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5 恐ろしいジュエル第二王子

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「え!? なななな……なぜ貴方様がここに……!?」
「質問をしているのは私の方だよ。雨が降ってはしゃぎたい気持ちもわからぬではないが、今食べていたのはなんだ?」
「え……えーと、キノコです。そこに生えていたので……」
「おろかものめ!!」
「ひぃーーーー!!」

 私は勢いよく土下座の体制をとる。
 そもそも、私が倒れそうになった時点で人目につかなさそうな場所を選んでいた。
 だからこそ、見つかりにくいようなところでムシャムシャ食べていたというのに。
 よりにもよって……。

「事情は後で聞こう。ともかく乗りたまえ!」
「はい!? ま……まさか私のような者が王族の使用する馬車に乗せていただくことなど……」
「乗るのだ! これは私ジュエル=イグニエル第二王子からの命令であるぞ!」
「ひぃぃぃっ! 承知いたしましたっ!!」

 きっと、このまま王宮の地下牢へ放り込まれて、いよいよ私の人生も終わるのだな。
 服もずぶ濡れで肌はスケスケ状態。
 服装も心も乱れている私が、こんな素晴らしい馬車に乗るなど二度とないだろう。
 冥土の土産で自慢できそうだ。
 半泣き状態で馬車に乗り、ジュエル殿下も続いて乗られると、馬車はゆっくりと走り出した。

「まずは……これを」
「え……!?」
「その格好では色々と問題がある。今はこれしか持っていないが、覆うくらいならできるだろう」

 私が受け取ったのは、長めのタオルだった。
 どうやら私の半裸体状態を気にしてくださっていたらしい。

「ありがとうございます。恩にきます」
「恩よりも、まともな服を着たまえ!」
「ひぃぃぃいい!! 申し訳ありませんっ!!」

 どうしてこんなことになってしまったのだろう。
 目の前にいるジュエル第二王子といえば、外見は整っていてカッコいいのだが、物凄く恐いイメージがある。
 特に風の噂では、ある舞踏会のとき、何かが原因でジュエル王子の堪忍袋が切れて舞踏会が乱闘騒ぎの武道会もどきに発展してしまったとか……。

 臆病な私にとって、最も接触してはならない人物なのだ。
 でも、よくよくお顔を拝見させていただくと、……うん、やっぱりイケメンでも恐い!

「ところで話を戻そうか。君は何故あのような場所でそんな格好になってまで水浴びを?」
「いえ……それは……」

 ジュエル殿下のことが恐すぎてすぐに言葉が出てこない。
 そんな気持ちなどお構いなしで、続けて尋ねてきた。

「言えぬか? まあ良い。二つ目の問いには答えてもらおうか。まさか拾ったキノコをそのまま焼きもせず食べたのか?」
「は、はい……。あまりにも空腹だったもので……つい」

 私は顔を落として申し訳ないフリをした。
 それこそが殿下に対して申し訳ないことくらいはわかっている。
 だが、ここで私が堂々と、「はいっ美味しそうなので生食いですっ」などと言えば、絶対に怒られただろう。
 ただでさえ婚約破棄騒動でメンタルにかなりのダメージを受けている状態なので、これ以上怒られたりしたらさすがにやばい。
 ここは演技をしてでも乗り越える必要があった。

「君のいた場所は貴族街だ。まさか君は貴族以外の人間で、無断で侵入したと?」
「い、いえ。一応義父様は男爵ですが……。クリヴァイム男爵です」
「なにっ!?」
「ひぃぃぃいいいいっ!!」

 ジュエル殿下が反応する声量と表情が本気で恐い。
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