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8 慣れない会話でボロが出る
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「私が……聖女?」
「憶測に過ぎぬがな。実感がないようだが、何か心当たりはないのか?」
ジュエル殿下は私のことを聖女だと思い込んでいるようだ。
そう言われても思い当たる節などない。
「やはり私は聖女ではありませんよ……。雨が降ってほしいと願ったら降ったり、お腹すいたと思ったらキノコが生えたりしたくらいです。偶然に過ぎませんよ」
「雨はともかく、キノコは一瞬で生えたりはせんぞ……」
「そうなんですか!?」
「君は聖女のようだが……、やはり失礼ながら少々天然のようだな」
「ひぃっっ!! 申し訳ありません!! もしも気に触るようでしたらすぐにでもここから逃げます」
「別に逃げる必要もあるまい。私は嫌いではないが」
「へ!?」
今まで男との面識は、主に義父様と元婚約者のゴルギーネ様だけだった。
何か私に問題があればすぐに怒声となり、ときには暴力をふるわれていた。
だからこそ、ジュエル殿下が私のことが問題だと言った瞬間に逃げる構えが無意識に先行した。
だが、ジュエル殿下は怒るようなことはなかった。
私にとって、奇跡のようなできごとだ。
「何を驚いている? それよりも君に問う!」
ジュエル殿下の目が真剣そのものだった。
私はジュエル殿下から、今だけは怒られることはないと理解はできたので、しっかりと向き合う。
「は、はい。なんでしょうか?」
「先ほどから観察させてもらった。これも私の推測にすぎんが、もしかして家庭で何かトラブルに巻き込まれているのではないか?」
「え!? ええと、なぜそう思うのでしょうか?」
これはマズいことになった。
もしもジュエル殿下に義父様が私に対して暴力をふるったり奴隷のような扱いをされていたことがバレたら、私まで連帯責任で牢屋に入れられてしまうのではないだろうか。
義父様から「俺が捕まれば連帯責任でお前もフリンデルも処刑になるぞ」と脅されていた。
だから私は恐くて、誰にも悩みを相談することすらできなかったのだ。
「男爵の家に住んでいながら外で生のキノコを食べなければならないほど食に困っていたからだ。それに、その服だって何年も着込んでいるようなほどボロボロではないか……」
「え、えーと……。えーとですね……」
言葉が出てこない。
正直に伝えれば私の人生が詰む。
だからと言って誤魔化したくても、鋭そうなジュエル殿下に通用するのかがわからない。
むしろ嘘つき女として火炙りにされてしまうのではないかという更に厳しい罰になりそうで恐い。
「失礼なことを言ってすまないが、どうやら君は臆病で常に恐怖と戦っているような性格のようだ。だから念のために言っておく。もしも私の推測が正しかったとして、家族のものが何かあったとしても、君に落ち度はないので罰せられることはない」
「えっ!?」
「むろん、君自身に問題があった上で家族がしつけをしていたとすれば判断も変わってくる場合もある。だが、先ほどから見ている感じではしつけどころか教育もされていないように見えるが」
ジュエル殿下は鋭い。
今までずっとクリヴァイム家の生活を覗き見していたのではないかと思うほどだ。
「世間知らずで申し訳ありません……。外に出ることすらほとんどなかったので独学です」
「ほう……」
「あ、でででででも!! 義父様は何もしてませんから! 決して義父様が私のことを捨てるとかそんなことは──」
「なるほど、そういうことだったか」
「あ……」
私ってば本当に頭が悪い。
気がつかぬ間にうっかり情報を漏洩してしまったようだ。
「何度も言うが、君に極端な落ち度がなければ心配することもあるまい。早速調査をさせよう」
「え? 何の調査ですか?」
「むろん、男爵がどういったことをしていたかの調査だ。もしも君が望むのならば、しばらく王宮で身を隠していても構わぬ」
「わ……私が王宮で!?」
なんという待遇だろう。
今までの人生が完全に逆転して良い方向に向かってきたような気がする。
「そのかわり国のために少々実験に付き合ってもらいたいのだが」
「はい!! そのくらいでしたらいくらでも! 今までの仕打ちと比べれば人体実験でも何でもどうってことありませんから」
「……。そこまでひどい状況だったのか……」
「はっ!」
私は人と会話するとき、もう少し言葉を選べるようにしようと思う。
ジュエル殿下は悪い人ではなさそうだし、その人が実験と言っているくらいだから、命には関わらないと思う。
せいぜい私の血を死ぬギリギリまで回収して調べたり、キノコの生食いで平気な身体になるにはどうしたらいいのかと調べたりその程度だろう。
だが、私の予想とは全く違うことを言われてしまう。
「では、今から聖女と仮定し、再び雨を降らせるように願ってみてほしい」
