上 下
50 / 61

エウレス皇国の大使

しおりを挟む
「なんですと⁉︎ では人為的に水不足が起こっていたと……」
「水魔法を使ってお金儲けをしていたようですね」
「おのれ、国の恥さらしな連中め……。だが、民を守るためには従うしか……」

 カイエン陛下が落胆した表情をしていた。
 国で捌ければいいのに。
 だが、カルム様のためにもあいつらの好きにはさせないつもりだ。

「いえ、もう水不足の心配はいりませんよ」
「え?」
「この聖獣が、どんなに水を吸収して水不足にさせようと頑張っても枯れることがないようにしてくれました。すでに湖は元の状態に戻っています。これが汲んできた水です」

 水筒をカイエン陛下に渡す。

「なんとこの短期間で⁉︎  聖女様の聖獣が……」
「念のために、時々力を発動させに来るので、湖がからっぽになることはないかと思います」
「我が国のためにそこまでしていただけるなんて……。なんとお礼を言えばいいのやら」

 カイエン陛下は涙目になりながら喜んでいるようだった。

「お呼びですかな?」
「魔導士がグルになり、国の心臓とも言える湖の水を消したのだな?」
「な……何を仰っているのでしょうかね」
「わざと水不足にさせ、その上で水を販売したのだろう」

 魔導士が汗をダラダラと流し、身体もガクガクと震えている。
 わかりやすい。
 カルム様もカイエン陛下も、魔導士の仕草を見て呆れているようだ。

「エウレス皇国の大使としてそんなことするわけがないじゃないですかぁ!」
「え? エウレス大使? まさか、サージェ=クロノスですか?」
「何故部外者のアンタが私の名を⁉︎ いや待て。その奇妙な生き物に見覚えが……」

 魔導士もとい、サージェが焦りを見せている。
 私も、エウレス皇国にいたときの嫌な記憶を思い出してしまった。

「今回の行為はラファエル様の指示によるものですか?」
「リリアよ、どういうことだ?」
「まだ私がエウレス皇国にいた時、この方にデインゲル王国の金や財宝を手に入れないかと勧誘されたことがありまして……」

 こんな誘いを受けたら普通なら記憶に残るだろう。
 だが、そんなことすら日常茶飯事だった。
 大使と聞き、ようやく思い出せたのだ。

「確か、ラファエル皇太子の提案とも言っていましたよね。もしかして、先ほど湖にいた者は全員エウレス皇国の使いしょうか?」
「このクソ偽聖女がぁぁぁ‼︎」

 怒声が響いた。
 これには他の二人や護衛も驚いていたようだが、私は澄ました顔をしている。
 やがてサージェが我にかえったようで、焦りながらも弁解を始めた。

「違うのですよ陛下! この者はエウレス皇国で身分を誤魔化していた偽りの聖女です!」
「ほう? では大使に問うが、何の身分を誤魔化したのかね?」
「この女は、自分は聖女だと主張し、王族や貴族をも騙し続けていた女です。私がこちらへ来てから数年経った今も、こうして人を騙し続けているのですよ!」
「なるほど……これでハッキリとした」

 カイエン陛下がやれやれといった感じで玉座の椅子から立ち上がる。
 そして、右腕を上げた。

「大使を捕らえよ!」

 後方に控えていた兵士たちがあっという間にサージェを取り押さえた。
 サージェはジタバタしていたが、やがておとなしくなる。

「こんな嘘つき女の言うことを信じるつもりですか⁉︎」
「当然だ。リリア様がカサラス王国でどれほど活躍されているかも分からぬようだな。更に侮辱の数々……、我が国には必要ない。大使よ、我が国には今後出入り禁止とする」

「良いのですか? 私ら魔導士がいなければいずれ隣のカサラスのような水のない国に変貌するでしょうな」
「なんとでも言うが良い。私はリリア様を信じている。尚、貴国の王にも伝えよ。今後国交断絶とし、物資の輸出輸入も全て行わぬ!」

