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3 カルダモン視点(前編)

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「貴様がここまで馬鹿息子だったとは……」

 私はまだ父上に何も言っていない。クミンを連れて玄関に入ったばかりなのだが、『おかえり』の一言もないのか?

「その女はなんなのだ!?」
「え? クミンですが」
「名前ではない! 何者かと聞いているのだ!」

 だったらそう聞いてほしいものだ。

「平民で、私の愛人ですが」
「クミンですわお父さん」

 ふっふっふ、どうだ父上。私はここまで女にモテるようにもなったのだぞ。しかもルフナの許可済みだし、自信を持っていいだろう。


 だが……これはまずい。いつもの叱責する時の前兆のようだ……。説明不足だったかもしれん……。父上の顔が怒りの大魔神のように変化してきている。

「このバッカもんがーーーーぁ!」
「グゥえぇ!」

 普段は頬にビンタで済んでいたのだが、今回は初めてのパターンだ。グーパンチで頬を殴ってきやがった。
 クミンがいる前なのにみっともない。

「グーは酷いじゃないですかお父さん!」
 そうだそうだ。クミンよ、君は出来る子なんだ。もっと父上に言ってやれ。

「黙れ平民の癖して偉そうに! 君にお父さんと呼ばれる筋合いはない」
「ひ……」

 クミンよ、そんなこと言われたくらいで怯まないでくれ。
 やはり私が父上と戦うしかない……恐いけど。

「ク……クミンは平民ではありますが、ルフナ公認の愛人なんですよ父上」
「馬鹿な! お前のことだ……また勘違いしているだけだろう。あのルフナ様が平民の愛人を肯定するはずがない!」

 ダメだ、こういう状況になると私はいつも緊張してしまって言葉がまともに出てこない。
 だが頑張るのだ私! クミンも応援してくれているのだから。

「せ……正確に言うと、クミンをスパイス家の子にしてこいと言われました」
「「は!?」」

 何か間違ったことを言っただろうか。ルフナに言われたことを正確に覚えているわけではないのだが、確かそんなようなことを言っていたはずだ。

「カルダモンさま……、説明がなっていませんよ。私が代弁します。つまり、私をスパイス家の養子にさせていただきたいのです」
「なんだと!?」
「そうすれば准男爵になれるぞ、とルフナさんは言ってましたよ。第二夫人として結婚ができるのだと……」
「馬鹿な……ルフナ様がそのようなことを……?」

 さすがはクミンだ。私は肝心な時に緊張してしまって説明がうまくできないので助かる。
 これも愛があればこそだろう。

「ですからお父さん、私をスパイス家の養子にしてくださいませ」
「父上、お願いします。私はクミンと愛を育んでいきたいのです」

「そうか。だが、断る」
「「へ!?」」

 何故即答で言ってくるのだ。こういった場合、少しくらい考えてくれたっていいだろう。

「何故ですか父上!?」
「説明が必要なのか?」
「納得できませんので!」

「ほう、ならばお前たちの言い分もしっかりと聞いてやろう。その上で説明をしてやる。奥の応接部屋へ移動するか」

 よかった。父上が真剣に話を聞いてくれる時のパターンになったようだ。
 応接部屋に行くときは、父上と数時間も討論することが多いが。

 今回はクミンも一緒なのだから、私の説明下手を補ってくれるし、絶対にうまくいくはずだ。

 ♢

「ふむ、お前たちの言い分はよくわかった」

 ルフナに提案されたことは、ほとんどクミンが説明をしてくれた。
 私は横で黙って聞いていただけだから楽だった。

「ここまでしっかりと話してくれたのだから、私も真剣に考えた上での返答なのだが……」

 あぁ、ありがとうございます父上。私はこれで堂々とクミンと恋愛結婚ができます。
 ルフナは子孫繁栄の道具として置いておきますからご安心ください。

「断る!」

 表情一つ変えずに父上はそう言うのだった。
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