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1巻
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しおりを挟む第一章
「シャインよ、俺たちの関係は終わりにしたい。婚約解消を宣言する」
「えっ? 本当に良いの!?」
私――シャイン=スコーピン十六歳は、あまりにも衝撃的なことを言われて驚きをあらわにした。幼馴染である婚約者、ソルド=ゾイレは私の様子を見てゲラゲラとあざ笑い、勝ち誇るような表情をしている。
「俺たちは貴族なのに、シャインは料理にばかり夢中ではないか。そんなもの使用人に任せれば良いことだし、シャインがする必要などない。それをいつまでも理解できないようなバカは、俺の婚約者にふさわしくない」
私たちが住んでいるパティッシェ王国は、王制の元、貴族たちが領地を管理している。
かつては、身分の差からくる貴族と平民の対立も問題になっていたが、今では貴族と平民の関係性も良好なものになってきた。そのため、ここ数十年の間に、貴族でも平民と同様の仕事をする機会が増えてきている。
お父様は伯爵の地位を賜っており、その責務として領地の管理をしているが、それとは別に平民に向けた料理を提供する店も経営している。それもただ人を雇うだけでなく、自ら料理人として腕を振るっているのだ。
つまり、ソルドの言葉はお父様のこともバカ呼ばわりしているようで嫌だった。
私もお父様の料理が大好きで、いつか同じくらいのものを作れるようになって、食べてくれた人を喜ばせたいという思いがある。その思いを胸に、料理を楽しみながら日々研究をしてきた。
そのことはもちろんソルドも知っているし、最初は応援してくれていたのだけれど……
「料理は私にとって命のようなものだから、辞めることはできないって言ってきたよね。ソルドに会う時間は削っていなかったし、婚約者としての務めは果たしていたと思うんだけど、それでも料理を理由に婚約を解消するつもり?」
「俺の立場を考えてくれ。料理人も雇わずに子爵を名乗れるかよ。それに……どうせ大したものも作れないんだろ?」
「う……」
料理に関しては、侮辱されたくない。でも、ソルドの言うとおり私の実力はまだまだだ。
それでも少しずつ腕を磨いて、ソルドに食べてもらおうと何度も料理を作って届けたのだが、『ぬるいものなど食べられるか』と、その場で捨てられてしまう始末。
どうやってソルドを納得させれば良いのかわからないままだった。
「はっはっは、そんなに強がらなくて良いさ。本当は俺にこんなことを言われ、泣きたいのを堪えているんだろ?」
「そんなことは……」
ある。失礼ながら婚約解消宣言に関しては、嬉し過ぎて涙が出そうだった。そんなことを言ってしまえば、ソルドのプライドを傷つけるだろうし、これ以上なにも言わない。
「婚約を解消することは、ソルドのお父様は知っているの?」
「報告する必要はない。なぜならば、父上の所有する領地の一部を引き継ぐため、既に爵位も正式に引き継いだのだからな」
「それって……」
またソルドの勘違いが始まったようだ。たしかにソルドの父親は、もうすぐ結婚を控えているから爵位をソルドに継承しても良いだろうと言っていた。
でもそれは、私たちが結婚することが前提にある話だとも言っていたのだ。ここで結婚がなくなったら、ソルド自身が大変なことになるだろう。
「父上はすでに引退した。子爵位を継いだ今の俺ならば、わざわざ好きでもないシャインと結婚せずとも、その辺の可愛い令嬢が近寄ってくるだろうからな。俺はモテ期を満喫してから結婚したいのだよ」
どこからそのような自信が湧いてくるのか。
ソルドは気がついていないかもしれないが、彼の評判は最悪である。私も知り合いから、『婚約は考え直したほうが良い』と何度も言われてきたものだ。散々嫌味を言われ続けているから助ける義理なんてないかもしれないけれど、念のためにこれだけは確認をしておく。
「はぁ……。私は婚約を解消しても構わないけど、せめてお父様と相談してから決めたらどう?」
私の場合、結婚相手は好きにして構わないと両親から言われていた。これも貴族と平民の距離が近づいて、いろいろと自由になってきたからだろう。
小さいころのソルドは純粋無垢で、明るく非の打ちどころもない少年で将来が期待されていた。
そんなソルドと私は生まれた時からの幼馴染で、小さいころはとても仲が良かった。
私も昔のソルドとは一緒にいて居心地が良かったし、楽しかった。あくまで小さいころの話で、恋という感覚ではなかったと思う。でも、将来彼と結婚するのだと受け入れていたのだ。
