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10 ザーガル視点
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ジュリアがいないことにザーガルが気がついたのは、出て行った翌日のこと。
ジュリアが出て行った当日、ザーガルは何も気がつかずに外出し、帰った時が夜だったためにそのまま就寝した。
一方、ベルベットは口うるさいジュリアがいないことで開放的になっていたので全く気にしていなかったのだ。
『勝手で申し訳ございませんが、気持ちが優れないため、しばらくの間本家に帰ります。ベルベットさんの報酬は置いてあります』
ジュリアが残した手紙を発見し、読んだザーガルは、当たり前のように頷くだけで焦るようなことはなかった。
ベルベットには手紙のことを報告した。
「じゃあ昨日からずっと、私とザーガルの二人っきりってことー?」
ベルベットは満面の笑みでザーガルに抱きついた。
「そんなにくっついてきてはジュリアに誤解されてしまうだろう」
「だってー、今はいないんだから良いじゃんー。それにこの手紙の内容じゃ、帰ってこないかもしれないでしょ」
「お互いに愛し合っている夫婦がそんなことになるわけがない。ベルベットのおかげで家事をやらなくなった分、急に休めるようになっただろ? だから、生活バランスが崩れてしまったんだろう」
逆である。ベルベットの使用人としての教育と、数々のミスによる後始末、更に全てにおいて酷い出来だったため、家事は全てジュリアがやり直していたのだ。
ザーガルの発言に対して、ベルベットは笑って誤魔化すだけだった。
「ザーガルはジュリアさんのこと愛しているの?」
「もちろんだ。それにジュリアも俺のことを愛してくれている。夫婦円満だし、誤解は与えないようにしたいんだ」
「……えーと、どういうところが夫婦円満なのー?」
「俺の頼んだことは素直に聞いてくれるし、俺が嫌いな食べ物は食卓に用意されていないし、俺のことが好きでなければそんなことできるわけがないだろう」
「……そうだねー」
ザーガルは気が付いていなかった。ジュリアがとっくに冷め切っていて、慰謝料を支払ってでも離婚を考えてしまっていることに。
ベルベットは気付いていた。ジュリアがザーガルに対して嫌気が出ていることに。だからこそ、この機会を逃さなかった。
「ねぇザーガル、話があるの」
「なんだい?」
突然の出来事にザーガルは動けずにいた。
ベルベットはザーガルを押し倒して、そのまま唇を交わし、更に身体全体が密着していく。
「べ……ベルベット!? これは流石にまずいだろ。それに俺と幼馴染の関係だ。だから──」
「良いから……今だけ。ね?」
だが、ザーガルも満更ではない行為に拒否することもなかった。
二人の体は互いに優しく交わっていくのだった。
♢
「ねぇザーガル、分かったでしょ? 私は本気なの。小さかった頃からずっとザーガルが好きだった。それなのに……どうしてなの?」
「な……なにがだ?」
ザーガルは、自分のした行為について動揺していた。
全力で拒否すれば逃げられたことも、逃げないで受け入れてしまったのだから。
「なんでジュリアなんかと結婚しちゃったの!?」
「なんかとはどういうことだ!? 俺はジュリアを愛しているのだ」
「この状況でもそんなこと言うのー?」
「なんでだ? ベルベットのおかげでこういう行為も満更ではないことがわかった。何より、俺とジュリアは愛し合っている夫婦円満だからこのようなことも理解してくれるし許してくれるはずだ」
自信満々に話すザーガルに対して、ベルベットはため息をはいた。
「普通なら離婚問題だと思うけど」
「いや、俺たちは縁談からの結婚だし、そんなことよりも、今までこういう行為を遠慮してた俺が変わったのだから、きっとジュリアも喜んでくれるはずだろう」
「もし、お金とか関係なかったら……縁談がなかったら、幼馴染の私と結婚してくれた……?」
「そうかもしれないな、だがジュリア──」
「嬉しいー! だったらこのまま離婚してもらって、私と結婚しよー」
「話は最後まで聞──」
再びベルベットはザーガルに抱きついて喋っていた口を自らの口で塞いだ。
