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12 新たな契約

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 そんなものが王宮にあったとは初耳だ。はっきり言って得体が知れない。

 横にいるハットに確認をした。

「王宮には仕立屋に限らず、専門技術を備えた施設がいくつか存在しています。こちらの方々も私は面識があります。偽りではないことを保証いたします」

 さすが王宮で使用人をしていただけのことはある。ハット達を雇っておいてよかった。

「失礼致しました。それでは、中へ。あ、出来れば私の仕事部屋でお話を伺いたいのですが」
「構いません」

 ガルカとレムには、話の内容を聞かれたくなかったのだ。
 私の仕事部屋ならば、鍵をかけて小声で喋れば聞かれてしまうことはないだろう。

 それにしても、お願いとは一体なんなのだろうか。


 ♢


「しっかりした椅子がなく申し訳ございません。それから、外に声が漏れないようにお願いしたいのですが」

「承知しました。では早速本題ですが、今後シェリル様が制作されるデザインを、全てこちらで製造させていただきたいのです」
「えっ!?」

 やらかした。静かにお願いしていたのに、驚きのあまり私が大きな声を出してしまった。

「すみません、理由をお伺いしてもよろしいですか?」
「シェリル様のデザインされている服は、もはや貴族の中で知らぬものはいない程、有名になってます。国王陛下や御子息の王太子様もさぞ気に入られています。ですから、製造もこちらでできないかと」

 私としては最高の案件だ。本当ならば即答でお願いしたいところ。
 ただ、やはり今までお世話になった製造元に影響が出てしまうと考えると渋ってしまう。それがデーギス家だとしてもだ。

「そうですか、しかしながらお世話になっている製造業者の方を離れるとならば、業者が痛手になってしまうかと……」
「もちろん対策はできております。一年間ではありますが、王族と貴族の皆様から補助を出す予定です」

 一年あればなんとかなるだろう……。

 私以外の契約がどれほどなのかは知らないが、それだけ援助があるのならば、私が離れた方がむしろ儲かるんじゃないかと思ってしまった。

 それに、もし王宮の方で服の製造が可能ならば、ガルカとの離婚もしやすくなる。いや、むしろ離婚後の不安が解消されるので容易かもしれない。

「尚、報酬に関してですが、今までシェリル様が行っていたやり方で構わないと。それに上乗せして、国から一萬紙幣を毎年十万枚支給とのことです」
「いや、それは貰いすぎですから! 今まで成果報酬でやっていましたので、追加報酬は結構ですよ」
「そうはいきません。国としてのお願いでもありますから。シェリル様の高い評価を見込んで、爵位を授与するという話も出ているくらいですので……」

 私は話を聞いて固まってしまった。
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