だが、いつだったかは明確に覚えていないが、ソルドは別人のように変わってしまった。今では女たらしの金の亡者である。妙に自信満々な態度と身勝手な行動で、私はウンザリしている。何度も昔のソルドに戻って欲しいと色々と言ってみたり注意したりしてみたりしたが、無駄だった。
挙句の果てに料理のこともお父様のこともバカにされて、さすがに限界。
つまり、この婚約解消はむしろ好都合だった。それでも婚約解消したと知ったときのソルドの父親の顔を想像したら、自分からは別れようと言えなかっただけ。
「俺に離れないでくれと訴えてももう遅い。シャインは、婚約者として俺が何度身体を求めてもかたくなに拒否してきただろう」
「結婚するまでは当然のことだと思うのだけれど……」
「シャインのそういうところが俺にはダメなんだ。もっと自由に楽しく生きれば良いんだよ。今の貴族社会がそうだろ? 平民のように自由に恋愛することも認められてるんだから」
はぁ。都合の良い部分だけは自由になった貴族社会を使うのね。
しばらくソルドが持論を展開した。もちろん、私の話はまったく聞いてくれない。これも彼を嫌ってしまう要因のひとつでもある。
「と、いうわけだ。シャインは俺がいなくなって大変かもしれないが、まぁ元気にやってくれ。幼馴染として応援はしてあげよう」
「はぁ、じゃあもう婚約解消は確定なのね?」
「当然だ。本来はシャインの怠慢を理由にした婚約破棄で慰謝料をと思っていたが、幼馴染の縁で許してやろうという俺の優しさだ。感謝しろよ。ところで、用件も済んだしそろそろ帰ってくれないか?」
ソルドは私を無理やり呼び出しておきながら、用件が済んだら今度は帰れの一点張り。彼とは生まれた場所も誕生日も一緒で、おまけに家が隣同士の腐れ縁。
だが、その関係も婚約解消となればもう終わりと考えて良いだろう。私は、長くのしかかっていた重荷から解放された気分で、足取りが軽かった。ひとまずはお父様たちに早急に報告しなければ。
私は一人微笑みながら、お父様が運営している料理店に向かった。
◇
お父様は王都から少し離れた小さな領地を管理しながら、こじんまりとしたオシャレな雰囲気の料理店を趣味で経営している。
趣味とは言っても料理に対しては常に真剣で、その評判も良い。私もお父様に憧れて料理を習うようになったのだ。将来、支店を作って料理長になりたいという夢もある。
さて、お父様のお店は開店当初は貴族の気まぐれと遠巻きにされたこともあるようだが、口コミで評判が広がり今では料理で大人気。常に満席状態である。
今日も満席で、しかも、いつも接客対応をしている従業員がいないようでとても忙しそうだ。報告している余裕などないため、すぐにお父様がいる厨房へ向かった。
「おー、シャインか。今日も手伝ってくれるのか?」
「もちろんです」
「助かる。盛りつけを頼む」
私は、食事は味覚嗅覚だけでなく、視覚からも楽しむべきではないかと思っていた。お父様もその点は認めてくれて、私がこの店で手伝う時は盛りつけを担当することが多い。
サラダや前菜の盛り合わせを、綺麗に盛りつけていく。
「お待たせしました。前菜の盛り合わせです」
「「「「「おぉぉぉぉおおおおおっ!」」」」」
お客さんたちが一斉に歓声をあげながら拍手をしてくれる。
毎度のことだけれど、大袈裟だよ……
「シャイン様のお出ましだ!」
「いや~いつ見ても可愛いし、シャインちゃんがいるとさらにおいしく感じるんだよなぁ~」
「じゃあ、俺は裏メニューのシャインスペシャルをオーダーしようかな」
お客さんたちは、私のやる気スイッチをさらに上げてくれる。彼らがいつもおいしいと言ってくれるから、より満足してもらうためにはどうしたら良いのか考えられる。
「スペシャルは今から作るので、それなりに時間はかかりますからね」
「問題ないよ。なんなら朝までだって待つさ。そんくらい、シャインちゃんの料理は格別だ」
「またまたお世辞を……」
常連さんたちは私のことをやたらと可愛がってくれる。お父様の店で働いている間は、皆さん私のことを貴族令嬢としてではなく、一人の従業員として見て対等に接してくれる。気が楽だし、会話をしていて楽しい。
しかも、私が用意した試作料理を気に入って、毎回注文してくれるのだ。勝手にシャインスペシャルと命名されたことに関しては恥ずかしいと思っているが。
盛りつけをしながら、同時進行でシャインスペシャルも調理していく。毎回余った食材で作るから、なにを出すかは決まっていない。
今日はトマトとだし汁が余っているから、トマトのスープでも作ろうかな。
あぁ、この時間が幸せ!
