上 下
15 / 19

15

しおりを挟む
 とんでもない行為を行ったベルベットはすぐに使用人達に取り押さえられ、そのまま警備兵に突き出された。
 しかし、代償があまりにも大きい。

「義兄様……なんで私を庇って……」

 私は義兄様に助けられた。
 刃物が私の心臓を突き刺す数センチまで迫っていたところで私の身体は、義兄様に突き飛ばされ回避できた。
 だが、義兄様の腹部に刃物が刺さってしまったのだ。

「ジュリ……俺はお前のことをずっと愛しているからだ。愛するものを守るのは当然だろう」
「でも、今までそんな素振り……そんなことより、もう喋らないで義兄様! 死んでしまうわ!!」

「かまわんから聞いてくれ。俺は義兄妹として一緒になった時からずっとお前を異性としてしか見ていなかった。だが、こんな義兄よりも良い相手が見つかると思って見守ることを選択した。その結果がこれだ。俺が最初からジュリを守れていれば……これは俺に対する罰だから気にするな」
「そんな……も……もうすぐ専属の医師が来るはずですから大人しくして──」

 腕を上げることすら困難なはずなのに、義兄様は私の頬を優しく撫で、流れる涙を拭き取ってくれた。

 ことの状況を理解できていないザーガルは混乱しているのだろうか。空気も読まずにとんでもないことを言い出したようだ。

「アルト義兄様、あなたのおかげで愛とは何か今理解しました。これからは気持ちが生まれ変われた俺が、アルト義兄様の分も身を持ってジュリアを守ります。ですから安心してください──」

 もはや私の耳には雑音が全く入ってこない。
 後ろの方でザーガルのお父様にザーガルが思いっきり殴られている瞬間だけ気がつくことができた。

「ジュリ……俺は義兄として一緒にいることができて幸せだった。ジュリ、ありがとう……」
 そのまま義兄様は目を閉じてしまった。

 ♢

 事件から数日が過ぎた今も、義兄様は未だに昏睡状態のまま。
 流血に加えて、刃物には毒まで盛られていたのだ。
 医師からは目を覚ませるかは五割と言われてしまった。

 私は、あれからずっと義兄様が目を開いてくれることを願って一緒にいる。

 離婚の話ははっきりと覚えていない。護衛や使用人達が任務を遂行できなかったと謝罪の上、辞表を願ってきたそうだが、それすらも記憶に残っていないのだ。
 お父様とザーガルの両親が立ち合いの元、私に変わり話を進めてくれた。

 離婚が正式に受理されていない状態でこのようなことをしていたら、私も不倫同然なのかもしれない。
 だって、今の私にはザーガルのことは脳裏に全く入っていないし、義兄様のことばかり考えているのだから。

 義兄様のことは今まで異性としては見てこなかった。
 だからこそ本当の兄弟のように仲良く幼少期から過ごせた。

 それを今になって……、しかも極限の状態であんな告白をされてしまうなんて、どうして私はもっと早く気がつくことが出来なかったのだろうか。

 ため息しか出ずに落ち込んでしまう毎日。一方、義兄様は昏睡しながらもどこか笑顔に見えてしまうのは気のせいだろうか。

「ジュリアよ……話があるのだが良いか?」
「えぇお父様……ここで良ければ」

 義兄様のそばから離れたくはなかった。

「分かった。こんな時に言いづらいのだが……ザーガル氏との離婚は正式に成立し受理される。慰謝料は一萬紙幣三十万枚に加え、借用した金も同時に支払ってもらうことになる。更に今後ポルカ家への援助も支援も一切しない。尚、エイプリル家にもジュリアにも今後一切近づかないことも制約した」
「そう……」

 こんな状況でも直ぐに想像はできた。額からして、あの家も両親の所有するポルカ家もお取り潰しになるだろう。
 彼らの所有する資産全額で成立させたということか。

「あとはジュリアがサインすれば全ては終わる」
「そうね……」

 サインか……こんなものを書くだけで離婚は済むだけだったはずなのに、どうしてアルト義兄様がこんな目に合わなければいけないのかわからない。

「それから……ベルベット氏の件だが」
「いや!!」

 あの女の名前が出てくるだけでひどい恐怖と悲しみが出てしまう程、私は心を痛めていた。

「鉱山送りになる。残念ながら奴の財産が全くない上、完全に独り身だから慰謝料などは請求できないのだ……すまない」
「慰謝料なんていらないから義兄様の目を覚まさせて欲しい……」

