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「えぇ、当初の目的が早く達成しましたので、予定より早く帰れましたので」

 旦那様は非常に迷惑そうな顔をしています。
 対して、私は満面の笑顔をつくりました。

「随分と汗だくのようですが……大丈夫でしょうか?」
「だだだだだ……大丈夫だ。ちょっと部屋で運動をしていたからな」

 あら珍しいですね。あれだけ運動嫌いの旦那様が部屋中汗臭くなるまでされるとは……。
 私はキョロキョロと辺りを見渡し、異変について容赦無く言及します。

「そうですか。その割にはタオルでなくティッシュが散乱していますね……」

 旦那様の顔が面白いくらいに青ざめていきます。
 発汗もさらに酷くなってきているようですね。

 慌ててティッシュを片付けていますが、捨てる場所は考えた方がいいと思いますよ。
 そんな場所では、証拠が残ってしまいますからね。

「タオルがなかったのだ。急遽ティッシュで汗を拭いていたのだよ」
「そうでしたか。それにしても部屋が臭いますね。今すぐにソラシに清掃をお願い致しますので一旦部屋の外へ出ていただけますか?」
「へっ!?」

 旦那様の身体が固まりました。
 そろそろ楽しむのはやめて、証拠をしっかり抑えることに致しましょうか。

 本当に出来る使用人ですね。
 良いタイミングでソラシさんが部屋に入ってきました。

「これはこれは……学習を命じていたはずですが運動をされていたとは」
「あ……うん、頭ばっかり使っていたから身体が鈍っていたので……」

 ソラシさんは喋りながら部屋の状況を入念に確認してくれています。
 どうやら旦那様はこのことに気がついていないようです。

「まぁ……いいでしょう。では部屋の片付けはお任せください。ついでに……そうですね、そろそろ衣替えの時期ですし、整頓も行っておきましょうか」
「それは絶対にしないで!」

 さすがです。私が教えずともクミンさんの隠れている場所がすぐに分かったようですね。

「とにかく私は運動のしすぎで疲れた。今日はこのまま寝る。絶対に部屋に入ってくるなよ、絶対にだ!」

 私とソラシさんは部屋から追い出され、鍵もかけられてしまいました。
 先ほどとは逆に、今度はその場でデクレッシェンドのように足音を徐々に小さくしていきあたかもいなくなったような芝居を行います。
 そして、私たちは引き続きドアの前で聞き耳をたてました。

「ちょっと……カルダモンさま、早く外に出たい……」
「す……少し待て。今出て行くのは危険すぎる。せめて明日の早朝まで……」
「無理。トイレに行きたいの……」
「なんだと……!?」

 これは流石に予想外です……。
 ここは私の家ですから後々のことを考えると、クローゼットの中でも旦那様の部屋の中であっても、漏らされてはたまったものではありません。

 一体、どうしたらいいのでしょうか……。
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