上 下
7 / 28

7 料理の山

しおりを挟む
 しばらくすると使用人らしきお方が、大量の料理が乗っているワゴンを引きながら入ってきた。
 そしてテーブルの上に、次から次へとワゴンに乗った料理が置かれた。

「遠慮なく食べたまえ。むろん、これだけ全部食べることは不可能だろうから残してもかまわぬ」
「良いのですか!? お金も持っていませんが……」

 私は、念のために食べて良いのかどうか確認をした。

「好きなだけ食べてよい」
「ありがとうございます! いただきます!」

 私は貴族としての嗜み、そしてテーブルマナーも知らないので、とにかく勢いよく次から次へと口の中へ頬張っていく。
 食べることの喜び、空腹感が久々になくなるほどのご馳走、遠慮なくバクバクムシャムシャいただいた。

 そして、テーブルに用意された料理は、全て残さず食べ尽くした。
 私のお腹が破裂しそうなほど苦しいが、なんとか残さずに済んだ。

「ごちそうさまでした」
「フードファイターなのか君は……」

 ジュエル殿下が呆れたような表情をしている。

「いえ、残さず食べるというのが私の流儀ですから」
「ほう?」
「食べ物は貴重品です。料理をしてくれた方や食べ物を生産してくれた方にも、残さず食べた方が良いかと思っています」

 それから口には出さなかったが、残さずに食べたいとこだわる一番の理由として、今までの生活環境が原因である。
 ろくに食事を摂れなかった日々だったので、食べ物へのありがたみは痛いくらいにわかっているつもりだ。
 食べられるときに食べておく必要があったのだ。

「ふむ、どうやら私の方が君に教えてもらったような気もする。今後心得ておこう」
「はい?」
「ところで、久しぶりの雨を降らせた根元はやはり君か?」
「はいっ!?」

 ジュエル殿下が意味不明なことを言いはじめる。
 何を言っているのか全く理解できないので、私はジュエル殿下に向かって変な声で返事をしてしまった。

「君は聖女なのだろう?」
「聖女? 私がですか!?」
「違うのか?」
「ちがいます」

 聖女になる条件として、死の直前からの生還と運だと聞いている。
 私は昔、突然の火事によって死にそうになったことがある。
 そのときに私の大好きだった家族は皆死んでしまった……。

 私の記憶が曖昧なのだが、炎の中でなぜか生き延び、死の直前からの生還という条件はクリアしている。
 だが、試しに聖なる力がなんなのか、どうやったら聖女なのか調べたり実験してみたが何も起きなかった。
 つまり、私は聖女ではない。
 そのことを詳しくジュエル殿下にも説明した。

「あの突然の雨は明らかに自然の力ではなかったと思うが。君がアイリスだと知ってからは、死の淵から生還したアイリス君が聖女として力を解放したのかと思っていた」
「それで助けてくださったのですね。ご期待に添えず申し訳ありません」
「勘違いするな!」
「ひっ……も、申し訳ありません!」

 またしても恐怖を感じてしまう。
 ジュエル殿下の口調はやや荒いところはあるが、実際に喋ってみた感じだと、想像していたよりもずっと優しい。
 だが、私の長年の恐怖心へのトラウマが、些細なことでも敏感に反応してしまうのだ。

「君が聖女でなくとも王宮へは招待しただろう。あくまで道端でキノコを生で食べるような者を野放しにしてはなるまいと思ったまでだ」
「そうでしたか……。お心遣い感謝いたします」
「ところで、先ほど聖女としての力について語ってくれていたが、君の発言には一つ間違いがある」
「え?」

 生還した少しあとに調べたことだから、私がまだ十歳くらいの情報だ。
 誤りがあったとしても不思議ではないが、ジュエル殿下は何を根拠にそんなことを言うのだろうか。

「聖女になれる条件で、君は死に際からの生還と運と言っていたが、正確には『死に際からの生還してからうん年後に力が発動する』だったはずだが」
「そうなんですか!?」
「君が調べたのは『市販されている聖女の豆知識』という本ではないか?」
「そうですが……」

 あの本は、義父様がもしかしたら私が聖女かもしれないと期待して買ってきてくれた本である。
 義父様から無理やり読むように命じられ、私はほぼ全てを読み尽くした。
 だが、肝心の義父様は読書嫌いらしく全く読まなかった。

「あれは聖女になれる条件にカッコして暫定と記載されているページの最後に『うん』と記載され、次のページに『年後』と書かれている。重要な部分でページめくりだったはずだ。まだ小さかった頃に読んだのなら間違えても不思議ではないだろう」
「知りませんでした。……って、もしかして私……!?」
「聖女かもしれんな」
「ぐうぇっぷ……!」

 ジュエル殿下の情報が正しいとしたら……。
 私が聖女!?
 いやいやいや、故意ではないが、食べ過ぎが原因で人前でゲップをしてしまうような女が聖女なわけがないだろう……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

聖女は支配する!あら?どうして他の聖女の皆さんは気付かないのでしょうか?早く目を覚ましなさい!我々こそが支配者だと言う事に。

naturalsoft
恋愛
この短編は3部構成となっております。1話完結型です。 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★ オラクル聖王国の筆頭聖女であるシオンは疑問に思っていた。 癒やしを求めている民を後回しにして、たいした怪我や病気でもない貴族のみ癒やす仕事に。 そして、身体に負担が掛かる王国全体を覆う結界の維持に、当然だと言われて御礼すら言われない日々に。 「フフフッ、ある時気付いただけですわ♪」 ある時、白い紙にインクが滲むかの様に、黒く染まっていく聖女がそこにはいた。

