積んできました。常に身を挺して危険からランスロットを守ってきたのです。
「お前は『成人の儀』の内容を知っているな?」
「恐れながら。このときを迎えるためお守りしてきたも同然で…」
「御託はいい。なぜ俺が当日用意された女と一夜を共にせねばならぬのだ」
ランスロットは怪訝な顔をして、シルヴィに問い詰めます。
「最高神官が受ける神託により選ばれた姫君です。必ずや貴方様に幸せをもたらしてくれることでしょう」
「そんなことを言っているわけではない。この国の古いしきたりが嫌なのだ」
成人の儀を受ける王位継承者は、今後の邪を退ける意味として、神託が下された清らかな乙女と一夜を共にします。この乙女が誰であるかは、その日のそのときでしか知らされません。また過去には、その乙女と継承者が婚姻を結んだこともあるのでした。
ランスロットは手元にあった小枝をパキリと手折り、唇に運んで目を伏せてしまいました。
「殿下、全ては運命なのです。私も貴方が出逢うこれからの厄災を断ち切るため、その運命のため、お側に控えているのです」
ランスロットは「そうか」と言い
「ならば、お前もその場にいるのだな」
と顔を上げました。
「はい、お側におります」
シルヴィが答えたのを聞くと
「ならば、そうか」
と、だけ言い笑みを浮かべるのでした。
機嫌が戻ったランスロットは、城内へと戻ることにしました。このとき、ランスロットがあることを思いついたのですが、シルヴィには知る由もなかったのです。
現在の国王はタイタロス王。文武両道に優れた人物で国民にも人気のある王です。彼には王子がおりました。名をランスロットと言い、王位継承権を持つ大事な後継です。
そのランスロット王太子がもうすぐ成人の儀を迎えます。
城内のみならず、国内でもその祝宴に向けての準備がなされていました。儀式の進行はもちろんのこと、招待する諸国の所要人物への礼儀作法、王子の冠、衣装、そして祝砲やそのあと行われる宴の準備と、慌ただしくなってきておりました。しかし、当の本人は儀式そっちのけで過ごしていました。いつものように護衛であるシルヴィを従え、城内の庭の長椅子に横たわり、昼寝をしています。
「殿下、そろそろ城に戻らないと、ヤナフ侍従長が心配します」
シルヴィの声に反応しますが、すぐに顔を背けてしまいます。
「よい。どうせ向こうから探しに来る」
「侍従長に叱られるのは私です。どうかお戻りを」
シルヴィの懇願に、やっと起き上がったランスロットはとても不機嫌な顔をしています。
「1人静かに過ごすこともできんのか、俺は」
「殿下はこの地に唯一なるものなれば。国王陛下もこの度の祝宴、大変待ち遠しく思われておられます」
シルヴィの仰々しい言葉にさらに無愛想になるランスロットは
「お前は昔からそうだ。真面目ぶって気に食わん」
と、彼女を突き放すのです。
「私の役目は貴方様をお守りすること。それが幼少の頃より与えられた任務なのです」
シルヴィは敵国キリーナの人質として、幼い頃この地にやってきた人間でした。キリーナ王が身分の低い側室に産ませた娘で、戦争を仕掛けない証としてシルヴィを差し出したのです。
ランスロットと年の近い彼女を見たタイタロス王は、彼女を王子専属の護衛官として王家に仕えさせるよう侍従長に伝えました。様々な分野を習得し如何なる場合でも対応できるよう訓練させたのです。そしてシルヴィは幼い頃より剣技や体術を学び、数学や歴史学はもちろんのこと、交渉術などの戦術にも研鑽を積んできました。常に身を挺して危険からランスロットを守ってきたのです。
「お前は『成人の儀』の内容を知っているな?」
「恐れながら。このときを迎えるためお守りしてきたも同然で…」
「御託はいい。なぜ俺が当日用意された女と一夜を共にせねばならぬのだ」
ランスロットは怪訝な顔をして、シルヴィに問い詰めます。
「最高神官が受ける神託により選ばれた姫君です。必ずや貴方様に幸せをもたらしてくれることでしょう」
「そんなことを言っているわけではない。この国の古いしきたりが嫌なのだ」
成人の儀を受ける王位継承者は、今後の邪を退ける意味として、神託が下された清らかな乙女と一夜を共にします。この乙女が誰であるかは、その日のそのときでしか知らされません。また過去には、その乙女と継承者が婚姻を結んだこともあるのでした。
ランスロットは手元にあった小枝をパキリと手折り、唇に運んで目を伏せてしまいました。
「殿下、全ては運命なのです。私も貴方が出逢うこれからの厄災を断ち切るため、その運命のため、お側に控えているのです」
ランスロットは「そうか」と言い
「ならば、お前もその場にいるのだな」
と顔を上げました。
「はい、お側におります」
シルヴィが答えたのを聞くと
「ならば、そうか」
と、だけ言い笑みを浮かべるのでした。
機嫌が戻ったランスロットは、城内へと戻ることにしました。このとき、ランスロットがあることを思いついたのですが、シルヴィには知る由もなかったのです。
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