【完結】旦那様は、妻の私よりも平民の愛人を大事にしたいようです

よどら文鳥

文字の大きさ
上 下
10 / 21

10 カルダモン視点(後編)

しおりを挟む
 これは非常にまずい。

 クミンが家にいることがバレてしまえば、私たちはどうなってしまうことか……。
 教科書に書いてあったとおりだとしたら……最悪処刑。考えるだけで全身が震え始めてしまった。

 とにかくまずはクミンを隠さなければ!
 小声でクミンに命じた。

「クミン……見つかってしまえば結婚どころの話ではなくなる。一旦このクローゼットの中に隠れてくれ」
「一体いつまで隠れていればいいの……?」
「隙をついて逃げ出すしかない! もしも見つかってしまえば処刑になってしまう可能性もあるんだぞ」
「嘘……でしょ!? たかが不倫じゃないの」

 私も『たかが不倫』だと思っていた。だからこそクミンを気軽に口説いたというものだ。

「確かに一般市民同士ならそこまでにはならない。しかし、私はこれでも貴族だ……貴族が不倫行為をした場合はそうなってしまうらしいのだ」
「そ……そんな……」
「とにかく隠れろ! すぐに来るぞ!」

 慌ててクミンはクローゼットの中に飛び込んだ。
 幸い大きめのクローゼットなので、人が入る分には問題はない。
 だが、窮屈な思いをさせてしまって申し訳なく思う。

「こちらにいましたか。旦那様、ただいま実家より戻りました」
「う……うむ、ず……随分と早い帰宅だな」

「えぇ、当初の目的が早く達成しましたので、予定より早く帰れましたので」

 何の目的か知らないが、大迷惑だ。
 どうしてこんなに早く帰ってきてしまうのだ。

「随分と汗だくのようですが……大丈夫でしょうか?」
「だだだだだ……大丈夫だ。ちょっと部屋で運動をしていたからな」

 嘘は決してついていないぞ。運動は運動なのだから。

「そうですか。その割にはタオルでなくティッシュが散乱していますね……」

 おのれルフナめ……どうしてこういうときに限って妙なところに気がつくのだ……。
 私は慌ててそこらへんに散らかっている残骸をゴミ箱に捨てた。
 体力が尽きているので動くだけで辛い。
 明日あたり、ぎっくり腰になってしまいそうだ。

「タオルがなかったのだ。急遽ティッシュで汗を拭いていたのだよ」
「そうでしたか。それにしても部屋が臭いますね。今すぐにソラシに清掃をお願い致しますので一旦部屋の外へ出ていただけますか?」
「へっ!?」

 それだけは絶対に困る!
 私が拒否する前に、タイミング悪くソラシが部屋に入ってきてしまった。

「これはこれは……学習を命じていたはずですが運動をされていたとは」
「あ……うん、頭ばっかり使っていたから身体が鈍っていたので……」

 よし、さすが私だ。言い訳や誤魔化しの言葉がすぐに浮かんできてくれる。
 おかげで違和感なくスムーズに会話ができているはずだ。

「まぁ……いいでしょう。では部屋の片付けはお任せください。ついでに……そうですね、そろそろ衣替えの時期ですし、整頓も行っておきましょうか」
「それは絶対にしないで!」

 げ……限界かもしれん。

「とにかく私は運動のしすぎで疲れた。今日はこのまま寝る。絶対に部屋に入ってくるなよ、絶対にだ!」

 私は二人を追い出し、扉に鍵をかけておいた。
 部屋の外が静かなことを確認して、こっそりとクローゼットを開ける。

「ちょっと……カルダモンさま、早く外に出たい……」
「す……少し待て。今出て行くのは危険すぎる。せめて明日の早朝まで……」
「無理。トイレに行きたいの……」
「なんだと……!?」

 クローゼットの中でさせるわけにはいかないし、外に出てしまえば見つかってしまう。
 いくら変態魔神の私とて、愛人をクローゼットの中で卑猥な状態にさせるような趣味はない。

 一体、どうしろというのだ……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

側近という名の愛人はいりません。というか、そんな婚約者もいりません。

gacchi
恋愛
十歳の時にお見合いで婚約することになった侯爵家のディアナとエラルド。一人娘のディアナのところにエラルドが婿入りする予定となっていたが、エラルドは領主になるための勉強は嫌だと逃げ出してしまった。仕方なく、ディアナが女侯爵となることに。五年後、学園で久しぶりに再会したエラルドは、幼馴染の令嬢三人を連れていた。あまりの距離の近さに友人らしい付き合い方をお願いするが、一向に直す気配はない。卒業する学年になって、いい加減にしてほしいと注意したディアナに、エラルドは令嬢三人を連れて婿入りする気だと言った。

