【完結】私より優先している相手が仮病だと、いい加減に気がついたらどうですか?〜病弱を訴えている婚約者の義妹は超が付くほど健康ですよ〜

よどら文鳥

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「勝手にすまなかったな。実は既に簡易な診療だけは終わらせていた」
「あの一瞬でですか!?」

「あぁ、今回は病気からの後遺症ということだから、それに関連する菌やウイルスに絞って調べただけだがな。シャロンさんの口の中と僅かな唾液、空気中の彼女の息で僅かだが探れた。しっかりと検査したわけではないから断言は出来ないんだが……」

 だからあんなに近づいていたのか。

 私も義兄様が診療している姿を見るのは初めてだったから何をしているのかと驚いてしまった。

「どうだったのですか?」
「病気も後遺症もなさそうだ。息の中には雑菌程度しか入っていなかったし、おそらくその辺にいる人間よりも健康だろうな。しかも、シャロンさんは相当な運動をしている肉体だぞ」

 まさかあの短期間でそこまで調べられるなんて……義兄様が国からも高く評価されている理由が分かった気がする。

「すごいです義兄様。でも、彼女はずっと部屋に引きこもってると聞いていたのですが……」

「流石にそこまではわからん。筋肉のつき方、健康な皮膚、喉元にも病原菌のようなものはなかったし、断言できるとすれば……彼女は病弱ではない。それでも体調が悪いと訴えるのは、思い込みで体調が悪いとマインドコントロールしているのかもしれんな。だが、診療をあれほど拒否した慌て方……もしかしたら病気のフリをしているのかもしれないな」
「そんなことしたら貴族として大変なことになってしまいますよ……」

 貴族としての嗜みを放棄するような行動だ。下手をすれば貴族剥奪にもなりかねない。もしもそうだとしたら、なんとしてでも更生させないと結婚する私まで被害を被ってしまいそうだ。

「あくまでも可能性の一つだ。それに実を言うとな、知人の医師から話は聞いていたのだ。シャロンさんの病気はほぼ完治していたと。良い機会だから念のために調べてあげてくれとも言われていたのだよ」
「でも義兄様が言うのですからほぼ確実ですよね……」

「いや、俺だって診断をミスすることはある。しかも簡単な検査しかできていないからな……。とにかくだ、所詮は俺の発言。証拠にはならないから調べた方がいいだろう。それよりも、今回は診療よりもジュリエルの元気な姿を見れて嬉しかったぞ。また何かあったら遠慮なく呼んでほしい」
「ありがとうございます」

 私だって義兄様と会えて嬉しかった。
 今度はお菓子でも作って、家族に会いに行こうと思う。

「それからこれを渡しておこう。念のためにと思って、風邪の特効薬を調合しておいた。病気になった時に飲んで安静にすれば、一日もあれば回復できるだろう。誰が飲んでも問題ないからな。ジュリエルに預けておく」
「助かります。何から何までありがとうございます」

 帰り際、義兄様は振り返って戻ってきて、先ほどと同じようなことを言うのだった。
「今日はお前に会えてよかった。……困るようなことがあったら、いつでも帰ってこい」

 私の肩に手を当てながら、どこか心配してくれているような感じがした。

 ♢

 再び帰っていく義兄様を見送って家の中へ戻った。
 そこには人王立ちして睨んでくるシャロンさんがいた。


「ジュリエルさん。なんで勝手なことをするのですか?」
 表情は明らかに怒っていた。

「申し訳ございません。ですが、今回は義父様とハーベスト様にも了承を得ました。みな、シャロンさんが健康になれることを願っているのですよ」
「そ……それでも私はお医者様が大嫌いなんです。勝手に身体をいじられたり見られたり……あんなのセクハラです。そんなことされるくらいなら、このままずっと病気で良いんです」

 そう言ってバタバタと走って部屋に戻ってしまった。
 さっきまで体調が優れないと言っていたのに走ったり怒鳴ったり、確かに義兄様の言うとおり病弱ではなさそうだ……。


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