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4 愛人と遭遇
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どうしたら良いものか。
本来ならばすぐにでも捕まえて事情聴取を行いたいところだが、マスターと仲が良さそうな感じがする。
マスターは人を見る目があるので、一旦何くわぬ顔で接してみることにした。
絶大なストレスを抱えるのを覚悟の上でだが。
「失礼しますね」
「どうぞ」
「此処にはよくこられるのですか? あ、私はベルジャミと申します」
「よろしくお願いしますね。えーと……私は……」
本名を言ってしまえばザーガルトの妻だとバレてしまうかもしれない。
どうしたら良いか迷っていると……。
「あ、気にしなくて良いですよ。本名を名乗れないことだってありますものね。マスター、私がいる間は彼女の名前伏せてあげてくださいねー」
「あいよ。相変わらず気が利くねぇ。じゃあ今だけ君のことは『ジーナ』と呼ばせてもらおうか」
彼女の株が上がった。
気遣いもできるし、私が困ってもすぐに対応してくれた。
とは言え浮気されていたのは事実。
いや待てよ……。
もしかしたら彼女は双子もしくは三つ子、念のために六つ子だと仮定したら……此処にいるのは昨日会った女と別人……ということも考えられるか。
「ところでジーナさんって此処にはよく来られるのですか?」
「ん? あ、えぇ……休みの日にだけですけど」
「あら、じゃあ偶然なんですねー。私も此処にしょっちゅう来ているんですけど、初対面ですもんね。ここのコーヒーが美味しくて」
思いの外、気が合ってしまいそうだ。
お願いだから双子でも五つ子でもなんでも良いから別人であって欲しい……。
「ジーナは基本来るのが遅めだからな。対してベルジャミちゃんは今日みたいに早い日が多いだろ? だから会わなくてもしょーがねーな。二人とも良いやつだから仲良くなってくれたら俺も嬉しい」
「ふふ……よろしくお願いしますわジーナちゃん」
「よ……よろしく」
♢
話していると、ベルジャミはとても良い人で悪意で不倫をするようには思えない。
もしかしたら、ザーガルトに妻がいないと思って交際をしている可能性も十分に考えられる。
もちろん許せることではないが、それならば彼女を責めるのは違う気がする。
「マスター……実はね、最近愛している人がいるんだけど、恋愛と愚痴が言いたくて……」
「おう、任せろ。俺は恋愛の神様みたいなもんだし」
普段だったら突っ込むが、今はそれどころではない。
これはチャンスだ。
私は何食わぬ顔で聞くことにした。
「実はその人と出会ったキッカケって、私の命を助けてくれたのよ」
「ほう。どんな?」
エピソードが私と一緒だ……。私もザーガルトに命を助けられて交際したのだから。
「実はもう三ヶ月前なんだけど……」
ザーガルトが私に冷たくなった頃と被っている……。
「私、チンピラ二人組に襲われちゃったのよ。相手が強くて裸にまでさせられちゃってね、もうダメかと思ったんだけどね……」
ほぼ被っている。もしも助けたのがザーガルトだとしたら、すごく良いことをしたんだろうけど複雑だな。
「間一髪で追い払ってくれたの。まるでヒーローだったわ。幸い、彼女や妻がいないそうでね、それからその人に惹かれて付き合い始めたの」
「ほう、襲われてしまったのは酷だが、まさに小説のような展開だな」
「わ……私も同感ね……」
話を全て信じるとしたら、彼女に悪気はないはず。
悪いのは襲ってきた男と、妻がいることを黙っているザーガルトだ。
とは言え、まだザーガルトと決まったわけではないのだが。十中八九本人だとは思うが心のどこかで彼でないと信じたい。
「襲ってきた男たちはまだ捕まってないから怖いんだけどね。でも私には彼氏がいるからきっと守ってくれる。と、思っていたんだけどさ……」
まだ話は続くようだ。今度はベルジャミの表情が曇っているように見える。
「彼、出会った初日はヒーローみたいだったんだけどね……。昨日彼と別れ際の帰り道で、ダッサそうなチンピラ一人相手に絡まれたのよ。あれは絶対わざとぶつかってきたのよ! しかも胸揉まれたし」
どこまで私の展開とかぶってんだよ。
