【完結】旦那様は、妻の私よりも平民の愛人を大事にしたいようです

よどら文鳥

文字の大きさ
上 下
1 / 21

1

しおりを挟む
「ルフナよ、第二夫人として我がスパイス家に招き入れたい者がいるのだが……」

 私の旦那様であるカルダモン=スパイスが、とんでもないことを言い始めました。

「正気ですか……。確かに準伯爵家であるスパイス家には一夫多妻の許可は下りています。ですが、旦那様が働かないと……」
「そんなことはわかっている。だが、君の父親は大商人だし、ルフナだって父親に負けずと稼げてるから問題ないだろう」

 それはあくまで私の稼ぎの話でしょう。
 第二妃を養う側である旦那様の稼ぎはゼロ。私と結婚してから、『働く必要はないだろう』と言い出して仕事をやめてしまったのです。

「つべこべ言わずに認めてほしい。既に家に招いているのだから会ってほしい」

 この状況下で上から目線で言ってくる旦那様もどうなのでしょうか。最近は旦那様に対しての不満や不安が多くなっています。だからこそ、第二夫人を招いたとしても妬いたりする感情が沸いてきません。

「……わかりました」

 貴族家である以上、理不尽であろうとも法に逆らっているわけではないことなので、旦那様の言い分に従うしかありませんね。
 悔しいですけど。

 ♢

「はじめましてー。私はクミンっていいます。ルフナさんのことはカルダモンさんから色々と聞いていますよっ」
 なんなのでしょうか、この言葉遣いは……。旦那様のことを馴れ馴れしく名前で呼ぶ行為も信じられませんね。
 まるで……。

「クミンとは城下町で出逢ったんだ。一目惚れでな……」

 やはり……。言い方は失礼かもしれませんが平民でしたか。
 急に旦那様の顔が真っ赤っかになってモジモジした態度になっています。
 私に対してあのような顔を一度もしたことはありませんのに……。

「もうっ、カルダモン様ったらー」
 クミンさんが旦那様の腕に胸を擦り付けながら抱きつきます。まだ第二夫人と認めた覚えはないんですが。

「とにかくだ、クミンを第二夫人にする」
「残念ですがそれは不可能かと思いますが」

「「へ!?」」

 息ピッタリで、まぁ相性がいいですこと……。

「失礼ですが、クミンさんは貴族の方ではありませんね?」
「そうですけどー、何か問題でも?」

「貴族同士にのみ認められている一夫多妻に関する法律の問題です。婚約相手が准男爵以上の者でなければ、第二夫人としての結婚が認められないのですよ。旦那様はご存知なかったのですか? 貴族としての教育で習うはずですが……」

「え……そうなのか……?」

 知らなかったのですね。
 同情する気はありませんが、これではクミンさんも浮かばれませんね。

「ならばクミンを准男爵にすれば……そうだ! ルフナ。君の父親に頼んで養子にしてもらうとかすれば」
「お断りです。そもそも、貴族としての嗜みや礼儀、貴族界での社交ダンスといった教育ができていなければお父様が認めるわけがありません」

「そんな……」
「私、カルダモンさんと結婚できないってこと……?」

「そういうことですね。クミンさん……申し訳ございませんが、今日のところはお引き取りください」
「す、すまない……ひとまず家まで送ろうか……それくらいならいいだろう?」
「えぇ」

 旦那様も現実を理解してくれたようで、私もホッとしました。

 ♢

 あれから三日後の朝、旦那様は再び信じ難い行動に出てしまったようです。

「改めて紹介する。私の愛人、クミンだ」
「よろしくですー」

 旦那様、正気ですか?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

側近という名の愛人はいりません。というか、そんな婚約者もいりません。

gacchi
恋愛
十歳の時にお見合いで婚約することになった侯爵家のディアナとエラルド。一人娘のディアナのところにエラルドが婿入りする予定となっていたが、エラルドは領主になるための勉強は嫌だと逃げ出してしまった。仕方なく、ディアナが女侯爵となることに。五年後、学園で久しぶりに再会したエラルドは、幼馴染の令嬢三人を連れていた。あまりの距離の近さに友人らしい付き合い方をお願いするが、一向に直す気配はない。卒業する学年になって、いい加減にしてほしいと注意したディアナに、エラルドは令嬢三人を連れて婿入りする気だと言った。

妹ばかり見ている婚約者はもういりません

水谷繭
恋愛
子爵令嬢のジュスティーナは、裕福な伯爵家の令息ルドヴィクの婚約者。しかし、ルドヴィクはいつもジュスティーナではなく、彼女の妹のフェリーチェに会いに来る。 自分に対する態度とは全く違う優しい態度でフェリーチェに接するルドヴィクを見て傷つくジュスティーナだが、自分は妹のように愛らしくないし、魔法の能力も中途半端だからと諦めていた。 そんなある日、ルドヴィクが妹に婚約者の証の契約石に見立てた石を渡し、「君の方が婚約者だったらよかったのに」と言っているのを聞いてしまう。 さらに婚約解消が出来ないのは自分が嫌がっているせいだという嘘まで吐かれ、我慢の限界が来たジュスティーナは、ルドヴィクとの婚約を破棄することを決意するが……。 ◆エールありがとうございます! ◇表紙画像はGirly Drop様からお借りしました💐 ◆なろうにも載せ始めました ◇いいね押してくれた方ありがとうございます!

いいえ、望んでいません

わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」 結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。 だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。 なぜなら彼女は―――

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

結婚なんてしなければよかった。

haruno
恋愛
夫が選んだのは私ではない女性。 蔑ろにされたことを抗議するも、夫から返ってきたのは冷たい言葉。 結婚なんてしなければよかった。

私があなたを好きだったころ

豆狸
恋愛
「……エヴァンジェリン。僕には好きな女性がいる。初恋の人なんだ。学園の三年間だけでいいから、聖花祭は彼女と過ごさせてくれ」 ※1/10タグの『婚約解消』を『婚約→白紙撤回』に訂正しました。

わたくしは、すでに離婚を告げました。撤回は致しません

絹乃
恋愛
ユリアーナは夫である伯爵のブレフトから、完全に無視されていた。ブレフトの愛人であるメイドからの嫌がらせも、むしろメイドの肩を持つ始末だ。生来のセンスの良さから、ユリアーナには調度品や服の見立ての依頼がひっきりなしに来る。その収入すらも、ブレフトは奪おうとする。ユリアーナの上品さ、審美眼、それらが何よりも価値あるものだと愚かなブレフトは気づかない。伯爵家という檻に閉じ込められたユリアーナを救ったのは、幼なじみのレオンだった。ユリアーナに離婚を告げられたブレフトは、ようやく妻が素晴らしい女性であったと気づく。けれど、もう遅かった。

私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。

火野村志紀
恋愛
王家の血を引くラクール公爵家。両家の取り決めにより、男爵令嬢のアリシアは、ラクール公爵子息のダミアンと婚約した。 しかし、この国では一夫多妻制が認められている。ある伯爵令嬢に一目惚れしたダミアンは、彼女とも結婚すると言い出した。公爵の忠告に聞く耳を持たず、ダミアンは伯爵令嬢を正妻として迎える。そしてアリシアは、側室という扱いを受けることになった。 数年後、公爵が病で亡くなり、生前書き残していた遺言書が開封された。そこに書かれていたのは、ダミアンにとって信じられない内容だった。

処理中です...