食べものの恵みに感謝しながら野菜や果実の香りを堪能。癒される~!
しばらく煮込んだあと、出来上がったトマトスープを提供した。
「煮込み時間が短かったので、しっかりと旨味が浸透していません。酸味も残っていますが、それもバランスよく仕上がっていると思います」
私は常連さんたちに、毎回正直に報告してから料理を提供するようにしている。料理に関してはまだまだ見習いの身分でありながら、シャインスペシャルに代金を支払ってもらっているのだ。もちろん、手抜きをしているわけではないが、きちんと説明する必要があると思う。
「これだけの味で文句などあるわけないですよ」
「マスターには悪いが、料理の腕は娘に抜かされたんじゃね?」
「おいおい、マスターは国王陛下の舌をも魅了させた一流料理人でもあるんだぞ? だが確かに、シャインちゃんのこのスープも負けずとうまい……」
「はは……私なんてまだまだ半人前です。これからも精進しますね」
優しいお客さんたちと会話するのもまた私の癒し。
だが、今日は店が普段よりも混んできた。さすがにのんびり常連さんと喋っている状況ではないため、厨房に戻ってせっせと作業をこなした。
◇
いつの間にか日も暮れ、店じまいの時間になった。
「あー、楽しかった」
「シャインが手伝ってくれたおかげで助かった。いつもすまんな」
「そんな! これからもお父様を見習って料理の腕を上げていきたいと思っています」
「……お前は自分の実力を理解したほうが良いかもしれないな」
「へ?」
「それより、なにか話があって来たんじゃないのか?」
「あ、すっかり忘れていました」
料理をしている間はとにかく楽しい。さっきソルドに言われたことすら忘れてしまうほどである。お父様、ドジな私を見ながら呆れないでね。さて、ここからは真面目に話さなければ。
「実は……」
ソルドに言われたことを、全てお父様に報告した。婚約解消になったということは遅かれ早かれ広まってしまうだろう。それだけで貴族として家名に傷がつく。もう貴族家からの新たな縁談はないと思って良いだろう。
いくら貴族社会が自由になってきたとはいえ、貴族令嬢がその務めを果たさないのは問題だ。
それに、ソルドとの縁談がダメになったのも、私が料理に夢中になりすぎたことが原因。女癖が悪くなったのも、私がかたくなに身体を許そうとしなかったからかもしれない。
私は深く謝罪をし、頭を下げた。
「婚約解消になったのか。むしろ好都合だ」
「しかしお父様に……いえ、スコーピン伯爵家の名に傷をつけてしまったのですよ」
「それは相手にもよるだろう。とにかくソルドの評判は酷いものだった。そもそも、シャインの気持ちを確かめたうえで、私から婚約を解消するために動くつもりでいたくらいだ」
お父様の優しい言葉を聞き、幾分か心が救われたような気がする。
本当は婚約解消だって、全力を出せば阻止することができた。そう、家の名誉を思い貴族令嬢としての務めを果たすことを思えば、ソルドを全力で説得することが一番正しい道だった。
だが、そうしてソルドと結婚したあとは、地獄のような生活が待っていただろう。
ソルドは私が趣味で料理をすることにも嫌な顔をしていたし、その辺りですでに馬が合わない。
私は、結婚してからも仕事として料理をしていきたかった。貴族令嬢としての責務よりも、自分の夢を優先してしまったのだ。
「お父様に婚約相手を決めていただいたほうが良かったのかもしれませんね……」
「そんなことはない。それにソルドとの婚約は半ば強引なものだったが、私も昔の彼ならば良いと思っていた。少し裕福になったからと言ってここまで変貌するとはな……」
お父様とソルドの父親とは昔は深いつき合いがあったが、ここ最近はご無沙汰だ。いつしか彼らはお金の周りが良くなったようで、それからというもの別人のように変わってしまったのだ。
