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48 理由

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 確かにこれくらいの温度の地域のために極寒用としてこの服はデザインした。
 わざわざ服のためだけにこのような部屋を作ってしまうとは……。

「それにしても寒すぎませんか? 一体何度にしているのですか?」
「マイナス四十度だ。せっかくだからここに肉や魚を長期保存する計画も考えている」

 倉庫なのかここは!?

「……そう言ってシェリル様の新作を着て楽しんでいるの?」
「当然だ。折角極寒用の服が手に入った。現地まで行くのは厳しいが、これなら疑似体験もできるし、服としても有効活用ができるだろう。まぁ他にも理由はあるが」

 有効活用というよりも、無理矢理需要を作り出したとしか思えないが。
 とはいえ、ここまで販売した服を気に入ってくれるのはロック殿下ぐらいだろう。


「やっぱり極寒対策用にしたとはいえ、これでもまだ寒いですね。もう少し生地を変えるべきなのか……うーん」
「いや、新たに首に何かを巻いて、首元を暖かくするような服を……」
「それに手先がこれでは無防備ね。手先も温められるような生地のものを……」

 気がついたら私は完全に仕事モードになってしまって、ひたすらブツブツと独り言を繰り返していた。

「ふむ、どうやら良いアイディアが浮かんだようだな?」
「え!? まさかこんな寒い部屋に招き入れたのって……」
「ここまで寒い体験などしたことないだろう? 実際に寒さを経験すれば新たな新作のキッカケになるかと思ったのだ」

「……シェリル様、殿下に愛されすぎですね」

 無茶苦茶なことをするかと思っていたら私のためだったとは……。
 でも、おかげで本当に新しいアイディアが浮かんだ。
 極寒地帯にはかなりの人間が住んでいるし、需要はあるかもしれない。

 首元や手先が温かくなるような物をデザインして開発できそうだ。

「ロック殿下、貴重な経験をありがとうございました。帰ったら早速デザインしてみようかと思います」
「それは何より。出来上がった新作は今後五セットずつ買うようにしよう」

 そこまで買わなくても……。

 あまりこの極寒部屋に長居すると身体が凍えてしまうだろう。
 部屋を出て温まっていくと、今度は灼熱地獄だ。
 すぐに厚着を脱ぐ。
 それでもまだ暑い気がするぞ。さっきまではなんともなかったのに。
 慣れって怖いな。
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