 私はそう言って泣き崩れてしまう。
 もう慰謝料なんてどうでも良い。

 私の願いは、命を張って守ってくれた義兄様が目を開けること。

 サインはもう少ししたらしっかり書類に目を通してから書くとだけ言った。お父様は頷いてそのまま部屋を出て行った。

「義兄様……」

 私は義兄様の手を両手で握って、何度も何度も願った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。 ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。 自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。 「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」 「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」  ※表現には実際と違う場合があります。  そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。  私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。  ※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。  ※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。

私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください

迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。 アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。 断るに断れない状況での婚姻の申し込み。 仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。 優しい人。 貞節と名高い人。 一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。 細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。 私も愛しております。 そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。 「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」 そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。 優しかったアナタは幻ですか? どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。

【完結】妹が旦那様とキスしていたのを見たのが十日前

地鶏
恋愛
私、アリシア・ブルームは順風満帆な人生を送っていた。 あの日、私の婚約者であるライア様と私の妹が濃厚なキスを交わすあの場面をみるまでは……。 私の気持ちを裏切り、弄んだ二人を、私は許さない。 アリシア・ブルームの復讐が始まる。

「君を愛することはない」の言葉通り、王子は生涯妻だけを愛し抜く。

長岡更紗
恋愛
子どもができない王子と王子妃に、側室が迎えられた話。 *1話目王子妃視点、2話目王子視点、3話目側室視点、4話王視点です。 *不妊の表現があります。許容できない方はブラウザバックをお願いします。 *他サイトにも投稿していまし。

【完結】大好きな幼馴染には愛している人がいるようです。だからわたしは頑張って仕事に生きようと思います。

たろ
恋愛
幼馴染のロード。 学校を卒業してロードは村から街へ。 街の警備隊の騎士になり、気がつけば人気者に。 ダリアは大好きなロードの近くにいたくて街に出て子爵家のメイドとして働き出した。 なかなか会うことはなくても同じ街にいるだけでも幸せだと思っていた。いつかは終わらせないといけない片思い。 ロードが恋人を作るまで、夢を見ていようと思っていたのに……何故か自分がロードの恋人になってしまった。 それも女避けのための(仮)の恋人に。 そしてとうとうロードには愛する女性が現れた。 ダリアは、静かに身を引く決意をして……… ★ 短編から長編に変更させていただきます。 すみません。いつものように話が長くなってしまいました。

終わっていた恋、始まっていた愛

しゃーりん
恋愛
結婚を三か月後に控えた侯爵令嬢ソフィアナは、婚約者である第三王子ディオンに結婚できなくなったと告げられた。二つ離れた国の王女に結婚を申し込まれており、国交を考えると受けざるを得ないということだった。ディオンはソフィアナだけを愛すると言い、ソフィアナを抱いた後、国を去った。 やがて妊娠したソフィアナは体面を保つために父の秘書であるルキウスを形だけの夫として結婚した。 それから三年、ディオンが一時帰国すると聞き、ディオンがいなくても幸せに暮らしていることを裏切りではないかと感じたが思い違いをしていたというお話です。

初夜で白い結婚を宣言する男は夫ではなく敵です

編端みどり
恋愛
政略結婚をしたミモザは、初夜のベッドで夫から宣言された。 「君とは白い結婚になる。私は愛している人が居るからな」 腹が立ち過ぎたミモザは夫家族を破滅させる計画を立てる。白い結婚ってとっても便利なシステムなんですよ? 3年どうにか耐えると決意したミモザだが、あまりに都合の良いように扱われ過ぎて、耐えられなくなってしまう。 そんなミモザを常に見守る影が居て…。

わたしの婚約者の好きな人

風見ゆうみ
恋愛
わたし、アザレア・ミノン伯爵令嬢には、2つ年上のビトイ・ノーマン伯爵令息という婚約者がいる。 彼は、昔からわたしのお姉様が好きだった。 お姉様が既婚者になった今でも…。 そんなある日、仕事の出張先で義兄が事故にあい、その地で入院する為、邸にしばらく帰れなくなってしまった。 その間、実家に帰ってきたお姉様を目当てに、ビトイはやって来た。 拒んでいるふりをしながらも、まんざらでもない、お姉様。 そして、わたしは見たくもないものを見てしまう―― ※史実とは関係なく、設定もゆるく、ご都合主義です。ご了承ください。

処理中です...