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8話

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 何度も瞬きをしてから、もう一度レオルド様に確認をした。

「愛人を終わらせるというのは……?」
「結婚のためだ。フィアーナ以外の女性にはすまないと思うが、全員断る」
「重ね重ね申しわけございません……。そうとは知らずに昨日は勝手に帰ってしまい……」
「いや、フィアーナを誤解させた俺がいけなかった。夜中に危険な目にあわせてすまない」

 あろうことか、レオルド様が深く頭を下げてきた。
 この国では、目下の人間相手に頭を下げるなんて、威厳を損ねるため次期公爵という立場上あまり良くない行為だ。
 いくら周りに人がいないからってここまでさせたくない。

「顔をあげてください。私の独断で動いたことですから。それに、結果的にはデルム侯爵様のつながりが見つかりましたし……」
「あぁ。許せんな」
「そうですよね」
「俺自身が許せない……」
「へ……?」
「フィアーナを侯爵邸で危険な目に遭わせてしまったことが許せない。たとえ王都がより平和になったとしても、フィアーナになにか身を滅ぼしてしまうようなことがあっては意味がない。今後は俺がずっとそばで見守りたい!!」

 レオルド様が私に近づき、そのままギュッと抱きしめてきた。

「ふんぎゅ!?」
「無事で良かった……」
「…………?」

 今日のレオルド様は、今までとなにかが違う。
 今まではこんなに積極的ではなかった。
 私はむしろ嬉しすぎて、声すら出せずにドキドキが止まらなかった。

「フィアーナは一度危険な目に遭ったことがあるだろう? あの日から俺はキミを助けられる存在になりたいと思っていた」
「ででででも……、いろんな方と愛人を……」

 私はおもいきって、レオルド様に気がかりだったことを言ってしまった。
 私自身も同じ愛人という立場であったが、愛人関係はもう終わりにすると言っていたし、モヤモヤした感情も精算したいと思ってしまったのだ。
 だがレオルド様は、私が想定しなかったようなことを言いはじめたのである。

「愛人についてはすまないと思っている。言いわけがましいが、父上の命令だった」
「命令……?」
「このことはキミに話したら、絶対にフィアーナとの婚約だけは認めないと言われていた。だから、父上が帰ってきてから直接交渉する」
「えぇと、どういう意味でしょう……?」
「俺はずっとフィアーナのことだけを愛している。ゆえに愛人は大勢いたが誰一人として、手を出したことはない。信じてもらえないとは思うが」

 レオルド様は嘘をつくようなお方でない。
 なにか理由があって愛人がたくさんいたことまでなら知っている。
 そんなことよりも、私を愛してくれていたことが嬉しくて、たまらなくレオルド様の身体にぎゅっとしがみついた。

「私だって……、助けていただいたあの日からずっとレオルド様のことを……」
「すまなかったな。今回フィアーナが大きな手助けをしてくれたことで父上の考えも変わるはずだ。俺はもう一度、素直な気持ちを父上に告げたいと思っている」

 レオルド様の気持ちっていったいなんなのだろう。
 会話が終わっても、レオルド様は私を離そうとしなかった。
 いっそのこと、ずっとこのままギュってしてくださってくれたほうがいい。
 こんな大事なときなのに、私はレオルド様のことばかり考えてしまうのだった。
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