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エウレス皇国の大使
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「なんですと⁉︎ では人為的に水不足が起こっていたと……」
「水魔法を使ってお金儲けをしていたようですね」
「おのれ、国の恥さらしな連中め……。だが、民を守るためには従うしか……」
カイエン陛下が落胆した表情をしていた。
国で捌ければいいのに。
だが、カルム様のためにもあいつらの好きにはさせないつもりだ。
「いえ、もう水不足の心配はいりませんよ」
「え?」
「この聖獣が、どんなに水を吸収して水不足にさせようと頑張っても枯れることがないようにしてくれました。すでに湖は元の状態に戻っています。これが汲んできた水です」
水筒をカイエン陛下に渡す。
「なんとこの短期間で⁉︎ 聖女様の聖獣が……」
「念のために、時々力を発動させに来るので、湖がからっぽになることはないかと思います」
「我が国のためにそこまでしていただけるなんて……。なんとお礼を言えばいいのやら」
カイエン陛下は涙目になりながら喜んでいるようだった。
「お呼びですかな?」
「魔導士がグルになり、国の心臓とも言える湖の水を消したのだな?」
「な……何を仰っているのでしょうかね」
「わざと水不足にさせ、その上で水を販売したのだろう」
魔導士が汗をダラダラと流し、身体もガクガクと震えている。
わかりやすい。
カルム様もカイエン陛下も、魔導士の仕草を見て呆れているようだ。
「エウレス皇国の大使としてそんなことするわけがないじゃないですかぁ!」
「え? エウレス大使? まさか、サージェ=クロノスですか?」
「何故部外者のアンタが私の名を⁉︎ いや待て。その奇妙な生き物に見覚えが……」
魔導士もとい、サージェが焦りを見せている。
私も、エウレス皇国にいたときの嫌な記憶を思い出してしまった。
「今回の行為はラファエル様の指示によるものですか?」
「リリアよ、どういうことだ?」
「まだ私がエウレス皇国にいた時、この方にデインゲル王国の金や財宝を手に入れないかと勧誘されたことがありまして……」
こんな誘いを受けたら普通なら記憶に残るだろう。
だが、そんなことすら日常茶飯事だった。
大使と聞き、ようやく思い出せたのだ。
「確か、ラファエル皇太子の提案とも言っていましたよね。もしかして、先ほど湖にいた者は全員エウレス皇国の使いしょうか?」
「このクソ偽聖女がぁぁぁ‼︎」
怒声が響いた。
これには他の二人や護衛も驚いていたようだが、私は澄ました顔をしている。
やがてサージェが我にかえったようで、焦りながらも弁解を始めた。
「違うのですよ陛下! この者はエウレス皇国で身分を誤魔化していた偽りの聖女です!」
「ほう? では大使に問うが、何の身分を誤魔化したのかね?」
「この女は、自分は聖女だと主張し、王族や貴族をも騙し続けていた女です。私がこちらへ来てから数年経った今も、こうして人を騙し続けているのですよ!」
「なるほど……これでハッキリとした」
カイエン陛下がやれやれといった感じで玉座の椅子から立ち上がる。
そして、右腕を上げた。
「大使を捕らえよ!」
後方に控えていた兵士たちがあっという間にサージェを取り押さえた。
サージェはジタバタしていたが、やがておとなしくなる。
「こんな嘘つき女の言うことを信じるつもりですか⁉︎」
「当然だ。リリア様がカサラス王国でどれほど活躍されているかも分からぬようだな。更に侮辱の数々……、我が国には必要ない。大使よ、我が国には今後出入り禁止とする」
「良いのですか? 私ら魔導士がいなければいずれ隣のカサラスのような水のない国に変貌するでしょうな」