今ではお父様はソルドのことをよく思っていないし、彼の父親すら警戒している気がする。
昔のことばかり思い出すと悲しくなってくる。
料理店は、しばらく静まり返った重い空気に包まれた。
「ところで、さきほど私が縁談相手を決めたほうが良かったなどと言っていたな?」
「はい。伯爵家の娘としてせめてもの償いをしたいです。あ……でも料理だけは認めてくださるお相手で……」
「はっはっは。そこだけは譲れないのだな」
お父様は嬉しそうな表情をしていた。
「実は以前、シャインと話をしたいと言ってきた男がいるのだよ……あまり勧めはしないが、一度会ってみても良いかもしれないな」
「縁談ということですか?」
「いや、そうではない。だが二人で話したいとのことで、シャインには婚約者がいるからと保留にしておいたのだ。相手も相手だしな……」
「どなたですか?」
「エムルハルト=クノロス公爵様だ……」
お父様は言い淀みながらその名前を告げた。なぜ躊躇っていたのかはすぐに理解できた。
クノロス公爵様と言えば、何年か前に両親を亡くし、若くして公爵を継承されたお方だ。王家に連なる血筋で見目麗しく、貴族令嬢からの人気も高い。
だが、最近はすっかり社交場から姿を消して、冷徹な発言と人を避けるような行動が目立つとの噂だ。お近づきになろうとして、泣かされた女性は数知れず。
裏では、『冷酷無愛想公爵様』と囁かれるほどである。
そんな公爵様が私にいったいなんの用があるのだろう。ちょっと恐いけれど、話によっては伯爵家に益をもたらすかもしれない。
覚悟を決めよう。一度もお会いしたことはなかったし、会ってみようと思う。
ある意味、ソルドのおかげで大抵のことならば我慢できるようになった。万が一公爵様から暴言を吐かれたとしても、よほどのことがない限り傷つくことはない。よしっ、決まった!
「わかりました。クノロス公爵様と会ってみようと思います」
「そんなにあっさりと……、シャインが心配だし、私としては上手く断りの連絡をしても良いのだが」
「女性に対して冷たいとは聞いたことがありますが、暴行をするような方ではないでしょう。酷いことを言われたとしても問題ありませんよ」
「そうか……だが、決して無理はしないように。とんでもないことを言われたり、嫌なことをされたりしたら立場など気にせず逃げるのだぞ」
「もしものときは、自前のフライパンでやっつけますね」
「十六年育ててきだが、冗談か本気なのかわからん」
私は大丈夫だから心配しないでくださいという意味合いも含めて、冗談まじりで場の空気を和ませた。なお、実際にフライパンは持っていかないし、公爵様に手をあげるような度胸なんてない。
そんな話をした五日後、あっという間にクノロス公爵様から手紙の返事が届いた。『すぐにでも話をしたい、いつでも構わないから来てもらいたい』とのことだった。
どうやら急ぎのようだし、手紙を確認した当日に公爵邸へ向かうことにした。
「では行ってきます」
「無理はしないようにな」
馬車に乗り、王都中央付近にあるクノロス公爵邸へ向かった。
◇
クノロス公爵様の亡き父上は、現在の国王陛下の弟にあたる。
つまりクノロス公爵様は国王陛下の甥で、王家に連なる方だ。そんな立場の方とお会いするにあたって、身嗜みは最大限整えている。
実のところ今になってビクビクしてきた。伯爵家といえどもただの一令嬢で、身分の高い方と会う機会はそう多くはない。なによりも、クノロス公爵様の噂は恐ろしいものだらけなのだ。
公爵邸の大きな門に到着したころにはとんでもない緊張が走り、心臓の鼓動がエグい。大丈夫よ私。いざとなったらダッシュで逃げるんだから!