もう他人事だとは微塵も感じられない。
本来ならばすぐにでも捕まえて事情聴取を行いたいところだが、マスターと仲が良さそうな感じがする。
マスターは人を見る目があるので、一旦何くわぬ顔で接してみることにした。
絶大なストレスを抱えるのを覚悟の上でだが。
「失礼しますね」
「どうぞ」
「此処にはよくこられるのですか? あ、私はベルジャミと申します」
「よろしくお願いしますね。えーと……私は……」
本名を言ってしまえばザーガルトの妻だとバレてしまうかもしれない。
どうしたら良いか迷っていると……。
「あ、気にしなくて良いですよ。本名を名乗れないことだってありますものね。マスター、私がいる間は彼女の名前伏せてあげてくださいねー」
「あいよ。相変わらず気が利くねぇ。じゃあ今だけ君のことは『ジーナ』と呼ばせてもらおうか」
彼女の株が上がった。
気遣いもできるし、私が困ってもすぐに対応してくれた。
とは言え浮気されていたのは事実。
いや待てよ……。
もしかしたら彼女は双子もしくは三つ子、念のために六つ子だと仮定したら……此処にいるのは昨日会った女と別人……ということも考えられるか。
「ところでジーナさんって此処にはよく来られるのですか?」
「ん? あ、えぇ……休みの日にだけですけど」
「あら、じゃあ偶然なんですねー。私も此処にしょっちゅう来ているんですけど、初対面ですもんね。ここのコーヒーが美味しくて」
思いの外、気が合ってしまいそうだ。
お願いだから双子でも五つ子でもなんでも良いから別人であって欲しい……。
「ジーナは基本来るのが遅めだからな。対してベルジャミちゃんは今日みたいに早い日が多いだろ? だから会わなくてもしょーがねーな。二人とも良いやつだから仲良くなってくれたら俺も嬉しい」
「ふふ……よろしくお願いしますわジーナちゃん」
「よ……よろしく」
♢
話していると、ベルジャミはとても良い人で悪意で不倫をするようには思えない。
もしかしたら、ザーガルトに妻がいないと思って交際をしている可能性も十分に考えられる。
もちろん許せることではないが、それならば彼女を責めるのは違う気がする。
「マスター……実はね、最近愛している人がいるんだけど、恋愛と愚痴が言いたくて……」
「おう、任せろ。俺は恋愛の神様みたいなもんだし」
普段だったら突っ込むが、今はそれどころではない。
これはチャンスだ。
私は何食わぬ顔で聞くことにした。
「実はその人と出会ったキッカケって、私の命を助けてくれたのよ」
「ほう。どんな?」
エピソードが私と一緒だ……。私もザーガルトに命を助けられて交際したのだから。
「実はもう三ヶ月前なんだけど……」
ザーガルトが私に冷たくなった頃と被っている……。
「私、チンピラ二人組に襲われちゃったのよ。相手が強くて裸にまでさせられちゃってね、もうダメかと思ったんだけどね……」
ほぼ被っている。もしも助けたのがザーガルトだとしたら、すごく良いことをしたんだろうけど複雑だな。
「間一髪で追い払ってくれたの。まるでヒーローだったわ。幸い、彼女や妻がいないそうでね、それからその人に惹かれて付き合い始めたの」
「ほう、襲われてしまったのは酷だが、まさに小説のような展開だな」
「わ……私も同感ね……」
話を全て信じるとしたら、彼女に悪気はないはず。
悪いのは襲ってきた男と、妻がいることを黙っているザーガルトだ。
とは言え、まだザーガルトと決まったわけではないのだが。十中八九本人だとは思うが心のどこかで彼でないと信じたい。
「襲ってきた男たちはまだ捕まってないから怖いんだけどね。でも私には彼氏がいるからきっと守ってくれる。と、思っていたんだけどさ……」
まだ話は続くようだ。今度はベルジャミの表情が曇っているように見える。
「彼、出会った初日はヒーローみたいだったんだけどね……。昨日彼と別れ際の帰り道で、ダッサそうなチンピラ一人相手に絡まれたのよ。あれは絶対わざとぶつかってきたのよ! しかも胸揉まれたし」
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もう他人事だとは微塵も感じられない。
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