6 / 28
6 処刑されるのかもしれないと思っていた
しおりを挟む
ジュエル殿下は父様のようにムキムキマッチョというわけではないんだが、体育会系のボス的位置の人間を五十倍くらいの威厳ある存在にしたような感じだ。
うまく言葉にできないが、とにかく恐い。
「いや、すまぬ。別に脅すつもりはない。ただ、まさかあの男爵の娘だとは……。──!? まさか君はアイリス=ローゼンか!?」
「はい、殿下ともあろうお方が名前を知っていてくださるとは光栄です」
「むろん知っているとも。伯爵にさせる予定だったローゼンの家は火に包まれてしまったが、奇跡的に助かった少女がいて、父上は親戚の者に引き取らせるよう命じていたと聞いていた。だが、それっきり舞踏会や貴族の集まるところに一切出てこないからどうしたものだと王族の間では気になっていて、近々男爵に問うところだったのだ」
参加したくても、義父様がかたくなに拒否して家から外出すらさせてくれなかったのだ。
故に、私は世間知らずで貴族としての嗜みがまるでできていない。
その点は、ゴルギーネ様からも叱責を受けるほどだった。
おっかない噂のジュエル第二王子の顔だけは、以前偶然目撃したことがあって知っているわけだが……。
「疑わないのですか?」
「すまないが現状では半々だ。正直なところそのような格好で雨ではしゃぐような者が、本当にアイリス=ローゼンかどうかはわからぬ。だが、クリヴァイム男爵のとある噂を考慮すれば、本当に君がアイリス=ローゼンだという可能性もある」
「噂?」
「今は知らなくともいい。忘れてくれたまえ」
「で……でも」
「忘れるのだ!」
「は……はいっ!!」
私に安堵の場というものはないのだろう。
きっと王宮へ連れていかれ、すぐに尋問が始まって、妹が偽聖女だとわかった途端に私も連帯責任で牢獄へ……。
そして火炙りにでもされて処刑されてしまうんだわ……。
さようなら私の人生……。
と、思っていたのは馬車の中だけだった。
ジュエル殿下の後に続き、私は客室へと案内された。
「あ……あの? 地下牢へ投獄するのでは?」
「あぁ? 何を言っているのだ君は。そんなことするわけないだろう」
「露出とキノコ生食いの刑で罰せられるのかと……」
わたしはキョトンとしてしまって口が空いてしまう。
それを見ていたジュエル殿下は、クスクスと笑いはじめた。
「君は面白い。露出はいささか問題だったが、キノコを生で食べてしまうほど空腹だったのだろう? しばし待たれよ。すでに食事の準備は命じたから、まもなくここに用意される」
「え!? 良いのですか!?」
「なにを驚いている? そもそも、君は少々オドオドとしすぎなのでは?」
「すみません……。恐がる癖がありまして……」
「ふむ、ひとまずくつろいでくれて構わないから心を休めたまえ」
無茶を言わないでいただきたい。
私程度の人間がいきなり王宮へ連れてこられて、第二王子と会話をしている状況だ。
これで落ち着くことなどできるわけがない。
だが、クリヴァイム家にいるときよりははるかにマシだった。
うまく言葉にできないが、とにかく恐い。
「いや、すまぬ。別に脅すつもりはない。ただ、まさかあの男爵の娘だとは……。──!? まさか君はアイリス=ローゼンか!?」
「はい、殿下ともあろうお方が名前を知っていてくださるとは光栄です」
「むろん知っているとも。伯爵にさせる予定だったローゼンの家は火に包まれてしまったが、奇跡的に助かった少女がいて、父上は親戚の者に引き取らせるよう命じていたと聞いていた。だが、それっきり舞踏会や貴族の集まるところに一切出てこないからどうしたものだと王族の間では気になっていて、近々男爵に問うところだったのだ」
参加したくても、義父様がかたくなに拒否して家から外出すらさせてくれなかったのだ。
故に、私は世間知らずで貴族としての嗜みがまるでできていない。
その点は、ゴルギーネ様からも叱責を受けるほどだった。
おっかない噂のジュエル第二王子の顔だけは、以前偶然目撃したことがあって知っているわけだが……。
「疑わないのですか?」
「すまないが現状では半々だ。正直なところそのような格好で雨ではしゃぐような者が、本当にアイリス=ローゼンかどうかはわからぬ。だが、クリヴァイム男爵のとある噂を考慮すれば、本当に君がアイリス=ローゼンだという可能性もある」
「噂?」
「今は知らなくともいい。忘れてくれたまえ」
「で……でも」
「忘れるのだ!」
「は……はいっ!!」
