上 下
17 / 19

17

しおりを挟む
 すっかり容態も回復して元気になったアルト義兄様。

「ジュリ、クレープでも食べに行かないか? 今なら食べ放題キャンペーンをやってるらしいぞ」
「アルト様、私を太らせたいのですか!?」
「何を言っているのだ。ジュリは昔から屋敷内で一番の食欲だっただろう?」
「これでも少しは身体のことも気にするようになったのですよ!?」

 アルト様のことを意識してからは自分自身の体型も気にするようになったのだ。

「五人前食べていた量を四人前に減らしたところで変わらないだろ! で、行くのか? 行かないのか?」
「……行きますわ」

 クレープを食べるというよりも、アルト様の誘いを断りたくなかった。
 にっこりと笑い、私の手を握ってくれる。
 これだけで心臓の鼓動がどんどん速くなっていき、おかしくなってしまいそうだ。

 一緒に住んでいるエイプリル家から仲良く出かける日が来るなんて夢のようだ。


「んーーまーー!」
 浮かれていた私は案の定、直ぐに本性が出てしまい次から次へと出されるクレープに夢中になった。

「よし、ジュリらしくなった!」
「え!? アルト様、私今までもこのような素振りはしなかったと思いますが……」

 夢中に食べることをやめて冷静になって考えてみた。
 今まで屋敷の中でも上級民族としての教育をされていたため、食べる量以外は貴族のような素振りをしていた。
 上品な態度や言葉遣いをしていたはずだし、もちろんアルト様にも今日のような態度や口調は見せたことはないはずだ。

「実際に見ていなくても、普段のジュリの態度を見ていたらこれが本性だとわかるだろう」
「え!?」
「俺はむしろ嬉しいんだ。ジュリが誰にも見せないありのままを俺だけに見せてくれて」
「そ……そうですか? ではこのまま食べていても?」
「もちろんだ。それにその敬語もなくしてくれれば尚良いんだがな」

「わ……わかりましたよ。でも心配ですね」
「なんでだ!?」
「だって、私のこういう姿でアルト様が幻滅してしまうのではないかと──」
「何を言っている!?」

 バンっとテーブルを軽く叩いて驚いたが、真顔で嬉しい言葉をかけてくれるのだった。

「俺はジュリのあるがままを好きでいたいのだ。猫を被った姿は可憐かもしれないが、ジュリは気を使わずに落ち着ける空間を作りたいのだ。義兄と……いや、男として」
「アルト様……」

 私は今までそのようなことを言われたこともなかったので、嬉しかった。
 しかも今異性として夢中になっている相手にこんなこと言われるなんて思わなかった。

「じゃあ……」
「食べようか!」
「えぇ!!」

 ストッパーが完全に解除されて、私は今までで最高に満足且つ満腹な休日を終えた。
 ただし、その日の夜、お腹を下してお花畑を摘みに行く無限ループをすることになってしまったことは黙っておく。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。 ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。 自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。 「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」 「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」  ※表現には実際と違う場合があります。  そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。  私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。  ※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。  ※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。

私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください

迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。 アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。 断るに断れない状況での婚姻の申し込み。 仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。 優しい人。 貞節と名高い人。 一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。 細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。 私も愛しております。 そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。 「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」 そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。 優しかったアナタは幻ですか? どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。

【完結】妹が旦那様とキスしていたのを見たのが十日前

地鶏
恋愛
私、アリシア・ブルームは順風満帆な人生を送っていた。 あの日、私の婚約者であるライア様と私の妹が濃厚なキスを交わすあの場面をみるまでは……。 私の気持ちを裏切り、弄んだ二人を、私は許さない。 アリシア・ブルームの復讐が始まる。

「君を愛することはない」の言葉通り、王子は生涯妻だけを愛し抜く。

長岡更紗
恋愛
子どもができない王子と王子妃に、側室が迎えられた話。 *1話目王子妃視点、2話目王子視点、3話目側室視点、4話王視点です。 *不妊の表現があります。許容できない方はブラウザバックをお願いします。 *他サイトにも投稿していまし。

【完結】大好きな幼馴染には愛している人がいるようです。だからわたしは頑張って仕事に生きようと思います。

たろ
恋愛
幼馴染のロード。 学校を卒業してロードは村から街へ。 街の警備隊の騎士になり、気がつけば人気者に。 ダリアは大好きなロードの近くにいたくて街に出て子爵家のメイドとして働き出した。 なかなか会うことはなくても同じ街にいるだけでも幸せだと思っていた。いつかは終わらせないといけない片思い。 ロードが恋人を作るまで、夢を見ていようと思っていたのに……何故か自分がロードの恋人になってしまった。 それも女避けのための(仮)の恋人に。 そしてとうとうロードには愛する女性が現れた。 ダリアは、静かに身を引く決意をして……… ★ 短編から長編に変更させていただきます。 すみません。いつものように話が長くなってしまいました。

終わっていた恋、始まっていた愛

しゃーりん
恋愛
結婚を三か月後に控えた侯爵令嬢ソフィアナは、婚約者である第三王子ディオンに結婚できなくなったと告げられた。二つ離れた国の王女に結婚を申し込まれており、国交を考えると受けざるを得ないということだった。ディオンはソフィアナだけを愛すると言い、ソフィアナを抱いた後、国を去った。 やがて妊娠したソフィアナは体面を保つために父の秘書であるルキウスを形だけの夫として結婚した。 それから三年、ディオンが一時帰国すると聞き、ディオンがいなくても幸せに暮らしていることを裏切りではないかと感じたが思い違いをしていたというお話です。

初夜で白い結婚を宣言する男は夫ではなく敵です

編端みどり
恋愛
政略結婚をしたミモザは、初夜のベッドで夫から宣言された。 「君とは白い結婚になる。私は愛している人が居るからな」 腹が立ち過ぎたミモザは夫家族を破滅させる計画を立てる。白い結婚ってとっても便利なシステムなんですよ? 3年どうにか耐えると決意したミモザだが、あまりに都合の良いように扱われ過ぎて、耐えられなくなってしまう。 そんなミモザを常に見守る影が居て…。

わたしの婚約者の好きな人

風見ゆうみ
恋愛
わたし、アザレア・ミノン伯爵令嬢には、2つ年上のビトイ・ノーマン伯爵令息という婚約者がいる。 彼は、昔からわたしのお姉様が好きだった。 お姉様が既婚者になった今でも…。 そんなある日、仕事の出張先で義兄が事故にあい、その地で入院する為、邸にしばらく帰れなくなってしまった。 その間、実家に帰ってきたお姉様を目当てに、ビトイはやって来た。 拒んでいるふりをしながらも、まんざらでもない、お姉様。 そして、わたしは見たくもないものを見てしまう―― ※史実とは関係なく、設定もゆるく、ご都合主義です。ご了承ください。

処理中です...