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13 ザーガル視点
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「ベルベット……最近使用人として仕事を疎かにしているのでは?」
ジュリアが家を出てから数日が経ち、ベルベットの家事によって家がメチャクチャになっていた。
流石のザーガルも、家の変化に気がつき、仕方なくベルベットに指摘をするのだが……。
「酷いよー。私……そんなにダメなの?」
「俺の服がシワクチャだし、臭くなっている……。庭の花壇は枯れはじめている。更にこの米、カリカリしていて硬いのだが……」
「だって……」
泣き出してしまうベルベット。
ザーガルはこれ以上何も言えずに頭を撫でるしかできなかった。
「ちょっと調子が悪くて……そう! きっと、ジュリアが出てってしまったから絶不調なのよ、絶対!」
心にも思っていないことを手当たり次第に言って、なんとか誤魔化そうとしていた。
ザーガルは疑うことなく、ベルベットの頭を撫でた。
「そうか、ベルベットもジュリアのことを心配して不調になっているのだな。ジュリアのことを想ってくれていて嬉しいぞ。ならば体調回復と気分を回復させに行くか」
「も……もちろんですわー!」
ザーガルは悪気がなく、純粋にベルベットをとある場所へ誘い出し、出かけるのだった。
♢
「さすがにまずい。ベルベット、次負けてしまえば一文なしだ。借りた一萬紙幣五千枚もなくなってしまう」
「私にお任せですわー! 破滅しないような、幸せになりそうな数字にしましょう! 一五……!」
案の定、結果は一九だった。
この時をもってザーガルとベルベットは一文なしになり、外へと出ることになった。
「ベルベットにギャンブルという素晴らしい投資を教えてもらったのに……最初は上手く稼げていたのだが……」
「たまたま運がなかっただけですわよ。次はきっと!」
「その次がもうないのだ……」
「もう一回借りればいいのですわ。ジュリアさんならきっとわかってくれるはずです」
「しかし、そのジュリアも既に八日も留守にしているのだぞ。しかも連絡もなくだ。病気にでもなってしまったのか心配だ」
「毎日私とイチャイチャしているのに……ジュリアさんの心配ばっかり……」
「それは当然だろう。ジュリアは大事な妻だ。ベルベットには何度も言って申し訳ないが、身体の行為も練習のためだ。ジュリアに満足してもらうためにだ」
「そう……」
ベルベットはそれでも、いずれ離婚して自分の旦那にすることだけを考えていた。たとえどんな手を使ってでも。
ジュリアがいない今がまさに絶好のチャンスだと思い込んでいた。
♢
ザーガルとベルベットが家に戻ると、家の前には何人もの人が待ち受けていた。
ザーガルは驚きのあまり、すぐに待っていた者達に跪いた。
服装が王族特有の制服を着用していたからだ。
「おいベルベット、早く俺と同じように跪いてくれ……」
「なんでですのー?」
「王宮直属の方だ。無礼にも程がある……」
小声で必死にお願いするザーガルを見て、渋々ベルベットも跪いた。
「この家の借主のザーガルとは其方であられるか?」
「ははっ! 私がザーガル=ポルカでございます。こちらは使用人を務めておりますベルベットです。して、どのようなご用件かお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「ねぇザーガル、この人たちそんな偉い人なの?」
ベルベットの能天気な発言に滝のような汗をかいて顔が青ざめていった。
「ばか! 口を慎め!」
この発言を聞いて一瞬顔が笑いかけてしまった王族の者達だが、すぐに真顔に戻り、ザーガルに告げた。
「まぁ良い。顔をあげよザーガル。そちらの元使用人を務めていたベルベット氏も立ち上がるが良い」
ベルベットもこの言葉に何かを察したのか、表情が曇った。
「ザーガル、わ……私は関係ないから家に戻ってて良いわよね!? ね!?」
「いや、ベルベット氏にも伝言があって我々は出向いたのだ。ザーガル、此処で伝えるのと家内で伝える選択を与える。どちらか選ぶのだ」
「で……では……ここで」
「そうか。ではこの報告書を渡すので二人とも直ちに読むのだ」
渡された書類を読み始めてザーガルは顔が青ざめた。
一方、ベルベットは能天気にザーガルにお願いをするのだった。
「ねぇ、ザーガル、私この字読めないから、読んでくれる?」
「は!? ベルベット、文字も読めないのか!?」
「だって……」
呆れながらザーガルは声に出して最初から読み始めた。
「なんでそうなるのよ!?」
聞いていたベルベットはたまらず大声で王宮の人間達に怒鳴った。
「落ち着けベルベット」
「無理よそんなの! ジュリアさんとザーガルの離婚話で、なんで私にまで多額の慰謝料請求されるのよ。おまけに賭博罪で私に容疑がかかっているなんて知らないわよ!」
「大丈夫だ。さすがにこれは何かの間違いだろ? 離婚をするような理由に心当たりもない。賭博に関しても正当な自分の金で賭けたものならば無罪なはずだ。俺たちは自分の金でやっていたのだから」
「そ……そうよね……」
ベルベットには賭博に関しては思い当たる節があったので、ザーガルの言葉にも安堵できなかった。
「ともかく、文面に書いてあるとおり、至急ジュリアの家に向かう」
「ではザーガル並びにベルベット氏は伝令通りに我々と共にエイプリル様宅へ連れていく」
「はぁ……なんで私がこんな目に……ジュリアさん、なんてことしてくれたのよ……絶対に許さないわ。あなたからザーガルを奪ってみせるんだから!」
ベルベットは一人小さくつぶやき決心した。
「ジュリアは勘違いをしているに過ぎない。しっかりと説明をすれば浮気でもなければ離婚をするような理由もない。だって俺はジュリアを愛しているのだから」
