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婚約破棄編
13 余命は突然に
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「リーレル! 急いで来い!」
「なに!?」
「いいから! 緊急だ!」
屋敷の扉をお兄様が開けると、中にはメイドの出迎えもなかった。
別に出迎えがないことに不満があるわけではない。
おかしいとは思ったのだ。
私は普段から察しが悪いところがある。
だが、今回は屋敷へ到着したときに気がつくべきだった。
入口の警備が何故かいなかったのかということに。
お兄様に手を引っ張られながら駆け足でどこかへ連れて行かれている時点でことの重大さに気がつく。
「まさか、公爵家で何かが!?」
「嫌な予感がする。まさかマーレット……!?」
珍しくお兄様が焦っていた。
普段冷静で心を乱すようなことは一切しないお兄様がこの焦り様……。
ただ事ではない。
「その奥がマーレットの部屋だ! メイドが集まっているということは予想通りか。マーレットの身体に何かがあったのかもしれん!」
「でも、まだ余命はまだ先のはずでは!?」
「それは知らん! とにかく、急げ」
お兄様がマーレット様の部屋のドアに近くと、メイド達が一斉に通路を開けてくれた。
顔パスかよ!?
どれだけ権限持っているんだよこの人は!
──バタン!!
お兄様は勢いよく扉を開けた。
どこの家でも屋敷でも開け方が乱暴だが、今は黙っておく。
「マーレット!!」
ベッドの上で苦しそうに息を荒げながら、眠っているマーレット様に近づく。
「すまぬ、遅かった。マーレットの病気が急に悪化してしまい、もう長くは保たない……」
ウィリアム公爵が涙を堪えながら悔しそうに訴えていた。
その横で二人揃って大粒の涙を零しているのは、ウィリアム公爵のご両親だろうか。
「リーレル! すぐに出来たものをくれ!」
お兄様が焦りながら催促をしてきた。
それを聞いていた公爵達が驚いたような表情でこちらを向いてくる。
ご両親の顔はくしゃくしゃになっていた。
ずっと泣いていたのかもしれない。
「其方がリーレル殿……。昨日ウィリアムから話を聞いていた。マーレットを治す調薬が完成しているのか!?」
「は……はい。ですが、まだ絶対保証ができるものではないので、一度私がこの場で毒味をします」
お兄様に任せるのもどうかと思う。
自分でやったことには自分で責任をとりたい。
だがお兄様は私が飲もうとした調薬を奪い、一気に飲み込んだ。
「……う!」
お兄様が変な声を出す。
まさか、私の調合にミスがあって苦しんでいるとでもいうの!?
公爵達まで不安そうな顔になってしまった。
「美味い!!」
「は!?」
「これは美味い! お茶を苦くしたような感じで独特の風味だ。副作用がなければ日常的に飲んでも問題ないだろう」
コレの味覚はどうなっているのだろう。
私も制作中に少しだけ毒味をしたが、好んで飲むような代物ではない。
「即効性で死なないことはわかった。マーレットに飲ませてもいいか?」
お兄様が公爵達に確認をとっている。
さすがに勝手に飲ませるようなことはしないらしい。
だが、意外にも三人とも即答だった。
「マーレットの苦しむ姿は見たくない。飲ませてくれ、頼む!」
「もし何かあっても、リーレルさんに責任追及するようなことは絶対に致しませんわ」
「いや、母上。レオン殿の妹です。不安を煽らず、彼女を信じましょう。きっとマーレットは良くなるはずです」
お兄様はすぐにマーレット様の口に調薬を流し込んだ。
──お願い……治って!!
私は両手の指を交差しながら目を瞑り心の中でそう祈った。
「なに!?」
「いいから! 緊急だ!」
屋敷の扉をお兄様が開けると、中にはメイドの出迎えもなかった。
別に出迎えがないことに不満があるわけではない。
おかしいとは思ったのだ。
私は普段から察しが悪いところがある。
だが、今回は屋敷へ到着したときに気がつくべきだった。
入口の警備が何故かいなかったのかということに。
お兄様に手を引っ張られながら駆け足でどこかへ連れて行かれている時点でことの重大さに気がつく。
「まさか、公爵家で何かが!?」
「嫌な予感がする。まさかマーレット……!?」
珍しくお兄様が焦っていた。
普段冷静で心を乱すようなことは一切しないお兄様がこの焦り様……。
ただ事ではない。
「その奥がマーレットの部屋だ! メイドが集まっているということは予想通りか。マーレットの身体に何かがあったのかもしれん!」
「でも、まだ余命はまだ先のはずでは!?」
「それは知らん! とにかく、急げ」
お兄様がマーレット様の部屋のドアに近くと、メイド達が一斉に通路を開けてくれた。
顔パスかよ!?
どれだけ権限持っているんだよこの人は!
──バタン!!
お兄様は勢いよく扉を開けた。
どこの家でも屋敷でも開け方が乱暴だが、今は黙っておく。
「マーレット!!」
ベッドの上で苦しそうに息を荒げながら、眠っているマーレット様に近づく。
「すまぬ、遅かった。マーレットの病気が急に悪化してしまい、もう長くは保たない……」
ウィリアム公爵が涙を堪えながら悔しそうに訴えていた。
その横で二人揃って大粒の涙を零しているのは、ウィリアム公爵のご両親だろうか。
「リーレル! すぐに出来たものをくれ!」
お兄様が焦りながら催促をしてきた。
それを聞いていた公爵達が驚いたような表情でこちらを向いてくる。
ご両親の顔はくしゃくしゃになっていた。
ずっと泣いていたのかもしれない。
「其方がリーレル殿……。昨日ウィリアムから話を聞いていた。マーレットを治す調薬が完成しているのか!?」
「は……はい。ですが、まだ絶対保証ができるものではないので、一度私がこの場で毒味をします」
お兄様に任せるのもどうかと思う。
自分でやったことには自分で責任をとりたい。
だがお兄様は私が飲もうとした調薬を奪い、一気に飲み込んだ。
「……う!」
お兄様が変な声を出す。
まさか、私の調合にミスがあって苦しんでいるとでもいうの!?
公爵達まで不安そうな顔になってしまった。
「美味い!!」
「は!?」
「これは美味い! お茶を苦くしたような感じで独特の風味だ。副作用がなければ日常的に飲んでも問題ないだろう」
コレの味覚はどうなっているのだろう。
私も制作中に少しだけ毒味をしたが、好んで飲むような代物ではない。
「即効性で死なないことはわかった。マーレットに飲ませてもいいか?」
お兄様が公爵達に確認をとっている。
さすがに勝手に飲ませるようなことはしないらしい。
だが、意外にも三人とも即答だった。
「マーレットの苦しむ姿は見たくない。飲ませてくれ、頼む!」
「もし何かあっても、リーレルさんに責任追及するようなことは絶対に致しませんわ」
「いや、母上。レオン殿の妹です。不安を煽らず、彼女を信じましょう。きっとマーレットは良くなるはずです」
お兄様はすぐにマーレット様の口に調薬を流し込んだ。
──お願い……治って!!
私は両手の指を交差しながら目を瞑り心の中でそう祈った。
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