10 / 33
10
しおりを挟む
今まで経験したことのないような快適な毎日を過ごしています。
毎朝聖なる力でモンスターの誕生を防ぐ結界を発動したあと、朝ごはんが用意されていました。
一日三食出来立ての食事を食べられるなんて、最初の人生で両親が生きていたころの楽しかった日々以来です。
私は誰かの身体に転移したわけではありませんから、当然こちらの世界では両親はいません。
おいしい食事を用意してくださるのですから、何度も掃除やお手伝いをしたいと申し出たのですが、なぜか断られます。
むしろ、侍女(チュリップと言うらしい)からやたらと優しくされるのです。
「ヴィレーナ様は、なにかやりたいことなどございませんか? もちろん、掃除などはお断りですが」
「仕事以外したことがないんだよね……」
「はい!?」
一度目の人生は、私が幼稚園に入る前に両親を亡くしてしまい、施設で生活していました。
自立できるよう、遊ぶ時間もなく徹底的な学業、そして高卒で入社した就職先でも仕事三昧。
二十歳になる前に過労死してしまいました。
転生してからも、生きていくために聖女活動+王宮のお仕事の日々でしたからね。
「チュリップも私と同じ十六歳なんだよね?」
「はい。そうですが……」
「休みの日はどんなことをするの?」
「そうですねぇ……。私が一人で休みのときは王都の散歩をしますね。恋人と一緒に休みがとれれば、彼が色々なところへ連れてってくれるのですよ」
恋人のことをとても大事にしているのでしょう。
チュリップが楽しそうにしながら顔を赤らめています。
そんな表情を見ていて、お願いしてみることにしました。
「チュリップにどこか連れていってほしいな……なんて」
「はい?」
「私は元々ブブルル王国の人間だったから、この国のことや王都もどんな感じか知らない。だから、王都案内してくれたら嬉しいなって」
「さようですか。そうしましたら陛下からの許可を得ますので、少しお待ちください」
しばらく部屋で待っているとチュリップがニコニコしながら戻ってきました。
「陛下からの許可がおりました。馬車も利用できますよ」
「ありがとう」
「こちらこそです。こちらの外出用の服装にお召替えいただき出発しましょうか」
そんなものまであるのですね。
部屋着、王宮内を歩き回る用の服、寝間着、そして外出用……。
私のためにこんなにも色々と用意してくださっていたたまれない気持ちになります。
どんどん国に対しての恩が増えてしまいますね。
♢
「なんという過酷な生活をされていたのですか……。メビルス王国では絶対にありえません!」
馬車の中で、チュリップが私のことについて尋ねてきました。
隠しているわけでがありませんので、ブブルル王国でどんな仕事をしていたかを話しました。
毎朝聖なる力を放ったあと、料理を作ったり掃除をしたり、時々国務も任されたりと。
チュリップは侍女だから、私がやっていたことと似たような仕事かなと思い話してみたのですが、彼女の反応はまるで違いました。
「ヴィレーナ様が謙虚すぎる理由がなんとなくわかりました……。さぞ辛い日々を送っていたのですね。それでこちらの国へ?」
「えぇと、そんなところかな」
神様に助けてもらって転移させてもらいましたとは言えません。
「こちらの国へ来たタイミングで騎士団長を救ってくださったことも本当にありがとうございました。瞬間移動ができるような魔法をお持ちだとか」
「あれは私の力ではないんだけどね。偶然助けていたと言うかなんというか。あ、魔法と言えば……」
「どうかされましたか?」
「この国に本屋さんってあるのかな? 魔法の教則本とか仕組みとかが書いてある本を読んでみたいなって」
「それではこのまま本屋へ向かいますか?」
「ありがとう!」
お金も大量に戴いてしまったし、前の世界よりも本の相場が高くても買うことができます。
私には魔法の適性がないようですが、せめてどのような仕組みで魔法が発動するのかなどは本で覚えてみたいなと思っていました。
念願だった本がついに手に入る!
チュリップのおかげで肝心なことを思い出せました。
社畜脳は少しづつ直していかないとですね。
「気がつかせてくれてありがとう♪」
「いえ、私はなにもしていませんよ。さぁ、そろそろ本屋です」
さぁて、いよいよ魔法の勉強ができますね!
毎朝聖なる力でモンスターの誕生を防ぐ結界を発動したあと、朝ごはんが用意されていました。
一日三食出来立ての食事を食べられるなんて、最初の人生で両親が生きていたころの楽しかった日々以来です。
私は誰かの身体に転移したわけではありませんから、当然こちらの世界では両親はいません。
おいしい食事を用意してくださるのですから、何度も掃除やお手伝いをしたいと申し出たのですが、なぜか断られます。
むしろ、侍女(チュリップと言うらしい)からやたらと優しくされるのです。
「ヴィレーナ様は、なにかやりたいことなどございませんか? もちろん、掃除などはお断りですが」
「仕事以外したことがないんだよね……」
「はい!?」
一度目の人生は、私が幼稚園に入る前に両親を亡くしてしまい、施設で生活していました。
自立できるよう、遊ぶ時間もなく徹底的な学業、そして高卒で入社した就職先でも仕事三昧。
二十歳になる前に過労死してしまいました。
転生してからも、生きていくために聖女活動+王宮のお仕事の日々でしたからね。
「チュリップも私と同じ十六歳なんだよね?」
「はい。そうですが……」
「休みの日はどんなことをするの?」
「そうですねぇ……。私が一人で休みのときは王都の散歩をしますね。恋人と一緒に休みがとれれば、彼が色々なところへ連れてってくれるのですよ」
恋人のことをとても大事にしているのでしょう。
チュリップが楽しそうにしながら顔を赤らめています。
そんな表情を見ていて、お願いしてみることにしました。
「チュリップにどこか連れていってほしいな……なんて」
「はい?」
「私は元々ブブルル王国の人間だったから、この国のことや王都もどんな感じか知らない。だから、王都案内してくれたら嬉しいなって」
「さようですか。そうしましたら陛下からの許可を得ますので、少しお待ちください」
しばらく部屋で待っているとチュリップがニコニコしながら戻ってきました。
「陛下からの許可がおりました。馬車も利用できますよ」
「ありがとう」
「こちらこそです。こちらの外出用の服装にお召替えいただき出発しましょうか」
そんなものまであるのですね。
部屋着、王宮内を歩き回る用の服、寝間着、そして外出用……。
私のためにこんなにも色々と用意してくださっていたたまれない気持ちになります。
どんどん国に対しての恩が増えてしまいますね。
♢
「なんという過酷な生活をされていたのですか……。メビルス王国では絶対にありえません!」
馬車の中で、チュリップが私のことについて尋ねてきました。
隠しているわけでがありませんので、ブブルル王国でどんな仕事をしていたかを話しました。
毎朝聖なる力を放ったあと、料理を作ったり掃除をしたり、時々国務も任されたりと。
チュリップは侍女だから、私がやっていたことと似たような仕事かなと思い話してみたのですが、彼女の反応はまるで違いました。
「ヴィレーナ様が謙虚すぎる理由がなんとなくわかりました……。さぞ辛い日々を送っていたのですね。それでこちらの国へ?」
「えぇと、そんなところかな」
神様に助けてもらって転移させてもらいましたとは言えません。
「こちらの国へ来たタイミングで騎士団長を救ってくださったことも本当にありがとうございました。瞬間移動ができるような魔法をお持ちだとか」
「あれは私の力ではないんだけどね。偶然助けていたと言うかなんというか。あ、魔法と言えば……」
「どうかされましたか?」
「この国に本屋さんってあるのかな? 魔法の教則本とか仕組みとかが書いてある本を読んでみたいなって」
「それではこのまま本屋へ向かいますか?」
「ありがとう!」
お金も大量に戴いてしまったし、前の世界よりも本の相場が高くても買うことができます。
私には魔法の適性がないようですが、せめてどのような仕組みで魔法が発動するのかなどは本で覚えてみたいなと思っていました。
念願だった本がついに手に入る!
チュリップのおかげで肝心なことを思い出せました。
社畜脳は少しづつ直していかないとですね。
「気がつかせてくれてありがとう♪」
「いえ、私はなにもしていませんよ。さぁ、そろそろ本屋です」
さぁて、いよいよ魔法の勉強ができますね!
55
お気に入りに追加
1,154
あなたにおすすめの小説