【完結】公爵家のメイドたる者、炊事、洗濯、剣に魔法に結界術も完璧でなくてどうします?〜聖女様、あなたに追放されたおかげで私は幸せになれました

冬月光輝
恋愛
ボルメルン王国の聖女、クラリス・マーティラスは王家の血を引く大貴族の令嬢であり、才能と美貌を兼ね備えた完璧な聖女だと国民から絶大な支持を受けていた。 代々聖女の家系であるマーティラス家に仕えているネルシュタイン家に生まれたエミリアは、大聖女お付きのメイドに相応しい人間になるために英才教育を施されており、クラリスの側近になる。 クラリスは能力はあるが、傍若無人の上にサボり癖のあり、すぐに癇癪を起こす手の付けられない性格だった。 それでも、エミリアは家を守るために懸命に彼女に尽くし努力する。クラリスがサボった時のフォローとして聖女しか使えないはずの結界術を独学でマスターするほどに。 そんな扱いを受けていたエミリアは偶然、落馬して大怪我を負っていたこの国の第四王子であるニックを助けたことがきっかけで、彼と婚約することとなる。 幸せを掴んだ彼女だが、理不尽の化身であるクラリスは身勝手な理由でエミリアをクビにした。 さらに彼女はクラリスによって第四王子を助けたのは自作自演だとあらぬ罪をでっち上げられ、家を潰されるかそれを飲み込むかの二択を迫られ、冤罪を被り国家追放に処される。 絶望して隣国に流れた彼女はまだ気付いていなかった、いつの間にかクラリスを遥かに超えるほどハイスペックになっていた自分に。 そして、彼女こそ国を守る要になっていたことに……。 エミリアが隣国で力を認められ巫女になった頃、ボルメルン王国はわがまま放題しているクラリスに反発する動きが見られるようになっていた――。

大好きな第一王子様、私の正体を知りたいですか? 本当に知りたいんですか?

サイコちゃん
恋愛
第一王子クライドは聖女アレクサンドラに婚約破棄を言い渡す。すると彼女はお腹にあなたの子がいると訴えた。しかしクライドは彼女と寝た覚えはない。狂言だと断じて、妹のカサンドラとの婚約を告げた。ショックを受けたアレクサンドラは消えてしまい、そのまま行方知れずとなる。その頃、クライドは我が儘なカサンドラを重たく感じていた。やがて新しい聖女レイラと恋に落ちた彼はカサンドラと別れることにする。その時、カサンドラが言った。「私……あなたに隠していたことがあるの……! 実は私の正体は……――」

石塔に幽閉って、私、石の聖女ですけど

ハツカ
恋愛
私はある日、王子から役立たずだからと、石塔に閉じ込められた。 でも私は石の聖女。 石でできた塔に閉じ込められても何も困らない。 幼馴染の従者も一緒だし。

婚約破棄されたから、執事と家出いたします

編端みどり
恋愛
拝啓 お父様 王子との婚約が破棄されました。わたくしは執事と共に家出いたします。 悪女と呼ばれた令嬢は、親、婚約者、友人に捨てられた。 彼女の危機を察した執事は、令嬢に気持ちを伝え、2人は幸せになる為に家を出る決意をする。 準備万端で家出した2人はどこへ行くのか?! 残された身勝手な者達はどうなるのか! ※時間軸が過去に戻ったり現在に飛んだりします。 ※☆の付いた話は、残酷な描写あり

【完結】捨てられた聖女は王子の愛鳥を無自覚な聖なる力で助けました〜ごはんを貰ったら聖なる力が覚醒。私を捨てた方は聖女の仕組みを知らないようで

よどら文鳥
恋愛
 ルリナは物心からついたころから公爵邸の庭、主にゴミ捨て場で生活させられていた。  ルリナを産んだと同時に公爵夫人は息絶えてしまったため、公爵は別の女と再婚した。  再婚相手との間に産まれたシャインを公爵令嬢の長女にしたかったがため、公爵はルリナのことが邪魔で追放させたかったのだ。  そのために姑息な手段を使ってルリナをハメていた。  だが、ルリナには聖女としての力が眠っている可能性があった。  その可能性のためにかろうじて生かしていたが、十四歳になっても聖女の力を確認できず。  ついに公爵家から追放させる最終段階に入った。  それは交流会でルリナが大恥をかいて貴族界からもルリナは貴族として人としてダメ人間だと思わせること。  公爵の思惑通りに進んだかのように見えたが、ルリナは交流会の途中で庭にある森の中へ逃げてから自体が変わる。  気絶していた白文鳥を発見。  ルリナが白文鳥を心配していたところにニルワーム第三王子がやってきて……。

聖水を作り続ける聖女 〜 婚約破棄しておきながら、今さら欲しいと言われても困ります!〜

手嶋ゆき
恋愛
 「ユリエ!! お前との婚約は破棄だ! 今すぐこの国から出て行け!」  バッド王太子殿下に突然婚約破棄されたユリエ。  さらにユリエの妹が、追い打ちをかける。  窮地に立たされるユリエだったが、彼女を救おうと抱きかかえる者がいた——。 ※一万文字以内の短編です。 ※小説家になろう様など他サイトにも投稿しています。

処理中です...