ザーガルもまた、小声でつぶやき一人で納得していた。
ジュリアが家を出てから数日が経ち、ベルベットの家事によって家がメチャクチャになっていた。
流石のザーガルも、家の変化に気がつき、仕方なくベルベットに指摘をするのだが……。
「酷いよー。私……そんなにダメなの?」
「俺の服がシワクチャだし、臭くなっている……。庭の花壇は枯れはじめている。更にこの米、カリカリしていて硬いのだが……」
「だって……」
泣き出してしまうベルベット。
ザーガルはこれ以上何も言えずに頭を撫でるしかできなかった。
「ちょっと調子が悪くて……そう! きっと、ジュリアが出てってしまったから絶不調なのよ、絶対!」
心にも思っていないことを手当たり次第に言って、なんとか誤魔化そうとしていた。
ザーガルは疑うことなく、ベルベットの頭を撫でた。
「そうか、ベルベットもジュリアのことを心配して不調になっているのだな。ジュリアのことを想ってくれていて嬉しいぞ。ならば体調回復と気分を回復させに行くか」
「も……もちろんですわー!」
ザーガルは悪気がなく、純粋にベルベットをとある場所へ誘い出し、出かけるのだった。
♢
「さすがにまずい。ベルベット、次負けてしまえば一文なしだ。借りた一萬紙幣五千枚もなくなってしまう」
「私にお任せですわー! 破滅しないような、幸せになりそうな数字にしましょう! 一五……!」
案の定、結果は一九だった。
この時をもってザーガルとベルベットは一文なしになり、外へと出ることになった。
「ベルベットにギャンブルという素晴らしい投資を教えてもらったのに……最初は上手く稼げていたのだが……」
「たまたま運がなかっただけですわよ。次はきっと!」
「その次がもうないのだ……」
「もう一回借りればいいのですわ。ジュリアさんならきっとわかってくれるはずです」
「しかし、そのジュリアも既に八日も留守にしているのだぞ。しかも連絡もなくだ。病気にでもなってしまったのか心配だ」
「毎日私とイチャイチャしているのに……ジュリアさんの心配ばっかり……」
「それは当然だろう。ジュリアは大事な妻だ。ベルベットには何度も言って申し訳ないが、身体の行為も練習のためだ。ジュリアに満足してもらうためにだ」
「そう……」
ベルベットはそれでも、いずれ離婚して自分の旦那にすることだけを考えていた。たとえどんな手を使ってでも。
ジュリアがいない今がまさに絶好のチャンスだと思い込んでいた。
♢
ザーガルとベルベットが家に戻ると、家の前には何人もの人が待ち受けていた。
ザーガルは驚きのあまり、すぐに待っていた者達に跪いた。
服装が王族特有の制服を着用していたからだ。
「おいベルベット、早く俺と同じように跪いてくれ……」
「なんでですのー?」
「王宮直属の方だ。無礼にも程がある……」
小声で必死にお願いするザーガルを見て、渋々ベルベットも跪いた。
「この家の借主のザーガルとは其方であられるか?」
「ははっ! 私がザーガル=ポルカでございます。こちらは使用人を務めておりますベルベットです。して、どのようなご用件かお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「ねぇザーガル、この人たちそんな偉い人なの?」
ベルベットの能天気な発言に滝のような汗をかいて顔が青ざめていった。
「ばか! 口を慎め!」
この発言を聞いて一瞬顔が笑いかけてしまった王族の者達だが、すぐに真顔に戻り、ザーガルに告げた。
「まぁ良い。顔をあげよザーガル。そちらの元使用人を務めていたベルベット氏も立ち上がるが良い」
ベルベットもこの言葉に何かを察したのか、表情が曇った。
「ザーガル、わ……私は関係ないから家に戻ってて良いわよね!? ね!?」
「いや、ベルベット氏にも伝言があって我々は出向いたのだ。ザーガル、此処で伝えるのと家内で伝える選択を与える。どちらか選ぶのだ」
「で……では……ここで」
「そうか。ではこの報告書を渡すので二人とも直ちに読むのだ」
渡された書類を読み始めてザーガルは顔が青ざめた。
一方、ベルベットは能天気にザーガルにお願いをするのだった。
「ねぇ、ザーガル、私この字読めないから、読んでくれる?」
「は!? ベルベット、文字も読めないのか!?」
「だって……」
呆れながらザーガルは声に出して最初から読み始めた。
「なんでそうなるのよ!?」
聞いていたベルベットはたまらず大声で王宮の人間達に怒鳴った。
「落ち着けベルベット」
「無理よそんなの! ジュリアさんとザーガルの離婚話で、なんで私にまで多額の慰謝料請求されるのよ。おまけに賭博罪で私に容疑がかかっているなんて知らないわよ!」
「大丈夫だ。さすがにこれは何かの間違いだろ? 離婚をするような理由に心当たりもない。賭博に関しても正当な自分の金で賭けたものならば無罪なはずだ。俺たちは自分の金でやっていたのだから」
「そ……そうよね……」
ベルベットには賭博に関しては思い当たる節があったので、ザーガルの言葉にも安堵できなかった。
「ともかく、文面に書いてあるとおり、至急ジュリアの家に向かう」
「ではザーガル並びにベルベット氏は伝令通りに我々と共にエイプリル様宅へ連れていく」
「はぁ……なんで私がこんな目に……ジュリアさん、なんてことしてくれたのよ……絶対に許さないわ。あなたからザーガルを奪ってみせるんだから!」
ベルベットは一人小さくつぶやき決心した。
「ジュリアは勘違いをしているに過ぎない。しっかりと説明をすれば浮気でもなければ離婚をするような理由もない。だって俺はジュリアを愛しているのだから」
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