「な⁉︎」
「我が国に不利益をもたらするような指示を、王がするような国とは関わらぬ。そう伝えておけ」
「後悔しても知りませんぞ!」

 サージェはブツブツと文句を垂れ流しながら、部屋から姿を消した。

「さすがに私のことを信用しすぎでは……?」

 全て事実だ。
 だが、カイエン陛下は実際の動向は知らないはず。
 それなのに私の発言ばかりを聞いてくれていた。
 国の最高責任者であるのだから、もう少し疑っても良いんじゃないかと思ってしまう。

「はっはっは! 何をおっしゃいますか。リリア様のことは昔から知っておりますよ。それに、今回の騒動のおかげでようやくあの大使を追放することができましたよ。おまけに堂々とエウレス皇国と関わらずにすみました」

「なるほど、さてはカイエン陛下……。今回の事件を利用しましたな」
「すまない。もしも計画を考えていなければ、大使がリリア様に初対面した段階で怒鳴っていたよ。あのような無礼者を許せるわけがなかろう……」

 詳しく聞くと、サージェは元々問題が多かったそうだ。
 エウレス皇国とも最近イザコザがあり、どうにか国交断絶の方向に持っていきたかったらしい。
 だが、モンスターが出現し、湖が枯れてしまったため頼らざるをえなかったという。

「カルム殿とリリア様が来てくださったおかげで、我が国の問題が解決できましたよ。なんとお礼を言えば良いのやら」
「お気になさらず。それよりも湖近辺にいた大使の仲間らしき者たちはどうされます?」
「それはこちらで手を打っておきましょう。召喚魔法で水さえ枯れなければ安心ですからな。リリア様と聖獣のおかげです!」

 本来の目的の同盟はあっさりと結ばれることになった。
 何故かデインゲル王国の方々から、私は英雄聖女と語られるようになってしまった……。

 そして後日、デインゲル王国とエウレス皇国は国交断絶となったが。
 エウレス皇国には水の加護はもうないだろうし、頼れる国はもうない。

 大丈夫だろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?

長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。 王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、 「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」 あることないこと言われて、我慢の限界! 絶対にあなたなんかに王子様は渡さない! これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー! *旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。 *小説家になろうでも掲載しています。

追放された令嬢は英雄となって帰還する

影茸
恋愛
代々聖女を輩出して来た家系、リースブルク家。 だがその1人娘であるラストは聖女と認められるだけの才能が無く、彼女は冤罪を被せられ、婚約者である王子にも婚約破棄されて国を追放されることになる。 ーーー そしてその時彼女はその国で唯一自分を助けようとしてくれた青年に恋をした。 そしてそれから数年後、最強と呼ばれる魔女に弟子入りして英雄と呼ばれるようになったラストは、恋心を胸に国へと帰還する…… ※この作品は最初のプロローグだけを現段階だけで短編として投稿する予定です!

大好きな第一王子様、私の正体を知りたいですか? 本当に知りたいんですか?

サイコちゃん
恋愛
第一王子クライドは聖女アレクサンドラに婚約破棄を言い渡す。すると彼女はお腹にあなたの子がいると訴えた。しかしクライドは彼女と寝た覚えはない。狂言だと断じて、妹のカサンドラとの婚約を告げた。ショックを受けたアレクサンドラは消えてしまい、そのまま行方知れずとなる。その頃、クライドは我が儘なカサンドラを重たく感じていた。やがて新しい聖女レイラと恋に落ちた彼はカサンドラと別れることにする。その時、カサンドラが言った。「私……あなたに隠していたことがあるの……! 実は私の正体は……――」

国外追放を受けた聖女ですが、戻ってくるよう懇願されるけどイケメンの国王陛下に愛されてるので拒否します!!

真時ぴえこ
恋愛
「ルーミア、そなたとの婚約は破棄する!出ていけっ今すぐにだ!」  皇太子アレン殿下はそうおっしゃられました。  ならよいでしょう、聖女を捨てるというなら「どうなっても」知りませんからね??  国外追放を受けた聖女の私、ルーミアはイケメンでちょっとツンデレな国王陛下に愛されちゃう・・・♡

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~

岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。 本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。 別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい! そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる

みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。 「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。 「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」 「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」 追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。

処理中です...