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20 演技が永遠と

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 馬車に乗って王宮へ向かっているのだが、ちょっと問題が起こっている。
 ジュエル殿下が私の手を握ったままなのだ……。

「あの……ジュエル殿下? 演技はそろそろ終わりにしてもいいのではないかと……」
「演技? あぁ、聖女としての力で脅しをかけてみたが、あれほどあっさりと白状するとは思わなかった。おそらくアイリスの聖なる力が凄まじいことを実感して喋らずにはいられなくなったのだろう」
「い、いえ。そうではなく……」

 なんなのだこの空気は。
 ジュエル殿下はその後もやたらと私の顔をじろじろと見つめてくる。
 これではまるで、ジュエル殿下が私に気があるように見えてしまうではないか。

 ジュエル殿下はかなりのイケメンだ。
 このままでは叶うはずもないような相手に惚れてしまう。
 そして撃沈する未来がきてまた心に深く傷が残ってしまうかもしてない。
 私は心を石にして何も考えないようにしてみた。

──かっこいいジュエル殿下
──私はイケメンに手を握られている
──告白してしまえ

「うがぁぁあああああっ!!」

 バカか私は!!
 頭の中を真っ白にしようとしてもジュエル殿下のことばかり考えてしまっている。
 パニックになって馬車の中で大声で叫んでしまった。

「どうした!? 何かあったか!? 至急馬車を止めよ!」
「あ……すみません、大丈夫です……」
「どうしたのだと聞いている!」

 原因はジュエル殿下ですなどと言えるはずもない。
 だが、ジュエル殿下は私の手を握ったままものすごい至近距離で心配そうな表情をしながら見つめてくるのだ。
 これで惚れない方が無理だ。

「え、えーと。発声練習です」
「そうか……だがそういう行為は馬車の中ではするでない。よいな?」
「は、はい。申し訳ありません」
「わかればよろしい。だが、アイリスは出逢った昨日と比べても別人のように見える」

 ニコリと笑いながら私の頭を撫でてきた。
 ジュエル殿下の仕草によって、私に恋しているのではないかという錯覚を与えてくる。
 最初は恐い人という印象だったが、今は色々な意味でジュエル殿下が恐ろしい。

「王宮で夢のような時間を過ごせて明るくなれました」
「それはよかった。これからももっと明るくさせると誓おう」
「はは、それはありがとうございます」

 本当にジュエル殿下の話術が上手い。
と、私は軽い気持ちで思っていた。



「おめでとうございます」
「おめでとうございます」
「おめでとうございます」
「おめでとうございます」
「おめでとうございます」

 王宮へ再び訪れた。
 私とジュエル殿下が歩いているだけで、周りにいる騎士や大臣らしきお方、さらには国王陛下やホルスタ殿下までもが揃いも揃って祝福をあげてくる。

「ホルスタ殿下の犯人を捕まえたことが、そこまで褒められることなのでしょうか……?」
「何を言っている?」
「へ?」
「私たちへの祝福だろう?」
「はい?」

 最後までジュエル殿下が何を言っているのやら、よくわからなかった。
 だが、国王陛下の発言で察することができた……。

「ジュエルよ、アイリスとの結婚式の計画だが……」
「はいーーーーー!?」

 私は頭の中がパニックになってしまった。
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