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婚約破棄編
12 お兄様の命まで!?
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「これを飲めばきっと、マーレット様に寄生している害虫は死んで……えーと、外に逃げていくはず」
自分に言い聞かせるように、改めて調薬の効果をお兄様に説明した。
マーレット様のことを考えたら、曖昧な表現しかできなかったが。
まさか大きい方と一緒に出てくるなどと、マーレット様の婚約者相手にストレートに言うわけにもいかない。
「よくわからん。要はマーレットのウXXと一緒に出ていくというわけか?」
「お兄様!!!」
私は本気で怒ったので、コレを睨みつける。
公爵家を尋ねたときは、お兄様を尊敬すると誓っていたが、あの考えは却下することにした。
躊躇もなければ遠慮もデリカシーもない。
コレが私のお兄様なのだ。
♢
徹夜で調合を行い、不眠不休の状態でアレと一緒に公爵家の元を訪ねた。
先ほどのデリカシーのない発言が頭にきているので、しばらくはアレと呼ばせていただこう。
もちろん二人で歩いている間も会話ゼロだ。
「レオン殿、それから……」
「妹のリーレルだ。大事な用事があるから入るぞ」
「わかりました。では馬車の手配も大至急行いますので!」
「あぁ、助かる。屋敷まで歩いていたら日が暮れるからな」
ベルモンド公爵家の門番とも顔見知りなのか。
こんなにアッサリと王族の門を通過できるとは……。
あっという間に馬車も用意され、私たちは乗り込んだ。
「リーレル!」
「はい、なんでしょうかレオンお兄様」
私が怒っているときは、敬語を使って話をすることにしている。
気安く話したくないので、距離を置くための措置だ。
もちろんそのことを本人に説明したことはないが、おそらく知っている。
「なぜ怒っている?」
「さぁ、なぜでしょうか」
少しだけ考えるような素振りをみせたが、すぐに普段の無表情さで私に当たり前のように言い放つ。
「理由もわからず謝るつもりはない。だが、礼は先に言っておきたいんだ。ありがとう」
「え!?」
このタイミングでお礼を言われることなどしていない。
調合はできていても、マーレット様の病気が治るかどうかは別だ。
「まだ治していないので、その言葉が無駄になってしまう可能性もありますよ……」
「違う、そうじゃない。徹夜をしてまで、俺の大事な女を助けようとしてくれた。その一生懸命さに感謝しているんだ。上手くいくかどうかは別。マーレットのために行動してくれたことに感謝している」
温かみのある言葉を聞いて、怒っていた感情も消されてしまった。
「うぅ……、お兄様はずるいよ……。私が怒っているからってご機嫌をとろうとして」
「いや、悪いがリーレルが怒っていようがそうでなくても同じことを告げたと思う。もしも俺に何かあっては言いたいことも言えなくなるからな。先に言っておこうかと思っただけだ」
普段は無表情か、喜怒哀楽のうちの『怒』しか見せないお兄様の表情が、少しだけ曇る。
なんなんだよ、その今から死にますと匂わせるような言い方は。
フラグみたいな発言はやめて欲しいんだけど。
「マーレット様だけでなく、お兄様にも何かあるの……?」
「あぁ。覚悟はしている」
いくら、お兄様のことをアレだのコレだのと言っていても、命に関わるようなことがあると考えてしまったら悲しい。
私は、無意識に涙を零してしまった。
「泣くなよ」
「だって……お兄様がそんなことを言うから……」
「もしもの話だ。俺はこれから命をかけた実験台になるのだから、念のために伝えることは全て伝えておこうかと」
「実験……って、……は?」
私の大事に持っている調合した調薬を指差して言ってきた。
「マーレットが飲む前に俺が命をかけて飲むと言っただろ。だが安心しろ。遺書はしっかりと書いたし、知人にも別れの挨拶は済ませておいた」
「死ぬの前提なの!?」
「俺は全くもって大丈夫だと思っていたが、リーレルが自信なさそうに言っていたからな。やはりここは製作者の意見を尊重するべきかと思った」
「……」
何も言い返せなかった。
今回の調合は、普段の趣味のときよりもより一層最新の注意をしながら作成した。
分量もミスはしていないだろうし、実は完成直前にほんの一口だけ毒味をしている。
だが、今のところ何も変化はないので人間に毒があるようなものにはなっていないはずだ。
お兄様が心配してしまったのはきっと、私が心配させるようなことばかり言っていたからだろう。
多分としか言えないけれど、きっと大丈夫。
お兄様も死なないし、マーレット様の病気も治る。
そうでなくてはならない!
