上 下
4 / 33

しおりを挟む
 なんということでしょう。
 王宮に到着して、カイン騎士団長から真っ先に案内された場所は玉座の間でした。
 当然メビルス王国の陛下もすぐに来られまして……。
 顔を見る前に、真っ先に膝を立てて頭を下げる体勢をしないと。

「キーファウス王太子殿下。恩人を連れて参りました」
「ん。二人とも顔をあげたまえ」

 国王陛下ではなかったようですね。
 あぁなるほど。確かに椅子には座られていません。
 王太子と言っていたので次期国王陛下になられるお方に違いはありませんが。

 顔をあげてどのようなお方かしっかりと見てみます。

 二度目の、なんということでしょう!!

 彫刻で丁寧に整えられたような美しいお顔。
 群青色の髪は毛先まで綺麗に整えられています。
 低身長の私よりも顔一つ分ほど高そうで、非の打ちどころがないとはこういうことを言うのだという見本のような外見です。
 髪色と同じ群青色の瞳がとてもキラキラと輝いています。
 
 おそらくメビルス王国の女性のほとんどが、キーファウス殿下に魅了されていることでしょう。
 私のような一般人では全く釣り合うことなどありませんし、あり得ませんが、目の保養だけはしっかりとさせてもらわないと!

「お初にお目にかかります。ヴィレーナと申します」
「キーファウスだ。カインが恩人と言うくらいだから、相当なことをしたのであろう」

「とんでもございません。私――」
「彼女は俺の命を救ってくださいました」

 キーファウス殿下の目つきが変わりました。
 信じられないような表情を浮かべています。

「我が国一番の腕前をもつカインを助けた……ということか。ヴィレーナ殿だったな。そなたもモンスター退治をされるのか?」
「いえ、今回は偶然が重なって結果的に助けていたというのが正しいかと思います」
「やけに謙虚だな。カインの命を助けたことが事実であれば大変名誉であるが」

 そうなのですよ。
 神様がやってくださったことなので、神様のことを讃えていただきたいのです。
 このまま私が名誉なことだとなってしまえば、神様の手柄を奪ってしまうようなものですからバチがあたりそう。

「どうか、偶然助けたことはお気になさらず。名誉といえば、こうして王宮へ案内され、王太子殿下とお話できるだけでも十分なことでしょう」
「あまりカインのことは過小評価しないでほしい。彼は今まで王都に出現したモンスターを一人でも倒してきた男だ。国にとっても大変貴重な人物であり、私の数少ない親友でもある。改めて礼を言いたい。ありがとう。そして報酬はしっかりと与えたいのだ」

 ここまで言われてしまっては素直に受け入れるしかありません。
 神様、手柄を横取りしてしまいごめんなさい。

「大変失礼いたしました。しかし、あまりこのようなことに慣れていないもので……」

 頼まれたことをしっかりと遂行するのが当たりまえ。
 それにプラスして相手の望むことをやっておくのが当たりまえ。
 ありがとうなんて言葉を言われたのは、第三の人生が始まってからのようなものです。

 ふと、神様が言っていたことを思い出しました。
 私に幸せになってほしいと言っていましたし、こうなることも予測しての転移だったのでしょう。
 神様の好意に甘え、今回だけは私がカイン騎士団長を助けたということにさせていただきます。
 今度神様にお会いすることがあれば、精一杯のお礼を言わせてもらいますからね。

「ヴィレーナ殿はなにか望むものはあるかね?」
「……うーん。スープ……、お肉、魚……。あ、このあたりは海がないので魚は難しいですよね。米……パン……うぅん……」

 報酬と言われれば、思いつくのは晩餐の残りです。
 報酬面だけで考えると、最初の人生で毎日残業し続けていたころが一番稼げていたなぁと思います。
 最も、お金を使う時間がまったくなかったため、貯蓄したまま過労死してしまいましたが……。

「なぜ食事のメニューを並べているのだ?」
「報酬と言えば王様たちが食べ終えた残り物をいただくものでしょう?」
「ん? ヴィレーナ殿はなにを言っているのだ?」
「え? 違うのですか?」
「食事を望むのならば報酬とは別に用意させる。むろん、余りものではなくヴィレーナ殿専用のものだ」

 ブブルル王国での聖女時代よりも報酬が良すぎます。

「なぜ困っている? 俺を助けてくれたんだ。遠慮なくキーファウス王太子殿下に望みを言って構わないんだぞ」
「そういわれましても……。あ!」
「なにかあったか?」
「入浴させてもらえたら、大変ありがたいですっ!!」

 さすがに無茶なお願いをしてしまったかなと心配になります。
 キーファウス殿下とカイン騎士団長が揃って首を傾げてしまいました。

「遠慮深いのだな。お礼に関してはこちらから勝手に用意させてもらおう。今日のところは王宮にてゆっくり休み朝を迎えるが良い。むろん、食事も風呂も与えよう。専属の付き人を手配しなければな」
「ありがとうございます!」
「明日、あらためて報酬を渡す。楽しみにしててくれたまえ。少しここで待ってくれたまえ」

 ひとまず、明日までの食事と宿は確保できたようです。
 ありがとうございます神様。

 しかし、すぐに事態は急変!
 キーファウス殿下が玉座の間から退室しようとしたとき、大慌てでこの部屋に入ってきた男が顔色を真っ青にしています。 

「はぁ、はぁ……! 王太子殿下! 大変です!! 王都の南方約十キロ先にモンスター誕生の兆候する光を観測!!」
「このタイミングでか……」

 このままではかなりまずいことになりそうです。
 陽の光がない夜に聖なる力を発動すると、著しく体調を崩してしまいますが、なりふり構っていられないですね。

 モンスターの誕生だけは阻止しなければ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!

近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。 「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」 声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。 ※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です! ※「カクヨム」にも掲載しています。

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!? 元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。

婚約破棄の上に家を追放された直後に聖女としての力に目覚めました。

三葉 空
恋愛
 ユリナはバラノン伯爵家の長女であり、公爵子息のブリックス・オメルダと婚約していた。しかし、ブリックスは身勝手な理由で彼女に婚約破棄を言い渡す。さらに、元から妹ばかり可愛がっていた両親にも愛想を尽かされ、家から追放されてしまう。ユリナは全てを失いショックを受けるが、直後に聖女としての力に目覚める。そして、神殿の神職たちだけでなく、王家からも丁重に扱われる。さらに、お祈りをするだけでたんまりと給料をもらえるチート職業、それが聖女。さらに、イケメン王子のレオルドに見初められて求愛を受ける。どん底から一転、一気に幸せを掴み取った。その事実を知った元婚約者と元家族は……

異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)

深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。 そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。 この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。 聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。 ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。

処理中です...