「はい!?」
ジュエル殿下は、私のことをまだ聖女だと勘違いされているようだ。
「憶測に過ぎぬがな。実感がないようだが、何か心当たりはないのか?」
ジュエル殿下は私のことを聖女だと思い込んでいるようだ。
そう言われても思い当たる節などない。
「やはり私は聖女ではありませんよ……。雨が降ってほしいと願ったら降ったり、お腹すいたと思ったらキノコが生えたりしたくらいです。偶然に過ぎませんよ」
「雨はともかく、キノコは一瞬で生えたりはせんぞ……」
「そうなんですか!?」
「君は聖女のようだが……、やはり失礼ながら少々天然のようだな」
「ひぃっっ!! 申し訳ありません!! もしも気に触るようでしたらすぐにでもここから逃げます」
「別に逃げる必要もあるまい。私は嫌いではないが」
「へ!?」
今まで男との面識は、主に義父様と元婚約者のゴルギーネ様だけだった。
何か私に問題があればすぐに怒声となり、ときには暴力をふるわれていた。
だからこそ、ジュエル殿下が私のことが問題だと言った瞬間に逃げる構えが無意識に先行した。
だが、ジュエル殿下は怒るようなことはなかった。
私にとって、奇跡のようなできごとだ。
「何を驚いている? それよりも君に問う!」
ジュエル殿下の目が真剣そのものだった。
私はジュエル殿下から、今だけは怒られることはないと理解はできたので、しっかりと向き合う。
「は、はい。なんでしょうか?」
「先ほどから観察させてもらった。これも私の推測にすぎんが、もしかして家庭で何かトラブルに巻き込まれているのではないか?」
「え!? ええと、なぜそう思うのでしょうか?」
これはマズいことになった。
もしもジュエル殿下に義父様が私に対して暴力をふるったり奴隷のような扱いをされていたことがバレたら、私まで連帯責任で牢屋に入れられてしまうのではないだろうか。
義父様から「俺が捕まれば連帯責任でお前もフリンデルも処刑になるぞ」と脅されていた。
だから私は恐くて、誰にも悩みを相談することすらできなかったのだ。
「男爵の家に住んでいながら外で生のキノコを食べなければならないほど食に困っていたからだ。それに、その服だって何年も着込んでいるようなほどボロボロではないか……」
「え、えーと……。えーとですね……」
言葉が出てこない。
正直に伝えれば私の人生が詰む。
だからと言って誤魔化したくても、鋭そうなジュエル殿下に通用するのかがわからない。
むしろ嘘つき女として火炙りにされてしまうのではないかという更に厳しい罰になりそうで恐い。
「失礼なことを言ってすまないが、どうやら君は臆病で常に恐怖と戦っているような性格のようだ。だから念のために言っておく。もしも私の推測が正しかったとして、家族のものが何かあったとしても、君に落ち度はないので罰せられることはない」
「えっ!?」
「むろん、君自身に問題があった上で家族がしつけをしていたとすれば判断も変わってくる場合もある。だが、先ほどから見ている感じではしつけどころか教育もされていないように見えるが」
ジュエル殿下は鋭い。
今までずっとクリヴァイム家の生活を覗き見していたのではないかと思うほどだ。
「世間知らずで申し訳ありません……。外に出ることすらほとんどなかったので独学です」
「ほう……」
「あ、でででででも!! 義父様は何もしてませんから! 決して義父様が私のことを捨てるとかそんなことは──」
「なるほど、そういうことだったか」
「あ……」
私ってば本当に頭が悪い。
気がつかぬ間にうっかり情報を漏洩してしまったようだ。
「何度も言うが、君に極端な落ち度がなければ心配することもあるまい。早速調査をさせよう」
「え? 何の調査ですか?」
「むろん、男爵がどういったことをしていたかの調査だ。もしも君が望むのならば、しばらく王宮で身を隠していても構わぬ」
「わ……私が王宮で!?」
なんという待遇だろう。
今までの人生が完全に逆転して良い方向に向かってきたような気がする。
「そのかわり国のために少々実験に付き合ってもらいたいのだが」
「はい!! そのくらいでしたらいくらでも! 今までの仕打ちと比べれば人体実験でも何でもどうってことありませんから」
「……。そこまでひどい状況だったのか……」
「はっ!」
私は人と会話するとき、もう少し言葉を選べるようにしようと思う。
ジュエル殿下は悪い人ではなさそうだし、その人が実験と言っているくらいだから、命には関わらないと思う。
せいぜい私の血を死ぬギリギリまで回収して調べたり、キノコの生食いで平気な身体になるにはどうしたらいいのかと調べたりその程度だろう。
だが、私の予想とは全く違うことを言われてしまう。
「では、今から聖女と仮定し、再び雨を降らせるように願ってみてほしい」
「はい!?」
ジュエル殿下は、私のことをまだ聖女だと勘違いされているようだ。
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