「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】
小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。
これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。
失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。
無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。
そんなある日のこと。
ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。
『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。
そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」
リーリエは喜んだ。
「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」
もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした
猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。
聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。
思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。
彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。
それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。
けれども、なにかが胸の内に燻っている。
聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。
※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

妹が真の聖女だったので、偽りの聖女である私は追放されました。でも、聖女の役目はものすごく退屈だったので、最高に嬉しいです【完結】
小平ニコ
ファンタジー
「お姉様、よくも私から夢を奪ってくれたわね。絶対に許さない」
私の妹――シャノーラはそう言うと、計略を巡らし、私から聖女の座を奪った。……でも、私は最高に良い気分だった。だって私、もともと聖女なんかになりたくなかったから。
退職金を貰い、大喜びで国を出た私は、『真の聖女』として国を守る立場になったシャノーラのことを思った。……あの子、聖女になって、一日の休みもなく国を守るのがどれだけ大変なことか、ちゃんと分かってるのかしら?
案の定、シャノーラはよく理解していなかった。
聖女として役目を果たしていくのが、とてつもなく困難な道であることを……

姉の陰謀で国を追放された第二王女は、隣国を発展させる聖女となる【完結】
小平ニコ
ファンタジー
幼少期から魔法の才能に溢れ、百年に一度の天才と呼ばれたリーリエル。だが、その才能を妬んだ姉により、無実の罪を着せられ、隣国へと追放されてしまう。
しかしリーリエルはくじけなかった。持ち前の根性と、常識を遥かに超えた魔法能力で、まともな建物すら存在しなかった隣国を、たちまちのうちに強国へと成長させる。
そして、リーリエルは戻って来た。
政治の実権を握り、やりたい放題の振る舞いで国を乱す姉を打ち倒すために……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる