【完結】私より優先している相手が仮病だと、いい加減に気がついたらどうですか?〜病弱を訴えている婚約者の義妹は超が付くほど健康ですよ〜

よどら文鳥

文字の大きさ
上 下
6 / 26

6

しおりを挟む
 すでに重労働と言えるくらいの掃除、更に永遠と続く小言を聞いていたため、私は肉体的にも精神的にも疲れ切っていた。
 ボーッとしながら廊下を歩いていると、シャロンさんの部屋から音がバンバン聞こえてきた。ノックをするのが当然なのだが、私は疲れ切っていてその判断ができず、無意識にドアを静かに開けてしまったのだ。

 しかし、シャロンさんのとんでもない姿を見てしまい、ボーッとしてしまっていた頭も一気に吹っ飛んだ。
 しばらくバレないように観察していたらハッキリした。

 私が見た光景は、シャロンさんが部屋で激しく筋力トレーニングやシャドーボクシングをしている姿だった。
 テーブルには体温を測定する道具も置かれていた。

「後、もう少し動けば高熱になるわね、ファイトよ。頑張って仮病生活を続けなさい私! 自分に言い聞かせるのよシャロン!」

 バレないようにそっとドアを閉めて、どうしたら良いものか必死で考えていた。

 おそらく仮病を使って閉じこもった生活をしていたのならば、この国の貴族社会においては、貴族としての嗜みを放棄する行為だろう。
 もしもそれが家族ぐるみならば更に大問題だ。
 でも、今までの行動からすると、みんな本当に仮病なのだと知らないのだろう。

 ともかく、まずはハーベスト様に自分の状況を訴えるのが先、その後にシャロンさんのことを聞くことにした。


 ♢


「どうしたジュリエルよ」

 私はすでに半泣き状態だった。
 ハーベスト様も心配してくれているようで私の手を握ってくれていた。

「実は……ハーベスト様が留守の間、この家の方々が私に暴言や酷い仕打ちをして──」

 弱々しい声で必死に訴えかけようとした矢先、ドアが勢いよく開いて邪魔が入った。

「お嬢様が体調を崩されました! 三七度六分です! 発汗と息切れも激しいです」

 使用人が突然部屋に入ってきて、すぐに出て行ってしまった。
 ハーベスト様はすぐに私の手を離して、ソファーから立ち上がる。

「大変だ! すまないがジュリエル。話は後だ! 今こんなことに構っている暇はない。シャロンが大変だ!」

 ──こんなこと……?

 シャロンさんの偽装した体温を聞いて動揺してこのようなことを言ったのだろう。

 涙さえ溢れそうな状態で必死に訴え始めていたのに、それでも義妹のシャロンさんを優先するのか。
 我慢ができずに本当のことを言ってしまった。

「シャロンさん、病気でも病弱でもありませんよ」
「なんだって!? ジュリエルよ……なぜそうやって酷いことをいうのだ?」
「え……?」

「シャロンは命に関わるほどの高熱なんだぞ、今度は三七度六分もある! 発汗も酷いし息も荒れていると言っていただろ。命に関わる非常事態だぞ! これでどこが病弱じゃないというのだ?」
「激しい運動をすれば体温は上がりますし、汗をかいて息切れを起こすのも当然です」

 今回はしっかり目撃しているのだ。シャロンさんは、激しい運動の後に体温を測って、体調不良を訴えている。

 どうしてここの家の人たちは気が付かないのだろうか。
 どうしてここまで説明しなければいけないのだろうか。

「つまりシャロンは何もせずとも、それほど酷い状態にまでなってしまったということだろう? 一刻の猶予もない! すまないが、ジュリエルの相手はまた後だ」
 全く私の話を聞いてくれなかった。

 私は放置され、ハーベスト様は部屋を飛び出してしまった。

 私の方がストレスで病気になってしまいそうだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

姉の所為で全てを失いそうです。だから、その前に全て終わらせようと思います。もちろん断罪ショーで。

しげむろ ゆうき
恋愛
 姉の策略により、なんでも私の所為にされてしまう。そしてみんなからどんどんと信用を失っていくが、唯一、私が得意としてるもので信じてくれなかった人達と姉を断罪する話。 全12話

私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください

迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。 アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。 断るに断れない状況での婚姻の申し込み。 仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。 優しい人。 貞節と名高い人。 一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。 細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。 私も愛しております。 そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。 「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」 そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。 優しかったアナタは幻ですか? どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。

婚約者を奪われた私が悪者扱いされたので、これから何が起きても知りません

天宮有
恋愛
子爵令嬢の私カルラは、妹のミーファに婚約者ザノークを奪われてしまう。 ミーファは全てカルラが悪いと言い出し、束縛侯爵で有名なリックと婚約させたいようだ。 屋敷を追い出されそうになって、私がいなければ領地が大変なことになると説明する。 家族は信じようとしないから――これから何が起きても、私は知りません。

今更ですか?結構です。

みん
恋愛
完結後に、“置き場”に後日談を投稿しています。 エルダイン辺境伯の長女フェリシティは、自国であるコルネリア王国の第一王子メルヴィルの5人居る婚約者候補の1人である。その婚約者候補5人の中でも幼い頃から仲が良かった為、フェリシティが婚約者になると思われていたが──。 え?今更ですか?誰もがそれを望んでいるとは思わないで下さい──と、フェリシティはニッコリ微笑んだ。 相変わらずのゆるふわ設定なので、優しく見てもらえると助かります。

初恋の人と再会したら、妹の取り巻きになっていました

山科ひさき
恋愛
物心ついた頃から美しい双子の妹の陰に隠れ、実の両親にすら愛されることのなかったエミリー。彼女は妹のみの誕生日会を開いている最中の家から抜け出し、その先で出会った少年に恋をする。 だが再会した彼は美しい妹の言葉を信じ、エミリーを「妹を執拗にいじめる最低な姉」だと思い込んでいた。 なろうにも投稿しています。

完結 王族の醜聞がメシウマ過ぎる件

音爽(ネソウ)
恋愛
王太子は言う。 『お前みたいなつまらない女など要らない、だが優秀さはかってやろう。第二妃として存分に働けよ』 『ごめんなさぁい、貴女は私の代わりに公儀をやってねぇ。だってそれしか取り柄がないんだしぃ』 公務のほとんどを丸投げにする宣言をして、正妃になるはずのアンドレイナ・サンドリーニを蹴落とし正妃の座に就いたベネッタ・ルニッチは高笑いした。王太子は彼女を第二妃として迎えると宣言したのである。 もちろん、そんな事は罷りならないと王は反対したのだが、その言葉を退けて彼女は同意をしてしまう。 屈辱的なことを敢えて受け入れたアンドレイナの真意とは…… *表紙絵自作

朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。……これは一体どういうことですか!?

四季
恋愛
朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。

【完結】虐げられていた侯爵令嬢が幸せになるお話

彩伊 
恋愛
歴史ある侯爵家のアルラーナ家、生まれてくる子供は皆決まって金髪碧眼。 しかし彼女は燃えるような紅眼の持ち主だったために、アルラーナ家の人間とは認められず、疎まれた。 彼女は敷地内の端にある寂れた塔に幽閉され、意地悪な義母そして義妹が幸せに暮らしているのをみているだけ。 ............そんな彼女の生活を一変させたのは、王家からの”あるパーティー”への招待状。 招待状の主は義妹が恋い焦がれているこの国の”第3皇子”だった。 送り先を間違えたのだと、彼女はその招待状を義妹に渡してしまうが、実際に第3皇子が彼女を迎えにきて.........。 そして、このパーティーで彼女の紅眼には大きな秘密があることが明らかにされる。 『これは虐げられていた侯爵令嬢が”愛”を知り、幸せになるまでのお話。』 一日一話 14話完結

処理中です...