上 下
46 / 61

デインゲル王国

しおりを挟む
「やはりルビーは速いな! 馬で移動してた頃は何日もかけなければデインゲル王国へ辿り着けなかった。二時間もかかっていないだろう……」

 ルビーが急成長したおかげだ。
 今までだとこんな遠くまで来たら、カサラス王国で発動している加護だって一時的に解けていた。
 だが、全くその感覚がない。

「ところで、本当にこのまま王宮へ向かってしまって良いのですか?」
「構わない。事前にこうなる可能性があることを伝えていたからな」

 一体いつから伝えていたのだろうか。
 カルム様の指示どおり、デインゲル王国の王都、中心部にある大きな王宮へ到着した。
 実は、私はここへ来るのは二回目である。
 幼い頃、何かのパーティーでラファエルに連れて来られたことがあったのだ。
 当時の記憶が曖昧で、そのことしか覚えていないが。

 王宮へ到着すると、周りにいた兵士たちがひどく慌てた様子でこちらへ近づいてきた。

「な……、なにものだ?」
「突然の訪問を許してほしい。私はカルム=カサラスで、こちらは聖女リリアである」
「では、あなたが噂の聖女様で⁉︎」
「噂……?」
「大変失礼いたしました! どうぞお通りください」

 チェックとかしなくていいのだろうか。
 カルム様も、「うむ」とだけ言って王宮の中へ入っていこうとした。

「カルム様、そんなにアッサリと他国の王宮へ入っちゃって良いのですか?」
「この国ではすでにリリアの噂で持ちきりだと聞いている。故にリリアが名を名乗った瞬間に兵士の態度も変わったであろう」
「いつの間に……」

 未だに状況がよくわからない。
 ともあれ、本来は何度も身分のチェックをしなければ通過できないような王宮にすんなりと入れたし、良しとしておく。
 王宮の中心部、王座の間で待っていたのは……。

「よくぞ来てくださった‼︎ 心から歓迎しますぞ‼︎」
「ご無沙汰しておりますカイエン陛下。なかなかご挨拶に来れず申し訳ない」
「いやいや、貴国は無理なさらずとも……。だが、ここまで来たということは、やはり聖女様のお力が」
「そうです。ようやく我が国もこちらリリアの活躍により活気が出てきましたよ。貴国には今までのお礼をどうしても言いたかったので」
「ご丁寧に。さすがカルム殿ですな。相変わらずのご配慮嬉しく思います」

 カイエンと呼んでいたお方は、私の方をじっと見てきた。

「リリア様、この度は我が国に再びお越しくださりありがとうございます。成長されて最初はわかりませんでしたよ」

 どうしよう。
 私はカイエン陛下のことを覚えていない。
 これはとんでもなく失礼なことになってしまいそうだ。
 言葉に悩む。

「はっはっは、リリア様よ。そう焦ることもありませぬ。私のことを初対面と思っているのでしょう?」
「も……申し訳ありません。実は昔ここへ来たことだけは覚えているのですが、それ以外の記憶が曖昧で……」
「な……⁉︎ それは誠か?」
「はい……」

 なぜかカルム様がひどく驚いているようだった。
 カイエン様は、特に驚くこともなく平然としている。

「無理もないでしょうな。リリア様の側近にいた王子が、リリア様に対して記憶を抹消する魔道具を与えていたのですから……」
「え⁉︎ ラファエル……さまがですか⁉︎」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大好きな第一王子様、私の正体を知りたいですか? 本当に知りたいんですか?

サイコちゃん
恋愛
第一王子クライドは聖女アレクサンドラに婚約破棄を言い渡す。すると彼女はお腹にあなたの子がいると訴えた。しかしクライドは彼女と寝た覚えはない。狂言だと断じて、妹のカサンドラとの婚約を告げた。ショックを受けたアレクサンドラは消えてしまい、そのまま行方知れずとなる。その頃、クライドは我が儘なカサンドラを重たく感じていた。やがて新しい聖女レイラと恋に落ちた彼はカサンドラと別れることにする。その時、カサンドラが言った。「私……あなたに隠していたことがあるの……! 実は私の正体は……――」

追放された令嬢は英雄となって帰還する

影茸
恋愛
代々聖女を輩出して来た家系、リースブルク家。 だがその1人娘であるラストは聖女と認められるだけの才能が無く、彼女は冤罪を被せられ、婚約者である王子にも婚約破棄されて国を追放されることになる。 ーーー そしてその時彼女はその国で唯一自分を助けようとしてくれた青年に恋をした。 そしてそれから数年後、最強と呼ばれる魔女に弟子入りして英雄と呼ばれるようになったラストは、恋心を胸に国へと帰還する…… ※この作品は最初のプロローグだけを現段階だけで短編として投稿する予定です!

自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?

長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。 王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、 「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」 あることないこと言われて、我慢の限界! 絶対にあなたなんかに王子様は渡さない! これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー! *旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。 *小説家になろうでも掲載しています。

妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~

岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。 本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。 別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい! そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

国外追放を受けた聖女ですが、戻ってくるよう懇願されるけどイケメンの国王陛下に愛されてるので拒否します!!

真時ぴえこ
恋愛
「ルーミア、そなたとの婚約は破棄する!出ていけっ今すぐにだ!」  皇太子アレン殿下はそうおっしゃられました。  ならよいでしょう、聖女を捨てるというなら「どうなっても」知りませんからね??  国外追放を受けた聖女の私、ルーミアはイケメンでちょっとツンデレな国王陛下に愛されちゃう・・・♡

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

【完結】貶められた緑の聖女の妹~姉はクズ王子に捨てられたので王族はお断りです~

魯恒凛
恋愛
薬師である『緑の聖女』と呼ばれたエリスは、王子に見初められ強引に連れていかれたものの、学園でも王宮でもつらく当たられていた。それなのに聖魔法を持つ侯爵令嬢が現れた途端、都合よく冤罪を着せられた上、クズ王子に純潔まで奪われてしまう。 辺境に戻されたものの、心が壊れてしまったエリス。そこへ、聖女の侍女にしたいと連絡してきたクズ王子。 後見人である領主一家に相談しようとした妹のカルナだったが…… 「エリスもカルナと一緒なら大丈夫ではないでしょうか……。カルナは14歳になったばかりであの美貌だし、コンラッド殿下はきっと気に入るはずです。ケアードのためだと言えば、あの子もエリスのようにその身を捧げてくれるでしょう」 偶然耳にした領主一家の本音。幼い頃から育ててもらったけど、もう頼れない。 カルナは姉を連れ、国を出ることを決意する。

処理中です...