私に安堵の場というものはないのだろう。
きっと王宮へ連れていかれ、すぐに尋問が始まって、妹が偽聖女だとわかった途端に私も連帯責任で牢獄へ……。
そして火炙りにでもされて処刑されてしまうんだわ……。
さようなら私の人生……。
と、思っていたのは馬車の中だけだった。
ジュエル殿下の後に続き、私は客室へと案内された。
「あ……あの? 地下牢へ投獄するのでは?」
「あぁ? 何を言っているのだ君は。そんなことするわけないだろう」
「露出とキノコ生食いの刑で罰せられるのかと……」
わたしはキョトンとしてしまって口が空いてしまう。
それを見ていたジュエル殿下は、クスクスと笑いはじめた。
「君は面白い。露出はいささか問題だったが、キノコを生で食べてしまうほど空腹だったのだろう? しばし待たれよ。すでに食事の準備は命じたから、まもなくここに用意される」
「え!? 良いのですか!?」
「なにを驚いている? そもそも、君は少々オドオドとしすぎなのでは?」
「すみません……。恐がる癖がありまして……」
「ふむ、ひとまずくつろいでくれて構わないから心を休めたまえ」
無茶を言わないでいただきたい。
私程度の人間がいきなり王宮へ連れてこられて、第二王子と会話をしている状況だ。
これで落ち着くことなどできるわけがない。
だが、クリヴァイム家にいるときよりははるかにマシだった。
23
お気に入りに追加
1,603
あなたにおすすめの小説
【完結】公爵家のメイドたる者、炊事、洗濯、剣に魔法に結界術も完璧でなくてどうします?〜聖女様、あなたに追放されたおかげで私は幸せになれました
冬月光輝
恋愛
ボルメルン王国の聖女、クラリス・マーティラスは王家の血を引く大貴族の令嬢であり、才能と美貌を兼ね備えた完璧な聖女だと国民から絶大な支持を受けていた。
代々聖女の家系であるマーティラス家に仕えているネルシュタイン家に生まれたエミリアは、大聖女お付きのメイドに相応しい人間になるために英才教育を施されており、クラリスの側近になる。
クラリスは能力はあるが、傍若無人の上にサボり癖のあり、すぐに癇癪を起こす手の付けられない性格だった。
それでも、エミリアは家を守るために懸命に彼女に尽くし努力する。クラリスがサボった時のフォローとして聖女しか使えないはずの結界術を独学でマスターするほどに。
そんな扱いを受けていたエミリアは偶然、落馬して大怪我を負っていたこの国の第四王子であるニックを助けたことがきっかけで、彼と婚約することとなる。
幸せを掴んだ彼女だが、理不尽の化身であるクラリスは身勝手な理由でエミリアをクビにした。
さらに彼女はクラリスによって第四王子を助けたのは自作自演だとあらぬ罪をでっち上げられ、家を潰されるかそれを飲み込むかの二択を迫られ、冤罪を被り国家追放に処される。
絶望して隣国に流れた彼女はまだ気付いていなかった、いつの間にかクラリスを遥かに超えるほどハイスペックになっていた自分に。
そして、彼女こそ国を守る要になっていたことに……。
エミリアが隣国で力を認められ巫女になった頃、ボルメルン王国はわがまま放題しているクラリスに反発する動きが見られるようになっていた――。
冤罪を受けたため、隣国へ亡命します
しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」
呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。
「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」
突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。
友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。
冤罪を晴らすため、奮闘していく。
同名主人公にて様々な話を書いています。
立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。
サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。
変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。
ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます!
