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実家暮らしに戻ってから平和で幸せな日々が続いていたある日、私の元へとんでもない話が持ち込まれた。
「ジュリアよ、実はフォラグラ第一王子殿下から縁談の話をされたのだが……」
「そうですか……」
次期国王陛下になられるお方からの縁談の申し込みなど、普通に考えたらとんでもないことだ。
しかし、私にとっては良い話ではなかった。
「先に言っておく。話があったというだけだ。決めるのはジュリアの意思で構わない」
「しかし……それではお父様の立場が……」
「そりゃジュリアがこの話を受け入れたら王女となるかもしれないし、二度とこのような機会はないだろうな」
「だったら……」
「ジュリアよ、俺もそうだが、地位や名誉のために自分の気持ちを偽るのはダメだと学習したばかりではないか。今、大事に思っている人がいるのなら尚更だ」
あまりにも優しい気遣いに涙が出そうになった。
自分の気持ちに素直に向き合ったら、答えは一つしかない。
「決まったようだな」
「えぇ。折角のチャンスをごめんなさい」
「良いのだ。では溜まっている縁談の話は全て断るということで良いな?」
「他にも話があるのですか!?」
「伯爵家の御子息に、公爵からも来ていたか。他にも上級民族からの申し出が殺到している。それから……」
「なんで今になってそのような話が!?」
「ジュリアの仕事っぷりはすでに俺なんかより遥かに高い実力を持っているからだろうな。はっきり言って、今のジュリアが王族になって国務を行えば国が変わるほど高いスキルを持っていると思う」
「私はマイペースにやりたいですね……」
「だから断るのだ。一般民衆なのだから、幸せが一番だ」
仕事のこともあるが、今は縁談をする気は全くない。
異性として意識し、ずっと一緒にいたいと思っている相手はアルト様ただ一人なのだから。
♢
「そうか、殿下から縁談があったのに断ったのか」
「エイプリル家としてはこれ以上ない話だったはずなんだけど、お父様の優しさに甘えてしまったわ……」
昼下がりのエイプリル家の庭でアルト様と二人でのんびりとティータイムを楽しんでいた。
私は縁談があったことをアルト様に伝えることにしたのだ。
「もし殿下の元に行ってしまったとしても俺の気持ちは変わらないし、一生ジュリの幸せを願うよ」
「どうしてそこまで……?」
「理由? そんなの決まっているだろ。ジュリのことをそれだけ愛しているからだ。それ以外に理由なんてあるものか」
胸の鼓動が激しく鳴っている。アルト様の真剣な言葉で私は倒れてしまいそうだ。
それは絶対ダメだ。今日は私からアルト様にあの時言われた返事をすると決めているのだから。
「アルト様……私……」
私が伝える前に、アルト様は私の左手を優しく掴み、膝を立てて座った。
「ジュリア=エイプリル。俺と結婚してほしい」
そっと出されたのは指輪。しかも、これは私が幼い頃にアルト様に渡したことがあるオモチャの指輪だ。
──アルトおにいさま、いつか私とけっこんしてね。けっこん指輪だよー。
まさか今もあのとき渡したオモチャの指輪を持っていたなんて思わなかった。
私は嬉しすぎて涙を流した。
「ジュリから結婚ごっこをしていた時に君からもらった指輪だ。これとは別に正式な指輪も用意している。だが、これは俺の何よりも大事な宝物なんだ」
「ありがとうアルト様……」
オモチャの指輪は薬指に入らなかったが、それでも昔の思い出を大事にしていてくれた気持ちがとても嬉しい。
そのままアルト様に抱きついて、そのまま暫く動くことはなかった。
「ジュリアよ、実はフォラグラ第一王子殿下から縁談の話をされたのだが……」
「そうですか……」
次期国王陛下になられるお方からの縁談の申し込みなど、普通に考えたらとんでもないことだ。
しかし、私にとっては良い話ではなかった。
「先に言っておく。話があったというだけだ。決めるのはジュリアの意思で構わない」
「しかし……それではお父様の立場が……」
「そりゃジュリアがこの話を受け入れたら王女となるかもしれないし、二度とこのような機会はないだろうな」
「だったら……」
「ジュリアよ、俺もそうだが、地位や名誉のために自分の気持ちを偽るのはダメだと学習したばかりではないか。今、大事に思っている人がいるのなら尚更だ」
あまりにも優しい気遣いに涙が出そうになった。
自分の気持ちに素直に向き合ったら、答えは一つしかない。
「決まったようだな」
「えぇ。折角のチャンスをごめんなさい」
「良いのだ。では溜まっている縁談の話は全て断るということで良いな?」
「他にも話があるのですか!?」
「伯爵家の御子息に、公爵からも来ていたか。他にも上級民族からの申し出が殺到している。それから……」
「なんで今になってそのような話が!?」
「ジュリアの仕事っぷりはすでに俺なんかより遥かに高い実力を持っているからだろうな。はっきり言って、今のジュリアが王族になって国務を行えば国が変わるほど高いスキルを持っていると思う」
「私はマイペースにやりたいですね……」
「だから断るのだ。一般民衆なのだから、幸せが一番だ」
仕事のこともあるが、今は縁談をする気は全くない。
異性として意識し、ずっと一緒にいたいと思っている相手はアルト様ただ一人なのだから。
♢
「そうか、殿下から縁談があったのに断ったのか」
「エイプリル家としてはこれ以上ない話だったはずなんだけど、お父様の優しさに甘えてしまったわ……」
昼下がりのエイプリル家の庭でアルト様と二人でのんびりとティータイムを楽しんでいた。
私は縁談があったことをアルト様に伝えることにしたのだ。
「もし殿下の元に行ってしまったとしても俺の気持ちは変わらないし、一生ジュリの幸せを願うよ」
「どうしてそこまで……?」
「理由? そんなの決まっているだろ。ジュリのことをそれだけ愛しているからだ。それ以外に理由なんてあるものか」
胸の鼓動が激しく鳴っている。アルト様の真剣な言葉で私は倒れてしまいそうだ。
それは絶対ダメだ。今日は私からアルト様にあの時言われた返事をすると決めているのだから。
「アルト様……私……」
私が伝える前に、アルト様は私の左手を優しく掴み、膝を立てて座った。
「ジュリア=エイプリル。俺と結婚してほしい」
そっと出されたのは指輪。しかも、これは私が幼い頃にアルト様に渡したことがあるオモチャの指輪だ。
──アルトおにいさま、いつか私とけっこんしてね。けっこん指輪だよー。
まさか今もあのとき渡したオモチャの指輪を持っていたなんて思わなかった。
私は嬉しすぎて涙を流した。
「ジュリから結婚ごっこをしていた時に君からもらった指輪だ。これとは別に正式な指輪も用意している。だが、これは俺の何よりも大事な宝物なんだ」
「ありがとうアルト様……」
オモチャの指輪は薬指に入らなかったが、それでも昔の思い出を大事にしていてくれた気持ちがとても嬉しい。
そのままアルト様に抱きついて、そのまま暫く動くことはなかった。
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