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4 カルダモン視点(後編)
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今のは空耳だよな……。
「今なんと……?」
「養子入りは断ると言ったのだ。二度も言わせるな」
そんな馬鹿な……、ルフナに言われたとおりの行動をしたというのに。
「ふん、なんでという顔をしているな。簡単なことだ。クミンと言ったな……お前は貴族として相応しくないからだ。このまま第二夫人にでもなったらルフナ様の顔に泥を塗ることになる」
「ひ……酷いですよお父さん!」
「その発言が問題なのだ。お父さんだと? お父様と言えぬような者を貴族家の娘にできるものか」
「「……」」
「それからカルダモンよ……これ以上ルフナ様を泣かせるような行動をしたら、許さんぞ?」
父上の言葉がグサリと刺さった。
何も言い返せず、私たちはミッション不達成のまま家を出た。
♢
「カルダモンさま……どうしたらいいの?」
半ベソしながら私の腕を掴んでくるクミンは可愛い。ルフナと比べたら天と地の差だ。
ルフナが可愛くないとは言っていないぞ。
ただ、あいつはいちいち煩い女だから気に食わない。しかも、私が王宮で手を繋ごうとしたら拒否してきたのだ。それ以来彼女を見る目が変わってしまったし、冷静に考えた結果、追うよりも追われる方が気分がいいことに気がついた。
だからこそ、私のことを好きでいてくれて自由にさせてくれるクミンのことを諦めてはいけないのだ。
「なぁに、これからも君のことを愛し続けるさ」
「カルダモンさまぁ……」
「父上はルフナを泣かせたら許さないと言っていたが、要はバレないように泣かせなければいいだけなのだよ」
さすが、私の脳はいつも冴えている。言葉の裏をしっかりと捉えることができ、それに適した対策を閃くのだから。
「幸い我が家には執事や使用人がいないからな。ルフナには今後、外出を強要させよう。その間にクミンと愛を育んでいけば良い。私は偉い貴族だし、君がそばにいてくれれば、貴族としての嗜みも自然と身につくだろう。そうなったら改めて父上にお願いすれば良いのだ」
「なるほど……さすがカルダモンさまね。私だって諦めないで貴族のお勉強もしっかりやっていきますね」
相思相愛とはこういうことだろう。
一緒に協力して困難を乗り越えていく。これが愛の共同作業なのだ。
困難があるからこそ達成した暁には一層愛が深まるというもの。
ルフナとは困難が何一つなかったから愛が深まることはなかったのだろう。
よし、そうと決まれば行動しなくては。
ルフナに毎日遅くまで外出させるためにはどうしたらいいのだろうか……。
クミンとは、三日後に再び会う約束だけして、私は対策を考えながら家に帰った。
♢
「旦那様、お帰りなさい」
「あぁ、今帰ったぞルフナ。……ん? この鞄はなんだ?」
玄関前に大きな鞄が置いてある。しかもルフナは何故か化粧をしていて、夜だというのに外出する様子だ。
「急遽実家でするべき用事ができましたので、帰る準備をしていました。報告が遅くなってしまい申し訳ございません」
「そうか。どれほどの間帰るのだ?」
「一週間ほどです」
「そうか、私ならかまわんぞ」
なんというラッキーイベントなのだろうか。
つまりルフナが一週間も家を完全に留守ということは、クミンと二人っきりの生活ができるというわけだ。
くそう……会うのを明日にしておくべきだった……。
「ありがとうございます。家のことが疎かになると申し訳ないので、急遽住込で使用人を雇いましたのでご安心ください」
「へ!? 使用人!?」
「はい。お父様の協力によって、王宮に仕えていたこともある一流の方々を使用人として雇えたので、私が家事を行うよりも快適かと」
いや、むしろ迷惑だ!