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。
【完結】慰謝料は国家予算の半分!?真実の愛に目覚めたという殿下と婚約破棄しました〜国が危ないので返して欲しい?全額使ったので、今更遅いです
冬月光輝
恋愛
生まれつき高い魔力を持って生まれたアルゼオン侯爵家の令嬢アレインは、厳しい教育を受けてエデルタ皇国の聖女になり皇太子の婚約者となる。
しかし、皇太子は絶世の美女と名高い後輩聖女のエミールに夢中になりアレインに婚約破棄を求めた。
アレインは断固拒否するも、皇太子は「真実の愛に目覚めた。エミールが居れば何もいらない」と口にして、その証拠に国家予算の半分を慰謝料として渡すと宣言する。
後輩聖女のエミールは「気まずくなるからアレインと同じ仕事はしたくない」と皇太子に懇願したらしく、聖女を辞める退職金も含めているのだそうだ。
婚約破棄を承諾したアレインは大量の金塊や現金を規格外の収納魔法で一度に受け取った。
そして、実家に帰ってきた彼女は王族との縁談を金と引き換えに破棄したことを父親に責められて勘当されてしまう。
仕事を失って、実家を追放された彼女は国外に出ることを余儀なくされた彼女は法外な財力で借金に苦しむ獣人族の土地を買い上げて、スローライフをスタートさせた。
エデルタ皇国はいきなり国庫の蓄えが激減し、近年魔物が増えているにも関わらず強力な聖女も居なくなり、急速に衰退していく。
前世の記憶を持つ守護聖女は婚約破棄されました。
さざれ石みだれ
恋愛
「カテリーナ。お前との婚約を破棄する!」
王子殿下に婚約破棄を突きつけられたのは、伯爵家次女、薄幸のカテリーナ。
前世で伝説の聖女であった彼女は、王都に対する闇の軍団の攻撃を防いでいた。
侵入しようとする悪霊は、聖女の力によって浄化されているのだ。
王国にとってなくてはならない存在のカテリーナであったが、とある理由で正体を明かすことができない。
政略的に決められた結婚にも納得し、静かに守護の祈りを捧げる日々を送っていたのだ。
ところが、王子殿下は婚約破棄したその場で巷で聖女と噂される女性、シャイナを侍らせ婚約を宣言する。
カテリーナは婚約者にふさわしくなく、本物の聖女であるシャイナが正に王家の正室として適格だと口にしたのだ。
石塔に幽閉って、私、石の聖女ですけど
ハツカ
恋愛
私はある日、王子から役立たずだからと、石塔に閉じ込められた。
でも私は石の聖女。
石でできた塔に閉じ込められても何も困らない。
幼馴染の従者も一緒だし。
王子様と乳しぼり!!婚約破棄された転生姫君は隣国の王太子と酪農業を興して国の再建に努めます
黄札
恋愛
とある王国の王女として転生したソフィアは赤毛で生まれてしまったために、第一王女でありながら差別を受ける毎日。転生前は仕事仕事の干物女だったが、そちらのほうがマシだった。あげくの果てに従兄弟の公爵令息との婚約も破棄され、どん底に落とされる。婚約者は妹、第二王女と結婚し、ソフィアは敵国へ人質のような形で嫁がされることに……
だが、意外にも結婚相手である敵国の王弟はハイスペックイケメン。夫に溺愛されるソフィアは、前世の畜産の知識を生かし酪農業を興す。ケツ顎騎士団長、不良農民、社交の達人レディステラなど新しい仲間も増え、奮闘する毎日が始まった。悪役宰相からの妨害にも負けず、荒れ地を緑豊かな牧場へと変える!
この作品は小説家になろう、ツギクルにも掲載しています。
死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります
みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」
私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。
聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?
私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。
だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。
こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。
私は誰にも愛されていないのだから。
なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。
灰色の魔女の死という、極上の舞台をー
「次点の聖女」
手嶋ゆき
恋愛
何でもかんでも中途半端。万年二番手。どんなに努力しても一位には決してなれない存在。
私は「次点の聖女」と呼ばれていた。
約一万文字強で完結します。
小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる