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6 処刑されるのかもしれないと思っていた

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 ジュエル殿下は父様のようにムキムキマッチョというわけではないんだが、体育会系のボス的位置の人間を五十倍くらいの威厳ある存在にしたような感じだ。
 うまく言葉にできないが、とにかく恐い。

「いや、すまぬ。別に脅すつもりはない。ただ、まさかあの男爵の娘だとは……。──!? まさか君はアイリス=ローゼンか!?」
「はい、殿下ともあろうお方が名前を知っていてくださるとは光栄です」

「むろん知っているとも。伯爵にさせる予定だったローゼンの家は火に包まれてしまったが、奇跡的に助かった少女がいて、父上は親戚の者に引き取らせるよう命じていたと聞いていた。だが、それっきり舞踏会や貴族の集まるところに一切出てこないからどうしたものだと王族の間では気になっていて、近々男爵に問うところだったのだ」

 参加したくても、義父様がかたくなに拒否して家から外出すらさせてくれなかったのだ。
 故に、私は世間知らずで貴族としての嗜みがまるでできていない。
 その点は、ゴルギーネ様からも叱責を受けるほどだった。
 おっかない噂のジュエル第二王子の顔だけは、以前偶然目撃したことがあって知っているわけだが……。

「疑わないのですか?」
「すまないが現状では半々だ。正直なところそのような格好で雨ではしゃぐような者が、本当にアイリス=ローゼンかどうかはわからぬ。だが、クリヴァイム男爵のとある噂を考慮すれば、本当に君がアイリス=ローゼンだという可能性もある」
「噂?」
「今は知らなくともいい。忘れてくれたまえ」
「で……でも」
「忘れるのだ!」
「は……はいっ!!」

 私に安堵の場というものはないのだろう。
 きっと王宮へ連れていかれ、すぐに尋問が始まって、妹が偽聖女だとわかった途端に私も連帯責任で牢獄へ……。
 そして火炙りにでもされて処刑されてしまうんだわ……。

 さようなら私の人生……。
 と、思っていたのは馬車の中だけだった。

 ジュエル殿下の後に続き、私は客室へと案内された。

「あ……あの? 地下牢へ投獄するのでは?」
「あぁ? 何を言っているのだ君は。そんなことするわけないだろう」
「露出とキノコ生食いの刑で罰せられるのかと……」

 わたしはキョトンとしてしまって口が空いてしまう。
 それを見ていたジュエル殿下は、クスクスと笑いはじめた。

「君は面白い。露出はいささか問題だったが、キノコを生で食べてしまうほど空腹だったのだろう? しばし待たれよ。すでに食事の準備は命じたから、まもなくここに用意される」
「え!? 良いのですか!?」

「なにを驚いている? そもそも、君は少々オドオドとしすぎなのでは?」
「すみません……。恐がる癖がありまして……」
「ふむ、ひとまずくつろいでくれて構わないから心を休めたまえ」

 無茶を言わないでいただきたい。
 私程度の人間がいきなり王宮へ連れてこられて、第二王子と会話をしている状況だ。
 これで落ち着くことなどできるわけがない。
 だが、クリヴァイム家にいるときよりははるかにマシだった。
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