「なんとでも言うが良い。私はリリア様を信じている。尚、貴国の王にも伝えよ。今後国交断絶とし、物資の輸出輸入も全て行わぬ!」
「な⁉︎」
「我が国に不利益をもたらするような指示を、王がするような国とは関わらぬ。そう伝えておけ」
「後悔しても知りませんぞ!」
サージェはブツブツと文句を垂れ流しながら、部屋から姿を消した。
「さすがに私のことを信用しすぎでは……?」
全て事実だ。
だが、カイエン陛下は実際の動向は知らないはず。
それなのに私の発言ばかりを聞いてくれていた。
国の最高責任者であるのだから、もう少し疑っても良いんじゃないかと思ってしまう。
「はっはっは! 何をおっしゃいますか。リリア様のことは昔から知っておりますよ。それに、今回の騒動のおかげでようやくあの大使を追放することができましたよ。おまけに堂々とエウレス皇国と関わらずにすみました」
「なるほど、さてはカイエン陛下……。今回の事件を利用しましたな」
「すまない。もしも計画を考えていなければ、大使がリリア様に初対面した段階で怒鳴っていたよ。あのような無礼者を許せるわけがなかろう……」
詳しく聞くと、サージェは元々問題が多かったそうだ。
エウレス皇国とも最近イザコザがあり、どうにか国交断絶の方向に持っていきたかったらしい。
だが、モンスターが出現し、湖が枯れてしまったため頼らざるをえなかったという。
「カルム殿とリリア様が来てくださったおかげで、我が国の問題が解決できましたよ。なんとお礼を言えば良いのやら」
「お気になさらず。それよりも湖近辺にいた大使の仲間らしき者たちはどうされます?」
「それはこちらで手を打っておきましょう。召喚魔法で水さえ枯れなければ安心ですからな。リリア様と聖獣のおかげです!」
本来の目的の同盟はあっさりと結ばれることになった。
何故かデインゲル王国の方々から、私は英雄聖女と語られるようになってしまった……。
そして後日、デインゲル王国とエウレス皇国は国交断絶となったが。
エウレス皇国には水の加護はもうないだろうし、頼れる国はもうない。
大丈夫だろうか。
「水魔法を使ってお金儲けをしていたようですね」
「おのれ、国の恥さらしな連中め……。だが、民を守るためには従うしか……」
カイエン陛下が落胆した表情をしていた。
国で捌ければいいのに。
だが、カルム様のためにもあいつらの好きにはさせないつもりだ。
「いえ、もう水不足の心配はいりませんよ」
「え?」
「この聖獣が、どんなに水を吸収して水不足にさせようと頑張っても枯れることがないようにしてくれました。すでに湖は元の状態に戻っています。これが汲んできた水です」
水筒をカイエン陛下に渡す。
「なんとこの短期間で⁉︎ 聖女様の聖獣が……」
「念のために、時々力を発動させに来るので、湖がからっぽになることはないかと思います」
「我が国のためにそこまでしていただけるなんて……。なんとお礼を言えばいいのやら」
カイエン陛下は涙目になりながら喜んでいるようだった。
「お呼びですかな?」
「魔導士がグルになり、国の心臓とも言える湖の水を消したのだな?」
「な……何を仰っているのでしょうかね」
「わざと水不足にさせ、その上で水を販売したのだろう」
魔導士が汗をダラダラと流し、身体もガクガクと震えている。
わかりやすい。
カルム様もカイエン陛下も、魔導士の仕草を見て呆れているようだ。
「エウレス皇国の大使としてそんなことするわけがないじゃないですかぁ!」
「え? エウレス大使? まさか、サージェ=クロノスですか?」
「何故部外者のアンタが私の名を⁉︎ いや待て。その奇妙な生き物に見覚えが……」
魔導士もとい、サージェが焦りを見せている。
私も、エウレス皇国にいたときの嫌な記憶を思い出してしまった。
「今回の行為はラファエル様の指示によるものですか?」
「リリアよ、どういうことだ?」