よし、覚悟は決まった。
公爵邸の入り口にいる門番にクノロス公爵様の手紙と一緒に送られてきた招待状を見せたら、あっさりと通してくれた。
公爵邸の敷地に入るのは、もちろん初めてである。庭園や花壇はどういうわけか枯れているものが多く、萎れてそのまま放置されている状態だ。庭は放置状態なのかもしれない。
しかし、奥にある巨大な建物を見て圧倒される。あらためて、ものすごい人から対談を求められているのだなと思う。
手土産としてシャインスペシャルを用意していたけれど、むしろ失礼だったかもしれない。
スコーピン家の十倍以上ありそうな屋敷の前に到着し、馬車を降りた。屋敷の入り口前には執事と思われる方がひとり、出迎えてくれていた。
「お待ちしておりました、シャイン様。応接室へご案内いたします」
「お招きいただきありがとうございます。突然の訪問になってしまい申しわけございません」
「いえいえ、むしろ早く来てくださったことに大変お喜びになっておられましたよ。さあ中へどうぞ」
「そうですか……」
喜ぶ……? クノロス公爵様が……? 冷酷無愛想って噂なのに、なんだか怪しくなってきた。むしろ噂だけで、実は違うのではないかという期待もしてしまう。
どのようなお方なのか少しだけ楽しみにしながら屋敷へ入った。
◇
執事さんの案内で応接室へ入ると、テーブルの上には飲み物とお菓子が用意されていた。
ところで屋敷に入ってから誰一人として見かけていない。他の使用人たちはどちらへ?
「こちらで座りお待ちください。まもなく来るかと」
「はい、失礼します」
しばらく応接室で待っていると……
「待たせてすまない。俺がエムルハルト=クノロスだ」
年齢は私よりも少しだけ上くらいか。スラリとした体型で高身長。青みがかった少し長めの髪、芸術作品かと言うほど整った顔立ち。噂以上のイケメン公爵様である。
ただ、どことなく顔色は悪そうだった。
私はすぐに立ち上がり深くお辞儀をする。
「ご招待いただきありがとうございます。シャイン=スコーピンと申します。私の父は料理店を営んでいて、私も手伝っているのですが……これはご挨拶にと作ったものです」
言葉は冷静に。けれども緊張は最高潮。内心ビクビクのガクガクで震えている。必死に震えを堪えてひとまず手土産を執事さんへ渡した。直接手渡しは色々と問題があるからと思ったのだけど、執事さんはそのままクノロス公爵様に渡してしまう。
そしてクノロス公爵様は興味深そうにシャインスペシャルを眺めている。
トマトとモツァレラチーズのオリーブオイルソース乗せ。
焼いてサクサクにした無糖ラスクにレバーペーストを乗せたもの。
キャベツにクミンとレモン汁とお酢などを混ぜ合わせたキャベツのクミン風味。
今日のシャインスペシャルはおつまみ的なものを詰め合わせにしてきた。
「ひとまず座ってくれ。これはキミが作ったのか?」
「はい。お口に合えば良いのですが」
公爵様の立場を考えると、毒見役を置くことは安全上あたりまえだろう。
しかし驚くべきことに、クノロス公爵様は毒見役を通さずにいきなりムシャムシャと食べはじめてしまったのだ。
「……うまい!」
クノロス公爵様のひとことは、私にとっては嬉しかった。
それと同時に彼のことが心配になってしまう。
「毒見役など通さずに良いのですか?」
私は思ったことをそのまま口にした。初対面だし、公爵という立場なのだから、私のことをもっと警戒しても良いはずだ。
だがクノロス公爵様は、私の真剣な表情を見ても顔色一つ変えず告げた。
「キミが作ったのだろう? ならば大丈夫だ」
「しかし、念のためにも……」
「ん? なにか問題でもあるのか?」
「い、いえ。もちろん変なものなどは入れていませんが、警戒はしないのですか?」
「……そんなもの、必要ないだろ」
目が真剣だった。
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