「いやいやいや……、家のことなど放置でもいいだろう。それに家事なんて、帰ってきたらルフナがやればいいとは思わないか? 何よりも、一体いくらかかると思ってるのだ?」
緊急事態だ。こんな時に、私の脳裏からは次々と正当性の高い言葉が思い浮かんでくるというのが救いだ。
「一週間分の溜めた家事を行うのは流石に大変ですからね。支払いに関してはご安心ください。お父様に全面協力していただいたおかげで、旦那様が負担することは一切ありません」
……ダメだ、言葉が思い浮かばない。
更に黙り込んだ私に対して、ルフナは更に追い討ちをかけてくるのだ。
「すでに奥に使用人がいらしていますので、食べたいものや家のことであればなんなりと言いつけてください」
「そ……ソデスカ」
奥のキッチンへ連れて行かされた。
ルフナは私のことを紹介してそのまま家を出ていったのだが、まさか使用人達を雇ってしまうとは……。
おのれルフナめ……たまたまできた用事ごときで私を邪魔してくるとはふざけた真似を……。
だが、こんなことでは挫けんぞ。
なんとしてでもクミンを妻にしてみせる。
「今なんと……?」
「養子入りは断ると言ったのだ。二度も言わせるな」
そんな馬鹿な……、ルフナに言われたとおりの行動をしたというのに。
「ふん、なんでという顔をしているな。簡単なことだ。クミンと言ったな……お前は貴族として相応しくないからだ。このまま第二夫人にでもなったらルフナ様の顔に泥を塗ることになる」
「ひ……酷いですよお父さん!」
「その発言が問題なのだ。お父さんだと? お父様と言えぬような者を貴族家の娘にできるものか」
「「……」」
「それからカルダモンよ……これ以上ルフナ様を泣かせるような行動をしたら、許さんぞ?」
父上の言葉がグサリと刺さった。
何も言い返せず、私たちはミッション不達成のまま家を出た。
♢
「カルダモンさま……どうしたらいいの?」
半ベソしながら私の腕を掴んでくるクミンは可愛い。ルフナと比べたら天と地の差だ。
ルフナが可愛くないとは言っていないぞ。
ただ、あいつはいちいち煩い女だから気に食わない。しかも、私が王宮で手を繋ごうとしたら拒否してきたのだ。それ以来彼女を見る目が変わってしまったし、冷静に考えた結果、追うよりも追われる方が気分がいいことに気がついた。
だからこそ、私のことを好きでいてくれて自由にさせてくれるクミンのことを諦めてはいけないのだ。
「なぁに、これからも君のことを愛し続けるさ」
「カルダモンさまぁ……」
「父上はルフナを泣かせたら許さないと言っていたが、要はバレないように泣かせなければいいだけなのだよ」
さすが、私の脳はいつも冴えている。言葉の裏をしっかりと捉えることができ、それに適した対策を閃くのだから。
「幸い我が家には執事や使用人がいないからな。ルフナには今後、外出を強要させよう。その間にクミンと愛を育んでいけば良い。私は偉い貴族だし、君がそばにいてくれれば、貴族としての嗜みも自然と身につくだろう。そうなったら改めて父上にお願いすれば良いのだ」
「なるほど……さすがカルダモンさまね。私だって諦めないで貴族のお勉強もしっかりやっていきますね」
相思相愛とはこういうことだろう。
一緒に協力して困難を乗り越えていく。これが愛の共同作業なのだ。
困難があるからこそ達成した暁には一層愛が深まるというもの。
ルフナとは困難が何一つなかったから愛が深まることはなかったのだろう。
よし、そうと決まれば行動しなくては。
ルフナに毎日遅くまで外出させるためにはどうしたらいいのだろうか……。
クミンとは、三日後に再び会う約束だけして、私は対策を考えながら家に帰った。
♢
「旦那様、お帰りなさい」
「あぁ、今帰ったぞルフナ。……ん? この鞄はなんだ?」
玄関前に大きな鞄が置いてある。しかもルフナは何故か化粧をしていて、夜だというのに外出する様子だ。
「急遽実家でするべき用事ができましたので、帰る準備をしていました。報告が遅くなってしまい申し訳ございません」
「そうか。どれほどの間帰るのだ?」
「一週間ほどです」
「そうか、私ならかまわんぞ」
なんというラッキーイベントなのだろうか。
つまりルフナが一週間も家を完全に留守ということは、クミンと二人っきりの生活ができるというわけだ。
くそう……会うのを明日にしておくべきだった……。
「ありがとうございます。家のことが疎かになると申し訳ないので、急遽住込で使用人を雇いましたのでご安心ください」
「へ!? 使用人!?」
「はい。お父様の協力によって、王宮に仕えていたこともある一流の方々を使用人として雇えたので、私が家事を行うよりも快適かと」
いや、むしろ迷惑だ!
「いやいやいや……、家のことなど放置でもいいだろう。それに家事なんて、帰ってきたらルフナがやればいいとは思わないか? 何よりも、一体いくらかかると思ってるのだ?」
緊急事態だ。こんな時に、私の脳裏からは次々と正当性の高い言葉が思い浮かんでくるというのが救いだ。
「一週間分の溜めた家事を行うのは流石に大変ですからね。支払いに関してはご安心ください。お父様に全面協力していただいたおかげで、旦那様が負担することは一切ありません」
……ダメだ、言葉が思い浮かばない。
更に黙り込んだ私に対して、ルフナは更に追い討ちをかけてくるのだ。
「すでに奥に使用人がいらしていますので、食べたいものや家のことであればなんなりと言いつけてください」
「そ……ソデスカ」
奥のキッチンへ連れて行かされた。
ルフナは私のことを紹介してそのまま家を出ていったのだが、まさか使用人達を雇ってしまうとは……。
おのれルフナめ……たまたまできた用事ごときで私を邪魔してくるとはふざけた真似を……。
だが、こんなことでは挫けんぞ。
なんとしてでもクミンを妻にしてみせる。
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