この日、一日中二人は離れることはなかった。
監視が入っていたことも知らずに。
ジュリアが出て行った当日、ザーガルは何も気がつかずに外出し、帰った時が夜だったためにそのまま就寝した。
一方、ベルベットは口うるさいジュリアがいないことで開放的になっていたので全く気にしていなかったのだ。
『勝手で申し訳ございませんが、気持ちが優れないため、しばらくの間本家に帰ります。ベルベットさんの報酬は置いてあります』
ジュリアが残した手紙を発見し、読んだザーガルは、当たり前のように頷くだけで焦るようなことはなかった。
ベルベットには手紙のことを報告した。
「じゃあ昨日からずっと、私とザーガルの二人っきりってことー?」
ベルベットは満面の笑みでザーガルに抱きついた。
「そんなにくっついてきてはジュリアに誤解されてしまうだろう」
「だってー、今はいないんだから良いじゃんー。それにこの手紙の内容じゃ、帰ってこないかもしれないでしょ」
「お互いに愛し合っている夫婦がそんなことになるわけがない。ベルベットのおかげで家事をやらなくなった分、急に休めるようになっただろ? だから、生活バランスが崩れてしまったんだろう」
逆である。ベルベットの使用人としての教育と、数々のミスによる後始末、更に全てにおいて酷い出来だったため、家事は全てジュリアがやり直していたのだ。
ザーガルの発言に対して、ベルベットは笑って誤魔化すだけだった。
「ザーガルはジュリアさんのこと愛しているの?」
「もちろんだ。それにジュリアも俺のことを愛してくれている。夫婦円満だし、誤解は与えないようにしたいんだ」
「……えーと、どういうところが夫婦円満なのー?」
「俺の頼んだことは素直に聞いてくれるし、俺が嫌いな食べ物は食卓に用意されていないし、俺のことが好きでなければそんなことできるわけがないだろう」
「……そうだねー」
ザーガルは気が付いていなかった。ジュリアがとっくに冷め切っていて、慰謝料を支払ってでも離婚を考えてしまっていることに。
ベルベットは気付いていた。ジュリアがザーガルに対して嫌気が出ていることに。だからこそ、この機会を逃さなかった。
「ねぇザーガル、話があるの」
「なんだい?」
突然の出来事にザーガルは動けずにいた。
ベルベットはザーガルを押し倒して、そのまま唇を交わし、更に身体全体が密着していく。
「べ……ベルベット!? これは流石にまずいだろ。それに俺と幼馴染の関係だ。だから──」
「良いから……今だけ。ね?」
だが、ザーガルも満更ではない行為に拒否することもなかった。
二人の体は互いに優しく交わっていくのだった。
♢
「ねぇザーガル、分かったでしょ? 私は本気なの。小さかった頃からずっとザーガルが好きだった。それなのに……どうしてなの?」
「な……なにがだ?」
ザーガルは、自分のした行為について動揺していた。
全力で拒否すれば逃げられたことも、逃げないで受け入れてしまったのだから。
「なんでジュリアなんかと結婚しちゃったの!?」
「なんかとはどういうことだ!? 俺はジュリアを愛しているのだ」
「この状況でもそんなこと言うのー?」
「なんでだ? ベルベットのおかげでこういう行為も満更ではないことがわかった。何より、俺とジュリアは愛し合っている夫婦円満だからこのようなことも理解してくれるし許してくれるはずだ」
自信満々に話すザーガルに対して、ベルベットはため息をはいた。
「普通なら離婚問題だと思うけど」
「いや、俺たちは縁談からの結婚だし、そんなことよりも、今までこういう行為を遠慮してた俺が変わったのだから、きっとジュリアも喜んでくれるはずだろう」
「もし、お金とか関係なかったら……縁談がなかったら、幼馴染の私と結婚してくれた……?」
「そうかもしれないな、だがジュリア──」
「嬉しいー! だったらこのまま離婚してもらって、私と結婚しよー」
「話は最後まで聞──」
再びベルベットはザーガルに抱きついて喋っていた口を自らの口で塞いだ。
この日、一日中二人は離れることはなかった。
監視が入っていたことも知らずに。
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