【完結】妹が旦那様とキスしていたのを見たのが十日前

地鶏
恋愛
私、アリシア・ブルームは順風満帆な人生を送っていた。 あの日、私の婚約者であるライア様と私の妹が濃厚なキスを交わすあの場面をみるまでは……。 私の気持ちを裏切り、弄んだ二人を、私は許さない。 アリシア・ブルームの復讐が始まる。

【完結】王女と駆け落ちした元旦那が二年後に帰ってきた〜謝罪すると思いきや、聖女になったお前と僕らの赤ん坊を育てたい?こんなに馬鹿だったかしら

冬月光輝
恋愛
侯爵家の令嬢、エリスの夫であるロバートは伯爵家の長男にして、デルバニア王国の第二王女アイリーンの幼馴染だった。 アイリーンは隣国の王子であるアルフォンスと婚約しているが、婚姻の儀式の当日にロバートと共に行方を眩ませてしまう。 国際規模の婚約破棄事件の裏で失意に沈むエリスだったが、同じ境遇のアルフォンスとお互いに励まし合い、元々魔法の素養があったので環境を変えようと修行をして聖女となり、王国でも重宝される存在となった。 ロバートたちが蒸発して二年後のある日、突然エリスの前に元夫が現れる。 エリスは激怒して謝罪を求めたが、彼は「アイリーンと自分の赤子を三人で育てよう」と斜め上のことを言い出した。

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

わたくしは、すでに離婚を告げました。撤回は致しません

絹乃
恋愛
ユリアーナは夫である伯爵のブレフトから、完全に無視されていた。ブレフトの愛人であるメイドからの嫌がらせも、むしろメイドの肩を持つ始末だ。生来のセンスの良さから、ユリアーナには調度品や服の見立ての依頼がひっきりなしに来る。その収入すらも、ブレフトは奪おうとする。ユリアーナの上品さ、審美眼、それらが何よりも価値あるものだと愚かなブレフトは気づかない。伯爵家という檻に閉じ込められたユリアーナを救ったのは、幼なじみのレオンだった。ユリアーナに離婚を告げられたブレフトは、ようやく妻が素晴らしい女性であったと気づく。けれど、もう遅かった。

【完結】元婚約者の次の婚約者は私の妹だそうです。ところでご存知ないでしょうが、妹は貴方の妹でもありますよ。

葉桜鹿乃
恋愛
あらぬ罪を着せられ婚約破棄を言い渡されたジュリア・スカーレット伯爵令嬢は、ある秘密を抱えていた。 それは、元婚約者モーガンが次の婚約者に望んだジュリアの妹マリアが、モーガンの実の妹でもある、という秘密だ。 本当ならば墓まで持っていくつもりだったが、ジュリアを婚約者にとモーガンの親友である第一王子フィリップが望んでくれた事で、ジュリアは真実を突きつける事を決める。 ※エピローグにてひとまず完結ですが、疑問点があがっていた所や、具体的な姉妹に対する差など、サクサク読んでもらうのに削った所を(現在他作を書いているので不定期で)番外編で更新しますので、暫く連載中のままとさせていただきます。よろしくお願いします。 番外編に手が回らないため、一旦完結と致します。 (2021/02/07 02:00) 小説家になろう・カクヨムでも別名義にて連載を始めました。 恋愛及び全体1位ありがとうございます! ※感想の取り扱いについては近況ボードを参照ください。(10/27追記)

どうやらこのパーティーは、婚約を破棄された私を嘲笑うために開かれたようです。でも私は破棄されて幸せなので、気にせず楽しませてもらいますね

柚木ゆず
恋愛
 ※今後は不定期という形ではありますが、番外編を投稿させていただきます。  あらゆる手を使われて参加を余儀なくされた、侯爵令嬢ヴァイオレット様主催のパーティー。この会には、先日婚約を破棄された私を嗤う目的があるみたいです。  けれど実は元婚約者様への好意はまったくなく、私は婚約破棄を心から喜んでいました。  そのため何を言われてもダメージはなくて、しかもこのパーティーは侯爵邸で行われる豪華なもの。高級ビュッフェなど男爵令嬢の私が普段体験できないことが沢山あるので、今夜はパーティーを楽しみたいと思います。

処理中です...