【完結】私より優先している相手が仮病だと、いい加減に気がついたらどうですか?〜病弱を訴えている婚約者の義妹は超が付くほど健康ですよ〜

よどら文鳥

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「三十九度五分……はぁ……せっかく今日はハーベスト様と買い物行く予定だったのに……」

 日々の重労働と小言、そしてストレスが溜まりに溜まって体調を崩してしまった。

 すぐに義兄様から貰った調合薬を飲んだ。
 一日安静にしていれば回復すると言っていたので、今日は行けないと言ってハーベスト様に謝らなくてはいけない。

 ドアのノックの音がする。
 返事すらまともにできないので、勝手にドアが開くのを待った。

 開けたのはハーベスト様だった。
「ジュリエル、そろそろ出発の時間だが……って、おいおい……まだ寝ているのか?」

「申し訳ございません……体調を崩してしまいまして、今日の買物……中止にしていただけませんか?」

 本当に申し訳なく思う。せっかく予定を合わせてくださったというのに私がこのザマでは。

「私は楽しみにしていたんだがな……まぁ、大丈夫だろう」

 大丈夫とはどういうことだろうか。
 頭がボーッとしているので上手く考えることすらできなかった。

「申し訳ございません……」
「いや、喋れるのだから大丈夫だろう。せっかくの休みなのだ。今から準備して出かけるぞ」

 言い訳はあまりしたくないのだが、今回ははっきりと事情を説明するしかなかった。

「そ……そんな……熱が三十九度五分もあるので……」
「それくらいなら問題ないだろう。それとも私と出かけるのがそんなに嫌なのか?」

「そんなことはないですが……」

 どうして義妹のシャロンさんの時は三十七度の微熱で大騒ぎして買い物が中止になってしまったのに、私がこれほどの高熱を出しても平気だと言ってくるのだろうか。

「早く準備してくれ! ジュリエルと出かけるのが楽しみなのだから」
「……わかりました」

 私は重い体を頑張って起こし、フラフラしながらも準備を始めた。
「ほら、動けるではないか。では外で待っている」

 シャロンさんが病弱だと思い込んで過保護にして大事にしているのはすぐにわかる。
 でも、婚約者の私に対しては全く心配してくれないのはとても悲しかった。

 ついに、ハーベスト様との婚約を取り消しにしたいと思ってしまったのだ。





 なんとか外に出て並んで歩き始めたのは良いのだが、ハーベスト様の歩くペースが速い。私は繋いでいる手をグイグイ引っ張られている状態だ。

「ジュリエルよ……もっと速く歩いてくれないか? そんなにノロノロ歩いていては、まるで病人ではないか」

 はい、病人です!

 そもそも、手を繋いでいるから手が熱いこともわかるだろうし、私の顔色でもわかると思うんですけど。

「も……申し訳ございません。フラフラしていまして……」
「全く……私はジュリエルと出かけることをこれほど楽しみにしていたというのに……」

 これほど楽しみにしてくれて、きっと私のことを好きでいてくれているのだろう。その気持ちは嬉しい。
 だが、心配もしてほしかった。

 なんとかハーベスト様の期待に応えられるよう、かなり無理をして歩き始めた。

 ♢

「大変です!」

 街に到着する直前、後方から叫びながら私たちのもとへ走ってくる人がいた。
 いつも文句や嫌がらせばかりしてくる使用人だった。

「どうしたというのだ?」
「お嬢様が、食事中に鼻水を垂らしてしまいました!」

「なんだと!? こんな時期に鼻水を!? 重度の風邪かもしれん! すぐに帰る!」
「え!?」

 繋いでいた私の手はあっという間に離され、私を置いて走りだしてしまった。

「ジュリエル! 緊急事態だ。すまないが買い物は中止だ! 早く帰るぞ!」
「そ……そんな……」

「ええい! 遅い! もういい。ジュリエルは置いていく! おい、走るぞ!」
「承知しました!」

 私は置いてけぼりにされ、あっという間に姿が見えなくなった。

「そんな……、私は死にそうなくらい怠いしフラフラなのに、シャロンさんの鼻水垂らした方が今の私よりも重症だというの……?」

 精神的にも体力的にも限界だった。
 私は涙をこぼしながら道端に倒れ、気を失った。
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