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婚約破棄編
19 裁判の結果
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法曹がそう言った直後、お兄様は現場を録音したり映像を記録する道具を出した。
いつの間にあれほどの高級品を持っていたのだろう……。
映像が流れ出す。
お兄様と買い物に出かけているときの映像だった。
家から出発する場面から始まり、のんびり歩いているところか。
この時のお兄様はなぜか深く帽子を被っているし顔はよく見えなかったからよく覚えている。
更に、私の目にゴミが入ったときにお兄様が取ってくれるところも正確に記録されていた。
「バカな……嘘だろう……?」
「……マクツィアよ、貴様、あれほど確認したのかと聞いたではないか」
「いや、これは違う日の映像だろう!! 私はこんなもの見ていない!」
確かに、見ていないと言われてしまったらそれまでかもしれない。
素直に認めようともせずどこまでも汚い男で腹立たしいが……。
「これ、ここ、ここ! この部分に写っているのはアンタだろ?」
「──!?」
急にマクツィアの顔色が悪くなった。
私もお兄様が指差す部分をよく見たが、私のゴミをとっている後ろの方で、マクツィアが怒っている表情で写っていたのだ。
先ほど、マクツィアが見ていないと主張していた。
この場所で嘘をつくのはご法度だというのに。
「この男は俺たちの買物をしているところを見て、今回の婚約破棄を言い渡してきたのだ。ついでに、念のためにこの記録もあるが」
「も……もうやめ──」
「認める」
必死でマクツィアが止めようとするが、法曹からの許可も出ている。
お兄様が一度やり出したら止まるはずもない。
「今度は音声だけだが、リーレルが婚約破棄を一歩的に言われた場面だ」
いつの間に音声記録道具を私に身につけさせていたんだよ!?
当時の理不尽に告げられた音声が流れ、嫌な出来事を再び思い出してしまった。
正面では、マクツィアは滝のような脂汗を流し、横ではマクツィアのことを睨みつけている父親の姿が……。
やがて、音声が終了し、お兄様が法曹に対して訴える。
「以上だ!」
お兄様は勝ち誇ったように椅子に勢いよく座った。
これ以上話し合う必要もないくらいに、証拠を提出したのだ。
正面にいる二人は、それ以上突っかかってくることも、言い訳することすらできなかった。
「判決を言い渡す。マクツィア=アラーネウス側の婚約破棄は無効。ただし、希望であればリーエル=ローラ側から婚約破棄を請求した上、金貨四百枚の請求を認める。以上」
裁判長も呆れたような表情をしていたことが印象深かった。
マクツィアは顔を落としたまま全く動かず、横にいた父は、呆れ果てているようで肩を落としていた。
♢
あっさりと完勝し、ついに私のモヤモヤしていた悩みの種は解決した。
これでローラ家が極端に泥を塗られることもなくなっただろう。
無事に解決できたので、今まで気になっていたことを全て聞いてみた。
「お兄様、いつの間にあれほどの高価な道具を?」
「あれは俺のではない。マーレットの私物を借りただけだ」
「はい!?」
「証拠を残すためにどうしても必要だったからな」
順序がおかしい気がするんですけど!
「どういうこと!?」
「お前がマクツィア相手に困っていると言っていたからな。それにあいつがストーカー行為をしていたことも知っている。ならば、俺が他人のフリをしてリーレルと歩いていれば、勝手に勘違いするだろうと思っていたのだ」
「仕組んでいたってこと!?」
「勘違いするな。俺はあの時はあくまで帽子を深くかぶりたい気分だっただけだ。たまたま映像を残しておこうかと思っていた。それだけのこと」
結果的に私は助かったわけだが、お兄様が計画的に追い込んだように思えてしまう。
助けられた身なので黙っておくけれど。
「あの翌日に婚約破棄されると分かっていたの?」
「セッカチな男だからな。念のために買い物当日からお前の鞄に音声道具を忍ばせておいた」
「はぁ……呆れてしまうわね。でも、お兄様、本当にありがとう!」
お兄様は何事もなかったかのように、いつもの真顔で頷いた。
「当たり前のことだ。それに、あんな子爵家と繋がるのは俺が耐えられなかったからな。俺のためにやったまでだと思ってくれれば良い」
私の自慢のお兄様だ。
もう何を言われたってアレだとかソレなんて言わない……と思う。
それだけのことをしてくれ、私を助けてくれたのだから。
「余談だが、お前が用を足していた時の音声は編集して消去してある。あまりにも雑音がうるさく聞き苦しかったからな」
「おい!!」
一体何を考えてそんなことを言ってくるのか全くわからない!
