上 下
36 / 87

【オズマ視点7】

しおりを挟む
──コンコン!!

 朝早くから、家のドアがなった。

「いったいこんな朝早くから誰だ……」
「朝早く申し訳ございません。わたくし、こういう者で……」

 持っていた身分証を見せてもらった。
 俺は、身分証に書いてある職業を見た瞬間、一気に覚醒した。

「探偵がいったいうちに何のようだ?」
「名前は言えませんが、とある方からの依頼で、フレイヤ准男爵家の調査をしにきました」

「ばかな。探偵が堂々とそんなことを喋るとは……」
「今回は国からの許可が出ていて、すでに家宅捜査許可証をいただいておりますので……」
「な……!?」

 国の家宅捜査許可証とは、何か悪いことをした家に出されることが圧倒的に多い。
 もちろん、俺には家宅捜査される理由に心当たりがある。
 ワインド家から無断で預かっているということにしているお金が沢山この家にあるのだ。
 だが、マーレットのおかげで金類は全て地下室に隠してある。

 いくら探偵だとしても、隠し地下室を見つけることはできないだろう。
 俺も冷静に対応をした。

「何も悪いことはしていないんだが……」
「私としてはなんとも言えませんが、早速入らさせていただきます」

 最悪の場合、探偵だけだったらバレたら口封じに地下室に監禁する手段も考えなければならない。
 だが、そううまくはいかなかった。
 やたらとガタイの良さそうな黒スーツを着た男が二人もいる。

 三人で家の中の捜索が始まった。

 頼むから地下室は見つけないでくれ!!

「な、なんなのこの人たちはー!」
「探偵らしい。国公認の家宅捜査だそうだ」
「え!?」

 マーレットは一瞬だけヤバいといった表情をしてしまった。
 すぐにその表情は作り笑いに変わる。

「お父様の財産差し押さえだけじゃなくて、まさかこの家の財産までも奪おうと企んでいらっしゃるの?」
「……いえ、調査内容は極秘ですので言えません」
「じゃあなんでこんな調査しているのです?」
「……それも言えません」

 さすがマーレットだ。
 全く知らないフリをする演技がやたらと上手い。

 探偵は、俺の部屋とマーレットの部屋、それからキッチン周りだけ確認していた。
 そこまでにして欲しい。
 秘密の地下室への道は、水浴び部屋にあるのだから……。

 探偵は、ついに水浴び部屋の方を一瞬向いた。

「あ……」

 しまった、つい声に出てしまった。
 だが、探偵はそちらの方へは行かずになぜかコクリとうなずくだけで俺の方を向いてくる。

「依頼とはいえ、お騒がせして申し訳ございませんでした。これにて調査は完了しました。ご協力感謝いたします」
「え!? あぁ、……そうですか」

 探偵は俺たちにお辞儀をしたあと、そのまま帰ってしまった。
 あっけらかんになってしまったが、俺はそのまま床にへたり込む。

「あいつら、一体何を調べてたんだ……?」

 ともかく、秘密の地下室の存在だけは知られなくて済んだ。
 これならば金のこともバレることはないのかもしれない。
 つまり、今後は派手に使えるということだ。

「バカな探偵で助かったな」
「私にもっと感謝してよね! 地下室のこと言わなかったら、今頃捕まっていたかもしれないんだから!」
「あぁ。マーレットは素晴らしい! 本当に感謝している」

 マーレットが地下室のことを知ってくれていて本当に助かった。

「オズマさあ、もう探偵の調査も終わったんだし、これからはあのお金普通に私たちが使っちゃってもよくない?」
「あぁ、俺も同じことを考えていた」

 なにしろ国の家宅捜査でシロだと証明されたようなものなんだ。
 もう心配する必要などどこにもない!

 今後はお金を使う楽しい生活をはじめようじゃないか!
 マーレットと結婚して本当によかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたたちのことなんて知らない

gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。

完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。 王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。 貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。 だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った

Mimi
恋愛
 声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。  わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。    今日まで身近だったふたりは。  今日から一番遠いふたりになった。    *****  伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。  徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。  シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。  お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……  * 無自覚の上から目線  * 幼馴染みという特別感  * 失くしてからの後悔   幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。 中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。 本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。 ご了承下さいませ。 他サイトにも公開中です

侯爵家のお飾り妻をやめたら、王太子様からの溺愛が始まりました。

二位関りをん
恋愛
子爵令嬢メアリーが侯爵家当主ウィルソンに嫁いで、はや1年。その間挨拶くらいしか会話は無く、夜の営みも無かった。 そんな中ウィルソンから子供が出来たと語る男爵令嬢アンナを愛人として迎えたいと言われたメアリーはショックを受ける。しかもアンナはウィルソンにメアリーを陥れる嘘を付き、ウィルソンはそれを信じていたのだった。 ある日、色々あって職業案内所へ訪れたメアリーは秒速で王宮の女官に合格。結婚生活は1年を過ぎ、離婚成立の条件も整っていたため、メアリーは思い切ってウィルソンに離婚届をつきつけた。 そして王宮の女官になったメアリーは、王太子レアードからある提案を受けて……? ※世界観などゆるゆるです。温かい目で見てください

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

婚約者候補を見定めていたら予定外の大物が釣れてしまった…

矢野りと
恋愛
16歳になるエミリア・ダートン子爵令嬢にはまだ婚約者がいない。恋愛結婚に憧れ、政略での婚約を拒んできたからだ。 ある日、理不尽な理由から婚約者を早急に決めるようにと祖父から言われ「三人の婚約者候補から一人選ばなければ修道院行きだぞ」と脅される。 それならばと三人の婚約者候補を自分の目で見定めようと自ら婚約者候補達について調べ始める。 その様子を誰かに見られているとも知らずに…。 *設定はゆるいです。 *この作品は作者の他作品『私の孤独に気づいてくれたのは家族でも婚約者でもなく特待生で平民の彼でした』の登場人物第三王子と婚約者のお話です。そちらも読んで頂くとより楽しめると思います。

処理中です...