【完結】姉に婚約者を奪われ、役立たずと言われ家からも追放されたので、隣国で幸せに生きます

よどら文鳥

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第一章

36 【視点変更】裏切り

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「くそう、まさか馬車がこんなことになるとは。前回の定期メンテナンスで手抜きをしていたのだろう!」

 ゼオン元国王は嘆いていた。
 アルガルデ王国にあった馬車は、かなり古い物で、リリーナが時々修理をしていた。
 だが、決して手抜きをしたわけではない。
 元々長距離移動用ではない上、許容人数の倍以上の人間を乗せてしまった。
 車輪が耐えきれず半数近くの馬車が壊れてしまったのである。

「どうするんだねゼオン陛下。まだまだ先は長いのだよ」
「なんと言われても。全てはリリーナといういい加減な女がいけないのです!」
「リリーナ!? 頭脳だけは優秀だけど生意気な女のことか!?」

 ダスフォールは見覚えのある名前を聞いて驚いていた。

「生意気ではありますが、残念ながら人違いでしょうな。私の言っているリリーナとは頭脳は底辺で卑怯な女ですから。姉に面倒を見てもらい手柄を奪おうとしていた卑怯者ですので」

 ゼオンは勘違いをしていた。
 リリーナの姉、サフランの名義で国務が提出されていたため、リリーナが仕事をしていたのだとは思っていなかったのである。
 それでも雑用には使えるだろうと、罰を含めて簡単な作業だけは強引に押し付けていたのだ。

「そうだね。僕の知っているリリーナちゃんは繊細で可愛くて頭脳だけは完璧なんだよ。でも、クソ生意気だから僕が国を乗っとったら強引に僕の女にしてやるんだね」

「はっはっは。相変わらずダスフォール殿下はやることが違いますな。私の存じているリリーナなどゴミ同然ですから。国から追放してやりましたよ」

「それにしてもアルガルデ王国にはリリーナって名前が多いんだね。僕の知っているリリーナちゃんもアルガルデから来たっていうし」
「はて……」

 ダスフォールはリリーナのことを自分の女にしたいと思うほど好意を持っている。
 更にお茶会でのクイズを見ていたから、リリーナが本物の秀才だと認めていた。
 だからこそゼオンの言っていたリリーナが別人であると思い込んでいたのである。

「さて、ともかくこのままでは先へ進めませんな」
「残念だけど、僕の持ってきた馬車にはこれ以上人は乗り込めないんだね」
「ならば解決策は簡単ですな」

 そう言ってゼオンは壊れた馬車の中で待機しているリリーナの元家族と、公爵家のザグロームとドルドックを連れてきた。

「まずはお前たちからだ! リリーナを産んで国に迷惑をかけた罪、それからバカな女と婚約しようとしていた罪でお前らは歩いて来い! 馬車は使わせぬ!」
 ゼオンは当然のように、そう命じた。

「「「「「は!?」」」」」
「なるほど、明暗だね」
「兄上! なぜ私まで! 犠牲にするのは下級貴族の者たちでしょう!」

 公爵のドルドックは納得がいくわけがなかったのである。
 まさか実の兄が見捨てるようなことを言うとは考えもしなかった。

「我々は国を出る覚悟だと言ったであろう。ここにきて兄も弟も関係ない。ならばこのようなトラブルの原因になった馬鹿女の関係者から罰を与えるのは当然のことだ」
「そんな……」

 絶望している五人に救いの言葉を出したのはダスフォールだった。
「大丈夫なんだね。このまま真っ直ぐ進めばいずれ到着できると思うよ。道中雑草でも食べていればなんとかなると思うんだね」
「まだこれでも足りませんな。残りは適当に選びますか」

 ゼオンたちは下級貴族の人間と壊れた馬車を捨て、そのまま進んでしまった。
 周りには何もない平原。
 アルガルデに戻るにも人の足では数日かかる場所まで来てしまっていたし、道のりもわからない状態だ。

「くそう、兄上め……」
「父上! 私とサフランは諦めずにオーブルジェを目指します」
「なんだと!? 正気か!?」
「はい。どうせアルガルデに戻ったとしても次は国を出れなくなります。必ずやオーブルジェにたどり着き、いずれ父上たちを迎えにきます」

 ザグロームには絶対の自信があった。
 サフランもその意図がわかり、ザグロームについていくことを決めたのである。

「飢え死にならおそらく大丈夫です。私とサフランなら」

 リリーナが実験的に作っていた『飲食をしなくともしばらく生きていける薬』を飲んでいたからこそ言えたのだが、そのことはドルドックたちに黙っていた。
 ザグロームたちはそのまま恐ることなく二人で歩いて行ったのである。

 しかし、二人は勘違いをしていた。
 いくら食事をしなくても良い魔道具を使ったとはいえ、国を超えるだけの距離を歩かなければいけない過酷さを理解していなかった。

 対して、ドルドック一味は生き抜くために一旦アルガルデ王国へ向かって歩いて引き返した。
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