強く願いながら、公爵家の屋敷に入った。
自分に言い聞かせるように、改めて調薬の効果をお兄様に説明した。
マーレット様のことを考えたら、曖昧な表現しかできなかったが。
まさか大きい方と一緒に出てくるなどと、マーレット様の婚約者相手にストレートに言うわけにもいかない。
「よくわからん。要はマーレットのウXXと一緒に出ていくというわけか?」
「お兄様!!!」
私は本気で怒ったので、コレを睨みつける。
公爵家を尋ねたときは、お兄様を尊敬すると誓っていたが、あの考えは却下することにした。
躊躇もなければ遠慮もデリカシーもない。
コレが私のお兄様なのだ。
♢
徹夜で調合を行い、不眠不休の状態でアレと一緒に公爵家の元を訪ねた。
先ほどのデリカシーのない発言が頭にきているので、しばらくはアレと呼ばせていただこう。
もちろん二人で歩いている間も会話ゼロだ。
「レオン殿、それから……」
「妹のリーレルだ。大事な用事があるから入るぞ」
「わかりました。では馬車の手配も大至急行いますので!」
「あぁ、助かる。屋敷まで歩いていたら日が暮れるからな」
ベルモンド公爵家の門番とも顔見知りなのか。
こんなにアッサリと王族の門を通過できるとは……。
あっという間に馬車も用意され、私たちは乗り込んだ。
「リーレル!」
「はい、なんでしょうかレオンお兄様」
私が怒っているときは、敬語を使って話をすることにしている。
気安く話したくないので、距離を置くための措置だ。
もちろんそのことを本人に説明したことはないが、おそらく知っている。
「なぜ怒っている?」
「さぁ、なぜでしょうか」
少しだけ考えるような素振りをみせたが、すぐに普段の無表情さで私に当たり前のように言い放つ。
「理由もわからず謝るつもりはない。だが、礼は先に言っておきたいんだ。ありがとう」
「え!?」
このタイミングでお礼を言われることなどしていない。
調合はできていても、マーレット様の病気が治るかどうかは別だ。
「まだ治していないので、その言葉が無駄になってしまう可能性もありますよ……」
「違う、そうじゃない。徹夜をしてまで、俺の大事な女を助けようとしてくれた。その一生懸命さに感謝しているんだ。上手くいくかどうかは別。マーレットのために行動してくれたことに感謝している」
温かみのある言葉を聞いて、怒っていた感情も消されてしまった。
「うぅ……、お兄様はずるいよ……。私が怒っているからってご機嫌をとろうとして」
「いや、悪いがリーレルが怒っていようがそうでなくても同じことを告げたと思う。もしも俺に何かあっては言いたいことも言えなくなるからな。先に言っておこうかと思っただけだ」
普段は無表情か、喜怒哀楽のうちの『怒』しか見せないお兄様の表情が、少しだけ曇る。
なんなんだよ、その今から死にますと匂わせるような言い方は。
フラグみたいな発言はやめて欲しいんだけど。
「マーレット様だけでなく、お兄様にも何かあるの……?」
「あぁ。覚悟はしている」
いくら、お兄様のことをアレだのコレだのと言っていても、命に関わるようなことがあると考えてしまったら悲しい。
私は、無意識に涙を零してしまった。
「泣くなよ」
「だって……お兄様がそんなことを言うから……」
「もしもの話だ。俺はこれから命をかけた実験台になるのだから、念のために伝えることは全て伝えておこうかと」
「実験……って、……は?」
私の大事に持っている調合した調薬を指差して言ってきた。
「マーレットが飲む前に俺が命をかけて飲むと言っただろ。だが安心しろ。遺書はしっかりと書いたし、知人にも別れの挨拶は済ませておいた」
「死ぬの前提なの!?」
「俺は全くもって大丈夫だと思っていたが、リーレルが自信なさそうに言っていたからな。やはりここは製作者の意見を尊重するべきかと思った」
「……」
何も言い返せなかった。
今回の調合は、普段の趣味のときよりもより一層最新の注意をしながら作成した。
分量もミスはしていないだろうし、実は完成直前にほんの一口だけ毒味をしている。
だが、今のところ何も変化はないので人間に毒があるようなものにはなっていないはずだ。
お兄様が心配してしまったのはきっと、私が心配させるようなことばかり言っていたからだろう。
多分としか言えないけれど、きっと大丈夫。
お兄様も死なないし、マーレット様の病気も治る。
そうでなくてはならない!
強く願いながら、公爵家の屋敷に入った。
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