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29話【Side】ボルブ、とんでもない人を雇う
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ボルブは、自分のこととなると行動が早かった。
彼の仕事を全て任せるため、ふたたび使用人を民間人から雇ったのだ。
「良いか? 本来は民間人になど公開してはならない社外秘の書類をまとめてもらう仕事をやってもらうのだ。口止め料込みで高額で依頼しているのだから、しっかりとやってくれ」
「はい。お任せください。私は口は固いのでご安心くだされ」
「うむ! キミを酒場で見かけたときから、話のわかる人間だと私は思えた。君のことは信頼している、よろしく頼むよ」
「ありがとうございます」
ボルブはなにも知らなかった。
この民間人は裏組織の幹部であり、国の情報を求めて頭の悪そうな貴族に接触を試みている者だということを。
「ところで、君の名はなんという?」
「ベラです」
「そうか。ベラか。良い関係を築けるよう期待している」
「はい、主人様に絶対服従いたします」
ボルブは、ようやく真っ当な使用人を雇えたと思い、浮かれていた。
いっぽうベラは顔には出さなかったが、こんなに頭の悪く間抜けな貴族がいるものなのかと呆れていた。
ボルブの部屋で、社外秘の書類をベラに託す。
「念のために、この部屋で作業をして、外には持ち出さないようにしてくれ。俺はこれからティータイムにしたい。ベラのおかげでようやく俺にもスローライフ生活が始まろうとしているのだからな。本当にキミには感謝したい」
「お褒めの言葉ありがとうございます。よろしければ、紅茶でもご用意いたしますか?(バカめが。スローライフどころか、俺たちの計画がうまくいけば貴族界全てが崩壊するだろうよ)」
「あぁ、本当に気が利くよな。今までのバカな使用人たちにベラの素晴らしさを見せつけてやりたいものだ」
「はは……」
ベラはボルブに紅茶を用意して、一人で部屋に閉じこもる。
「さて、全ての書類をすり替えてアジトでゆっくりと情報を確認するとしよう……。念のために頭のページだけは書き写して同じものを作っておくか……」
ベラは似たような書類を作り、ボルブの油断を誘った。
「あのバカなら中身の確認などするわけがないからな。そもそも確認したところでなにもわからなさそうだが……」
作業進行中、どういうわけかボルブが入ってきた。
これにはさすがのベラも一瞬だけ驚きを隠せずにいた。
「言い忘れていたことがあった」
「は、はい。なんでしょう?」
「夕食は一緒に食べていきたまえ。別の使用人に食事を作らせている」
「ありがとうございます。しかしながら、今回はご遠慮させていただきたく……」
「なぜだ?」
「申し訳ございません。愛する家族が今日は準備してくださっているので……」
「そうか、なら仕方ない。羨ましいよ。うちのマルレットは料理など決してしないからな」
羨ましがりながらボルブは部屋を出ていった。
ベラはフッと安堵のため息を吐き、再び書類を盗むための準備にとりかかった。
そしてその日の夜、ベラはデジョレーン子爵邸から姿を消した。
彼の仕事を全て任せるため、ふたたび使用人を民間人から雇ったのだ。
「良いか? 本来は民間人になど公開してはならない社外秘の書類をまとめてもらう仕事をやってもらうのだ。口止め料込みで高額で依頼しているのだから、しっかりとやってくれ」
「はい。お任せください。私は口は固いのでご安心くだされ」
「うむ! キミを酒場で見かけたときから、話のわかる人間だと私は思えた。君のことは信頼している、よろしく頼むよ」
「ありがとうございます」
ボルブはなにも知らなかった。
この民間人は裏組織の幹部であり、国の情報を求めて頭の悪そうな貴族に接触を試みている者だということを。
「ところで、君の名はなんという?」
「ベラです」
「そうか。ベラか。良い関係を築けるよう期待している」
「はい、主人様に絶対服従いたします」
ボルブは、ようやく真っ当な使用人を雇えたと思い、浮かれていた。
いっぽうベラは顔には出さなかったが、こんなに頭の悪く間抜けな貴族がいるものなのかと呆れていた。
ボルブの部屋で、社外秘の書類をベラに託す。
「念のために、この部屋で作業をして、外には持ち出さないようにしてくれ。俺はこれからティータイムにしたい。ベラのおかげでようやく俺にもスローライフ生活が始まろうとしているのだからな。本当にキミには感謝したい」
「お褒めの言葉ありがとうございます。よろしければ、紅茶でもご用意いたしますか?(バカめが。スローライフどころか、俺たちの計画がうまくいけば貴族界全てが崩壊するだろうよ)」
「あぁ、本当に気が利くよな。今までのバカな使用人たちにベラの素晴らしさを見せつけてやりたいものだ」
「はは……」
ベラはボルブに紅茶を用意して、一人で部屋に閉じこもる。
「さて、全ての書類をすり替えてアジトでゆっくりと情報を確認するとしよう……。念のために頭のページだけは書き写して同じものを作っておくか……」
ベラは似たような書類を作り、ボルブの油断を誘った。
「あのバカなら中身の確認などするわけがないからな。そもそも確認したところでなにもわからなさそうだが……」
作業進行中、どういうわけかボルブが入ってきた。
これにはさすがのベラも一瞬だけ驚きを隠せずにいた。
「言い忘れていたことがあった」
「は、はい。なんでしょう?」
「夕食は一緒に食べていきたまえ。別の使用人に食事を作らせている」
「ありがとうございます。しかしながら、今回はご遠慮させていただきたく……」
「なぜだ?」
「申し訳ございません。愛する家族が今日は準備してくださっているので……」
「そうか、なら仕方ない。羨ましいよ。うちのマルレットは料理など決してしないからな」
羨ましがりながらボルブは部屋を出ていった。
ベラはフッと安堵のため息を吐き、再び書類を盗むための準備にとりかかった。
そしてその日の夜、ベラはデジョレーン子爵邸から姿を消した。
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