今までの感動を全て消すほどのデリカシーのない発言はなんとかしてほしい。
コレが私のお兄様の性格なのだから、仕方がないか……。
いつの間にあれほどの高級品を持っていたのだろう……。
映像が流れ出す。
お兄様と買い物に出かけているときの映像だった。
家から出発する場面から始まり、のんびり歩いているところか。
この時のお兄様はなぜか深く帽子を被っているし顔はよく見えなかったからよく覚えている。
更に、私の目にゴミが入ったときにお兄様が取ってくれるところも正確に記録されていた。
「バカな……嘘だろう……?」
「……マクツィアよ、貴様、あれほど確認したのかと聞いたではないか」
「いや、これは違う日の映像だろう!! 私はこんなもの見ていない!」
確かに、見ていないと言われてしまったらそれまでかもしれない。
素直に認めようともせずどこまでも汚い男で腹立たしいが……。
「これ、ここ、ここ! この部分に写っているのはアンタだろ?」
「──!?」
急にマクツィアの顔色が悪くなった。
私もお兄様が指差す部分をよく見たが、私のゴミをとっている後ろの方で、マクツィアが怒っている表情で写っていたのだ。
先ほど、マクツィアが見ていないと主張していた。
この場所で嘘をつくのはご法度だというのに。
「この男は俺たちの買物をしているところを見て、今回の婚約破棄を言い渡してきたのだ。ついでに、念のためにこの記録もあるが」
「も……もうやめ──」
「認める」
必死でマクツィアが止めようとするが、法曹からの許可も出ている。
お兄様が一度やり出したら止まるはずもない。
「今度は音声だけだが、リーレルが婚約破棄を一歩的に言われた場面だ」
いつの間に音声記録道具を私に身につけさせていたんだよ!?
当時の理不尽に告げられた音声が流れ、嫌な出来事を再び思い出してしまった。
正面では、マクツィアは滝のような脂汗を流し、横ではマクツィアのことを睨みつけている父親の姿が……。
やがて、音声が終了し、お兄様が法曹に対して訴える。
「以上だ!」
お兄様は勝ち誇ったように椅子に勢いよく座った。
これ以上話し合う必要もないくらいに、証拠を提出したのだ。
正面にいる二人は、それ以上突っかかってくることも、言い訳することすらできなかった。
「判決を言い渡す。マクツィア=アラーネウス側の婚約破棄は無効。ただし、希望であればリーエル=ローラ側から婚約破棄を請求した上、金貨四百枚の請求を認める。以上」
裁判長も呆れたような表情をしていたことが印象深かった。
マクツィアは顔を落としたまま全く動かず、横にいた父は、呆れ果てているようで肩を落としていた。
♢
あっさりと完勝し、ついに私のモヤモヤしていた悩みの種は解決した。
これでローラ家が極端に泥を塗られることもなくなっただろう。
無事に解決できたので、今まで気になっていたことを全て聞いてみた。
「お兄様、いつの間にあれほどの高価な道具を?」
「あれは俺のではない。マーレットの私物を借りただけだ」
「はい!?」
「証拠を残すためにどうしても必要だったからな」
順序がおかしい気がするんですけど!
「どういうこと!?」
「お前がマクツィア相手に困っていると言っていたからな。それにあいつがストーカー行為をしていたことも知っている。ならば、俺が他人のフリをしてリーレルと歩いていれば、勝手に勘違いするだろうと思っていたのだ」
「仕組んでいたってこと!?」
「勘違いするな。俺はあの時はあくまで帽子を深くかぶりたい気分だっただけだ。たまたま映像を残しておこうかと思っていた。それだけのこと」
結果的に私は助かったわけだが、お兄様が計画的に追い込んだように思えてしまう。
助けられた身なので黙っておくけれど。
「あの翌日に婚約破棄されると分かっていたの?」
「セッカチな男だからな。念のために買い物当日からお前の鞄に音声道具を忍ばせておいた」
「はぁ……呆れてしまうわね。でも、お兄様、本当にありがとう!」
お兄様は何事もなかったかのように、いつもの真顔で頷いた。
「当たり前のことだ。それに、あんな子爵家と繋がるのは俺が耐えられなかったからな。俺のためにやったまでだと思ってくれれば良い」
私の自慢のお兄様だ。
もう何を言われたってアレだとかソレなんて言わない……と思う。
それだけのことをしてくれ、私を助けてくれたのだから。
「余談だが、お前が用を足していた時の音声は編集して消去してある。あまりにも雑音がうるさく聞き苦しかったからな」
「おい!!」
一体何を考えてそんなことを言ってくるのか全くわからない!
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