「まだ私がエウレス皇国にいた時、この方にデインゲル王国の金や財宝を手に入れないかと勧誘されたことがありまして……」
こんな誘いを受けたら普通なら記憶に残るだろう。
だが、そんなことすら日常茶飯事だった。
大使と聞き、ようやく思い出せたのだ。
「確か、ラファエル皇太子の提案とも言っていましたよね。もしかして、先ほど湖にいた者は全員エウレス皇国の使いしょうか?」
「このクソ偽聖女がぁぁぁ‼︎」
怒声が響いた。
これには他の二人や護衛も驚いていたようだが、私は澄ました顔をしている。
やがてサージェが我にかえったようで、焦りながらも弁解を始めた。
「違うのですよ陛下! この者はエウレス皇国で身分を誤魔化していた偽りの聖女です!」
「ほう? では大使に問うが、何の身分を誤魔化したのかね?」
「この女は、自分は聖女だと主張し、王族や貴族をも騙し続けていた女です。私がこちらへ来てから数年経った今も、こうして人を騙し続けているのですよ!」
「なるほど……これでハッキリとした」
カイエン陛下がやれやれといった感じで玉座の椅子から立ち上がる。
そして、右腕を上げた。
「大使を捕らえよ!」
後方に控えていた兵士たちがあっという間にサージェを取り押さえた。
サージェはジタバタしていたが、やがておとなしくなる。
「こんな嘘つき女の言うことを信じるつもりですか⁉︎」
「当然だ。リリア様がカサラス王国でどれほど活躍されているかも分からぬようだな。更に侮辱の数々……、我が国には必要ない。大使よ、我が国には今後出入り禁止とする」
「良いのですか? 私ら魔導士がいなければいずれ隣のカサラスのような水のない国に変貌するでしょうな」
「なんとでも言うが良い。私はリリア様を信じている。尚、貴国の王にも伝えよ。今後国交断絶とし、物資の輸出輸入も全て行わぬ!」
「な⁉︎」
「我が国に不利益をもたらするような指示を、王がするような国とは関わらぬ。そう伝えておけ」
「後悔しても知りませんぞ!」
サージェはブツブツと文句を垂れ流しながら、部屋から姿を消した。
「さすがに私のことを信用しすぎでは……?」
全て事実だ。
だが、カイエン陛下は実際の動向は知らないはず。
それなのに私の発言ばかりを聞いてくれていた。
国の最高責任者であるのだから、もう少し疑っても良いんじゃないかと思ってしまう。
「はっはっは! 何をおっしゃいますか。リリア様のことは昔から知っておりますよ。それに、今回の騒動のおかげでようやくあの大使を追放することができましたよ。おまけに堂々とエウレス皇国と関わらずにすみました」
「なるほど、さてはカイエン陛下……。今回の事件を利用しましたな」
「すまない。もしも計画を考えていなければ、大使がリリア様に初対面した段階で怒鳴っていたよ。あのような無礼者を許せるわけがなかろう……」
詳しく聞くと、サージェは元々問題が多かったそうだ。
エウレス皇国とも最近イザコザがあり、どうにか国交断絶の方向に持っていきたかったらしい。
だが、モンスターが出現し、湖が枯れてしまったため頼らざるをえなかったという。
「カルム殿とリリア様が来てくださったおかげで、我が国の問題が解決できましたよ。なんとお礼を言えば良いのやら」
「お気になさらず。それよりも湖近辺にいた大使の仲間らしき者たちはどうされます?」
「それはこちらで手を打っておきましょう。召喚魔法で水さえ枯れなければ安心ですからな。リリア様と聖獣のおかげです!」
本来の目的の同盟はあっさりと結ばれることになった。
何故かデインゲル王国の方々から、私は英雄聖女と語られるようになってしまった……。
そして後日、デインゲル王国とエウレス皇国は国交断絶となったが。
エウレス皇国には水の加護はもうないだろうし、頼れる国はもうない。
大丈夫だろうか。
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