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イデアの力
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「エドナ山脈だ」
「え? 前回の遠乗りでエドナ山脈の馬車で移動できる範囲までは行きましたが……」
「途中から馬車では踏み入れぬような急勾配になっただろう。その更に先が侵入禁止なのだよ」
確かに私が何も言わずとも御者がすぐにUターンして戻った記憶がある。
馬車ではあのまま先には行けないから特に気にもしていなかったが、そういうことだったのか。
「王族に伝わる噂では、大昔の聖女様か神様が残した不思議な力が眠っているという……。過去に調査した王族の者も揃って記憶喪失になってしまったから悪魔の力が眠っているのではないかという噂もあるが」
「それを聞いたら行くしかありませんね。例え侵入禁止だとしても、記憶を失ったとしても……」
このまま何もしなければ、カサラス王国はこのまま砂漠の国のままかもしれない。
どちらにしても命を使ってでも国を変えようとしたくらいだ。
ならば行ってみる価値はあるはずだ。
「危険なことに変わりはない。だからこそ今回は反対を押し切ってでも私も同行するが構わぬか?」
「カルム様まで!?」
「リリアが命を賭けてまで行動しようとしているのに、私が動かないでどうする?」
私とカルム様では立場が違うだろう。
義務としても成し遂げなければならない私に対して、国の王子ともあろうお方が命を賭けてまで動き、巻き添いを喰らってしまうかもしれないのだ。
理解ができずに難しい表情をしてしまった。
「やはり立場として考えると、私一人でその場へ向かった方が良いのではないかと……」
カルム王子はしばらく黙ったまま何かを考えているようだった。
流石に抗議しすぎてしまったか。
「リリアよ……もしかして財宝のことを気にしているのか?」
「国の三分の一を払ってまで交渉したと聞きました。故に私にはこの国に水の加護を与える義務があると思っています。たとえ命がけになろうとも」
「だからこそ、リリアが命を粗末にするようなことをされては困る。今はリリアもカサラス王国の人間だ」
カルム様の真剣な説得を聞いていたら私の気持ちが少しだけ変わる。
今までだって、自分の命を粗末にするつもりはなかった。
だが、ルビーをここに呼び出せなければ役に立てない。
「それでも私、そこへ行ってみます!」
「……話は聞いてました。私もエドナ山脈までお供しましょう」
「わ! びっくりした」
メイドのイデアが突然私の後ろ側に現れ、私に向かってそう告げてきた。
イデアは時々、いきなり姿を表すので驚くことが多い。
「ふむ、イデアが一緒ならこれ以上頼れるものはいないが、良いのか?」
「……当然。お嬢様を守るのも私の任務のはず」
イデアはカルム様に対して敬語を使っていない。
前々から気になっていたことだが、カルム様が先に答えてくれた。
「おっと失礼、先に言っておくべきだった。私はイデアとは昔から仲が良かったのだよ。流石に国務や玉座の間では敬語にしてもらっているが、それ以外では普段通りに接するよう話をしていたのだ」
幼馴染のようなものなのだろうか。
私もイデアからは敬語を使わないで仲良くしてほしいと思ってしまうが、今はエドナ山脈のことがあるので考えないでおく。
「イデアは生まれながらに魔力の才能がずば抜けていたらしくてな、王宮直属の魔道士として最初は仕えてもらった。おまけにこの若さで国の騎士団隊長もやっていたのだよ」
「……殿下、ずば抜けてはいない。お嬢様の力の方がきっと上。私では国を救えない」
「リリアよ、イデアも一緒ならば道中の命の危険は激減する。行ってくれるか?」
「勿論です。私から頼みたいくらいですので」
出発までの間、期待だけしかなかったのであった。
「え? 前回の遠乗りでエドナ山脈の馬車で移動できる範囲までは行きましたが……」
「途中から馬車では踏み入れぬような急勾配になっただろう。その更に先が侵入禁止なのだよ」
確かに私が何も言わずとも御者がすぐにUターンして戻った記憶がある。
馬車ではあのまま先には行けないから特に気にもしていなかったが、そういうことだったのか。
「王族に伝わる噂では、大昔の聖女様か神様が残した不思議な力が眠っているという……。過去に調査した王族の者も揃って記憶喪失になってしまったから悪魔の力が眠っているのではないかという噂もあるが」
「それを聞いたら行くしかありませんね。例え侵入禁止だとしても、記憶を失ったとしても……」
このまま何もしなければ、カサラス王国はこのまま砂漠の国のままかもしれない。
どちらにしても命を使ってでも国を変えようとしたくらいだ。
ならば行ってみる価値はあるはずだ。
「危険なことに変わりはない。だからこそ今回は反対を押し切ってでも私も同行するが構わぬか?」
「カルム様まで!?」
「リリアが命を賭けてまで行動しようとしているのに、私が動かないでどうする?」
私とカルム様では立場が違うだろう。
義務としても成し遂げなければならない私に対して、国の王子ともあろうお方が命を賭けてまで動き、巻き添いを喰らってしまうかもしれないのだ。
理解ができずに難しい表情をしてしまった。
「やはり立場として考えると、私一人でその場へ向かった方が良いのではないかと……」
カルム王子はしばらく黙ったまま何かを考えているようだった。
流石に抗議しすぎてしまったか。
「リリアよ……もしかして財宝のことを気にしているのか?」
「国の三分の一を払ってまで交渉したと聞きました。故に私にはこの国に水の加護を与える義務があると思っています。たとえ命がけになろうとも」
「だからこそ、リリアが命を粗末にするようなことをされては困る。今はリリアもカサラス王国の人間だ」
カルム様の真剣な説得を聞いていたら私の気持ちが少しだけ変わる。
今までだって、自分の命を粗末にするつもりはなかった。
だが、ルビーをここに呼び出せなければ役に立てない。
「それでも私、そこへ行ってみます!」
「……話は聞いてました。私もエドナ山脈までお供しましょう」
「わ! びっくりした」
メイドのイデアが突然私の後ろ側に現れ、私に向かってそう告げてきた。
イデアは時々、いきなり姿を表すので驚くことが多い。
「ふむ、イデアが一緒ならこれ以上頼れるものはいないが、良いのか?」
「……当然。お嬢様を守るのも私の任務のはず」
イデアはカルム様に対して敬語を使っていない。
前々から気になっていたことだが、カルム様が先に答えてくれた。
「おっと失礼、先に言っておくべきだった。私はイデアとは昔から仲が良かったのだよ。流石に国務や玉座の間では敬語にしてもらっているが、それ以外では普段通りに接するよう話をしていたのだ」
幼馴染のようなものなのだろうか。
私もイデアからは敬語を使わないで仲良くしてほしいと思ってしまうが、今はエドナ山脈のことがあるので考えないでおく。
「イデアは生まれながらに魔力の才能がずば抜けていたらしくてな、王宮直属の魔道士として最初は仕えてもらった。おまけにこの若さで国の騎士団隊長もやっていたのだよ」
「……殿下、ずば抜けてはいない。お嬢様の力の方がきっと上。私では国を救えない」
「リリアよ、イデアも一緒ならば道中の命の危険は激減する。行ってくれるか?」
「勿論です。私から頼みたいくらいですので」
出発までの間、期待だけしかなかったのであった。
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